はじめてのアルバイト_表紙

【連載小説】 Adan #24

はじめてのアルバイト〈5〉

 僕は窓を開け、それでは始めます、とみんなにそう告げた。ホッピングの練習はできなかったけど、僕は動揺していなかった。僕はこの新しい友が飛び跳ねる画を、脳内に鮮明に映し出せていた。イメージできていた。だから僕は陽気に口笛で「耳笛《みみぶえ》」というミュージシャンの「鼻笛を吹きながら」という曲を吹きながら、四つあるうちの一番左端のハイドロスイッチをつまんで、それをためらうことなく上にあげたんだ。

「今は独り言なんて呟いてる場合じゃない」と僕は独り言を呟いた。というのも、アースグリップを接続したのに、ローライダーがノーリアクションだったのである。

 僕はまたトランクを開けて、アースグリップを繋ぎ直した。そうして運転席に戻って、四つのハイドロスイッチを上下させたり、押したり、引いたり、叩いたり、さっきより力を込めて睨みつけたりもしてみた。が、結果は同じ。まあ、睨んだ通りだった。ローライダーは無意味なアイドリングでCO2の排出に励むだけで、僕の求めにまったく応じてくれなかった。

 それでは始めますと宣言して三分が過ぎ、五分が過ぎ、七分が過ぎていった。小粋なマフラーを装備しているものと思われる。渋い排気音がかえって恥ずかしかった。

 そうこうしているうちに、聖良ちゃんのお母さんが事故に遭うことなく、無事に愛娘を車で迎えに来てしまった。

 つづく