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東欧の速いエスカレーター

ブダペストには地下鉄が四種類ある。最近できた四号線を除いては、ある一つの駅で全てが交わっている。その駅が、ブダペストの中心となるDeák Ferenc tér(デアーク・フェレンツ広場)である。

ヨーロッパでもロンドンについで二番目にできたという意外にも古い歴史を持っているブダペストの地下鉄なので、駅構内は古い。古いので、年中至るところで改修工事をしているが、このデアーク広場駅は三路線の拠点となり人の流れが多く完全に閉鎖できないためか、主要駅なのに他の駅より昔の設備のままのように思える。

駅名のフォントや構内の色調など、共産時代の名残が見て取れる箇所がまだ残っているが、その中でも特に印象に残るのはエスカレーターである。実際に来てみるとわかるが、とにかくスピードが速い。実際の速度はいくらなのかわからないが、体感としては日本の二倍ほどのように感じる。

一般に旧共産圏のエスカレーターは速いらしい。ハンガリー以外だとチェコにしか行ったことがないのだが、確かにプラハの地下鉄も速かった。行ったことはないがやはりロシアも速いらしい。ハンガリーもどこでも速いわけではなく、最近できたショッピングモールなどでは日本と大差ない速さなので、どうも特に地下鉄のエスカレーターが速いようだ。

ところでブダペストの地下鉄を舞台とした『コントロール(Kontroll)』(2003年)がある。どうやら日本では未公開なようなので日本語では見ることができないのだが、言語がわからなくても雰囲気を味わうことができる。

ブダペストに限らずヨーロッパでは自動改札がないところが多く、基本的にはチケットや乗り放題券を買って、乗る前にバリデート(乗った時刻を打刻してチケットを有効化)する。そのため乗車時に誰かにチケットを見せる必要がない。その代わり抜き打ちチェックがあり、係りの人が来た時に有効なチケットを見せることができなければ、数十倍の罰金が科せられるという仕組みだ。『コントロール』という映画は、地下鉄で繰り広げられる様々な乗客と検札員の戦い(及びラブロマンス)だ。

(※ちなみに迷惑な乗車客として、カメラで写真を撮りまくる日本人の集団が出てくる)

もう十五年以上前の映画だが、いまだにブダペストの地下鉄では検札員が徘徊し、今では必ず改札に一人は誰か立っていることが多い。まだまだ古い地下鉄の姿はブダペストに残っている。

しかしながらデアーク広場駅の一部には既に自動改札が作られ、そのうち機械化によってこの検札員という仕事も無くなるのかと感じた。また予告編にも出てきている青いソビエトの車両はかつて三号線の象徴だったが、今や全て真新しい白の車両に変わってしまった。数年のうちに世界標準の綺麗な地下鉄へと変わっていくのだろう。

歴史の資料などで過去がどのようだったかを知ることはできるが、エスカレーターの速さのように、その場にいないと体験できないことはたくさんある。記録しないに値にしない些細なことも、外国人の目としてみるとある種の文化として映り、面白い。はて、ハンガリー人が日本に来たらエスカレーターが遅いと思うのだろうか。