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わたくしの職業

この秋でハンガリーの首都、ブダペストに住み始めて三年目である。

ひょんなことから私はこの土地で大学院生として研究することになった。大学院生(特に博士課程)と聞いてピンとくる方はお気の毒にと思うかもしれないし、ピンとこない方にとっては未知の職業だろう。身分は学生なので仕事と言うと違和感はあるが、まぁ生業という意味では職業と言っても差し支えないと思っている。博士号取得までの道のりは長く、まだあと二、三年はこのあたりに住むことになりそうだ。

「なぜブダペストに」とは人生の中でよく聞かれる質問の一つであるが、なんてことなく興味のある研究室がそこにあっただけである。それだけと言えばそれだけであるが、実際は浪人時代に大阪の堀江でチェコやハンガリーの東欧雑貨のお店に出会って東欧には特別興味を持っていたことや、日本で全く無名の今の大学にたどり着くまで人々が私とハンガリーを繋いでくれたのを考えると、何だか運命じみているような気もしてくる。

ハンガリーにいるからといって特別何も変わらない。私は大学院生で、人間を相手に実験をして、学会に行ったり、論文を書いたりする。ただ二十年以上住んできた日本の常識(日本語を始めとして社会規範や文化的価値観)が通用しないだけだ。

これまで信じてきたことが当たり前ではない世界はなかなか恐ろしいが、何も悪いところばかりではない。むしろ常識によって考えることもなかった日常について改めて考えるべきヒントをくれる。

自分が人生の中で「外国人」になって生活する日が来るとは思ってもみなかったが、しばらくはこの外人生活を楽しみ、記録していきたいと思う。