はじめてのアルバイト_表紙

【連載小説】 Adan #25

はじめてのアルバイト〈6〉

 僕はエンジンを切って車から降りた。そして僕はハイドロスイッチをいじくり過ぎて痺れていた右手をいたわりながら、運転席のお母さんと何やら話している聖良ちゃんのもとに駆け寄って、こう言った。

「ローライダーの奴、今日はどうも気が乗らないみたいなんだ。こんな日もあるよね。人間だって飛び跳ねたくない日に飛び跳ねようとは思わないもん。車のくせにわがままだって、僕はそうは思わないね。わがままな自分とは距離を置けって言われているけれど、その距離を置かれたほうのわがままと判断された自分からすれば、距離を置いたそっちがわがままだって思うだろうからね。わがままな自分と距離を置こうとするなんて、それがもうわがままな行為なんじゃないかな。つまり、わがままで居続けても、わがままな自分と距離を置いても同じ。いずれにせよわがままだってこと。って、僕はそんな考えを持っているから、この車のわがままや、人のわがままに対して寛容になれるんだよね、自分のわがままに対しても。ホッピングショーは後日、改めて開催しようと考えているんだけど、まあそんなことはさておき、聖良ちゃん。よかったら今度、あのローライダーで一緒にドライブしない?」

 聖良ちゃんの背後には愛娘の乗車を運転席で待っている彼女のお母さんがいる。窓が開いていたから、聖良ちゃんをデートに誘った僕の声はお母さんの耳にも届いていたはずだ。されど、僕の声を聞いたであろうお母さんの反応は描写できない。僕の視界からお母さんの姿は見えなかったから。なんだって? なぜお母さんがいるのにデートに誘えたのかだって? それは僕ではなく「恋」に訊いてくれ! で、聖良ちゃんの返答なのだけれど、それは次のようなものだった。

「そのような素敵な外見で、そのうえ、あのようなクールな車に乗っている荻堂さんとこんな田舎臭い私では、誰の目にも不釣り合いな男女に映ります。そういうわけなんで、おつかれさまです」と聖良ちゃんはそう言って、そしてお母さんの車の助手席に乗り込んでしまった。

 つづく