はじめてのアルバイト_表紙

【連載小説】 Adan #26

はじめてのアルバイト〈7〉

 僕はこのとき初めて聖良ちゃんのお母さんを間近で見た。聖良ちゃんとは血が繋がっていないのかな、とそんな疑問を抱かせるお母さんだった。僕は聖良ちゃんのお母さんにお辞儀して、「こんばんは!」と大きな声で挨拶した。ところが、お母さんは挨拶を返してくれなかった。

 しかし、聖良ちゃんのお母さんは僕のことをずっと見ていた。お母さんは車を発進させてからも顔を前に向けずに、大通りに出るまで、ずっと僕のほうに顔を向けていた。

「聖良は今、荻堂さんよりずっと落ち込んでいると思います。荻堂さんと付き合えるチャンスを、プライドって名の幼馴染みに邪魔されたわけだから」と正人くんが僕に歩み寄って来て言った。僕と聖良ちゃんの会話が彼の耳にも届いていたようだ。「聖良をテークアウトするためにこの店に潜入したという荻堂さんのその言葉を借りて言えば、ファストフードのような、安くて簡単にテークアウトできる軽い女だと聖良は思われたくなかったんでしょう。だから気後れしているふうを装ったんです」

 駐車場には僕と正人くんの二人しか残っていなかった。グレート・ルート・ベアと店長はいつの間にかいなくなっていた。

 その正人くんも僕をうんと慰めてくれたあと、例のおんぼろスクーターに乗って帰って行った。僕がローライダーの運転席に戻って、ハイドロスイッチのつまみのすぐそばにあるスイッチを起動させる電源ボタンに気づいたときには、もう誰もいなかった。

      ☆

「貴様、人類を『笑い死に』で滅亡させようって魂胆か?」と北斗が苦しそうに脇腹を押さえながら言った。

 つづく