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”その競技畑”外からの知見と人材がカギ【作戦タイム】No.11

スポーツイベントが商業的に肥大化する一方で、実はじわじわ社会的背景は変わり、アスリートやスポーツの在り方が見直されている今。
資金不足から廃部になったり、スポンサーが見つからない苦境など、土壌の課題も高まっている。
そのカギは、「その競技ムラ」からの脱却

<スポーツ×人間社会>をつなげていくラジオ【作戦タイム】のシェア。日本学術振興会と大阪大学大学院の研究助成により、一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構(ADCPA)がお届けしています。

MCは奥村武博(ADCPA代表理事)×岡田千あき(大阪大学大学院人間科学研究科・准教授)。
ゲストの鈴木万紀子さんは、国会議員秘書やBリーグでの仕事を経て、現在は自身の会社を起業する傍ら、(一社)日本フットサルトップリーグ理事や(一社)トップリーグ連携機構のウーマンアスリートプロジェクトに携わり、ここで岡田先生と奥村を繋いだ。
実業団という企業スポーツが減ってきた今、収益化など運営の課題のために、競技縦割りではない知見の共有が必要になっている。

プロフィールなど詳細はhttps://www.adcpa.or.jp/sakusen-time

ダイジェスト⇩

無償提供ではなく、価値をビジネスとして伝える時代

鈴木さん
「日本独特だった実業団がなくなり、やむなくクラブチームとして運営していかないといけなくなって、ラクビーやハンドボールもプロ化の流れです。昔の企業スポーツは社内の福利厚生が価値でしたが、社会的にその必要がなくなってきて、広い意味での社会的価値も変わっています。
いくら金メダルを取っても、内部の機能とか受け皿やスタッフが不足していたら後が続かない、その課題もあります」

奥村
「社会人スポーツが減ってきたのは、企業の業績悪化だし、2011年なでしこ(女子サッカー)がW杯で優勝して盛り上がったのに続かないですね」

鈴木さん
メダル取りました、スゴイですね、ではなくて、それをうまくビジネス化しないと。なぜかスポーツは無償提供みたいな形になりますが、きちんと収益を出してビジネスパーソン向けにワークしていくのがスポーツの新しい価値だと思う。無償で伝える時代は変わり、競技を教えるだけではなくて、アスリートがわかっていない価値を伝える仕組みや土壌をつくっていくことが必要です」

奥村
「適切なペイですよね。ADCPAも、スポーツで得るのは競技成績の価値だけではなくて、マインドやプロセスに価値があり、それを社会に役立てるという意識に変えていく活動をしていて、それと共通しています」

マーケティングだけじゃなく、「土壌作り」ができる人材を

奥村
「スポーツビジネスってマーケティング分野の色が強くて、会計とか組織作りとかバックオフィスの色がないことに違和感がありますが…」

鈴木さん
「それも変わるかなと思ってます。意識が変わるには時間差があるので。昔は、スポーツでビジネスとは何事だ、「体育」であるべきだ、みたいな人もいましたが、今は、ファイナンスとかガバナンスとか競技の経営全般にスポットを当てる重要性を感じて、スポーツ経営に問題意識を持っている人は多いです。スポーツヒューマンキャピタルというJリーグのビジネススクールでは一体的に学んでいます」

奥村
「大きいスポーツイベントを使ってライト層が関心を持ち、盛り上がりを根づかせていく仕組みとか仕掛けはできないのでしょうか?」

鈴木さん
ライト層を取り込んでも、その土壌がないと続きません。スポーツ界ってその競技の人しかいなかったので、経営面を考えられる人がいなかったんです。大会の運営ではなくて、そういう土壌をつくれる人材が必要です」

必要なのは”その競技の経験”ではない

鈴木さん
その競技ではない知識を持った人が集まると発展していくと思います。私もBリーグの仕事をしてますが、バスケの競技者ではありません。Bリーグができる前は、ザ・競技団体の大学の体育会閥ばかり。その中で人事が決まって、その人たちだけで動かしてたから、経営の観点もないし、経営もしてない。統括団体もそんな感じ」

奥村
「企業スポーツは、会社の中の一時事業としてだったから、経営という意識もないのかも」

鈴木さん
「Bリーグ成功のポイントは、バスケ界ではない川淵三郎さんがやってきて、しがらみがないから改革できたところ。今の三屋裕子さんもそうです。その競技のことを知らなきゃいけない、経験してなきゃいけない、それが通例でしたけど、必要なのはそれではない。バドミントン協会にJリーグ村井満さんが行ったりとか変わってきました」

鈴木さんはBリーグの中の「Bリーグホープ」という社会貢献事業に携わり、難病で長期入院の子どもと選手が一緒に活動する「学校復帰プログラム」や、バスケを通じた防災の学びなど、選手やチームが社会課題を発信している。

鈴木さん
「×(かける)スポーツ。競技を教えるだけじゃなくて、選手やチームが発信する社会課題に興味を持ってもらって実行してもらうツールとしての価値です。発信力が大事なので、まずは選手や競技に価値がないと惹きつけられないけど。広告だけじゃなくて、選手が一緒に活動することで選手も競技外の学びになる。そしたらBリーグホープにスポンサーがつくようになりました。Jリーグは先を行ってますが」

奥村
「選手側の学びとしてもいいですね。ただ最初、選手からの抵抗はありませんでした?」

鈴木さん
「最初はありましたが、やっていくうちに自分から必要性を感じてやるようになったし、お金がついて拡がったことで市民権も得ました」

岡田先生
「HPを見ても、ただのバスケ好きじゃなくて、興味を持ってくれる人も出てきますよね」

勝ち負けだけではない、惹きつける付加価値を

鈴木さん
「本音を言うと、Bリーグってどんなに頑張ってもプレーとしてのダイナミックさはMBAには勝てない。バスケ好きな人はどうしてもMBAを見ちゃう。ではBリーグの価値は何かってなると、競技力や試合も大事だけど、それより付随するものにおもしろさがあると、熱狂してみてもらえる。親近感とか裏側とか、楽しくなる付加価値、チケット収入だけでないプラスアルファの価値をつけないと発展は難しい」

岡田先生
「その付加価値がテレビのバラエティではね…。それに向いてればいいけど」

鈴木さん
そうじゃないところで価値があるんだ、ということをリーグ主導でやる必要があります。選手自身も勝ち負けだけでは続かない。一流になると、誰かを喜ばせるとかに突き詰めていきますから」

奥村
「これは選手側のインセンティブにもつながると思う。例えば、バスケをやると社会貢献や学びもあるから引退後にもつながる選手のキャリア教育にもなる。先がある競技とそうでない競技の比較というか、優秀な選手が入りやすくなる。そうしないと産業もすたれてしまうと思います」

ノーカット音声はSpotifyで⇩
女性活躍社会の中でのアスリートの価値と課題  #6-1
これからのスポーツビジネス #6-2
競技力以外の付加価値が必要 #6-3

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目先の儲け主義ではない 先を見たマネージメントが必要

【アディショナルタイム】 配信考記 byかしわぎ

私自身も「まさにそのとおり!」と膝を打つような共感ポイントばかり。
これまでアスリートに関わりながら悶々と感じてきた違和感が、実はスポーツ界からも変わりつつある変化に、私は確信を覚えている。

勝たないと価値がない、というビジネス側の刷り込み

私はメディアビジネスとして関わってきた仕事柄、アスリート本人だけでなく、取り巻くマネージメントやスポンサーの姿勢を目の当たりにすることも多かった。

彼らはオリンピックともなると目の色が変わり、マーケティングが前面に出てきて、「勝たなければ意味がない」と平気で言う。
勝てばテレビなどで注目され、知名度も上がり、広告宣伝ビジネスに有利だから。

もちろん勝つに越したことはないけれど、それ以外"意味がない"と言葉にする世界。

私はメディアと言えども、報道や専門誌とは異なり、「人となり」や「プロセス」を深く発信するメディアコンテンツ制作という立場だったこともあり、たとえ負けたとしても、そこに人としての意味深さや価値が出てくる、という考えでアプローチしていた。

ところが取り巻くビジネスは、とにかく目先の儲けが大事。
もちろんお金は大事だけど、このビジネス的思惑「勝たなければ意味がない」"圧"で追い詰められるアスリートもいる。

勝ち負けではない価値は、遠回りに見えるけど長続きする

「勝たなければ」主義のビジネスは、儲ける近道として一理はある。
でも一時のブームは作れても、飽きられるし、続かない。

勝利を目指すのは前提としても、目先の利益だけの追求は、アスリート個人の価値も、その競技の価値も、食いつぶしてしまうことになりかねない、と私は危惧すら感じてきた。

競技外の社会貢献や「人として」へのアプローチは見えづらく地味。勝利や儲けに直結するのかわかりにくく、遠回りにも見える。

でも人って、実は「勝ちさえすればいい」というものには惹かれない。
「勝つこと」ばかりではなく、「そこに向かうプロセスや裏側」への「共感」や「楽しさ」「学び」
それが本質的な価値でもあると思うし、その価値が長く人の心に残る

その「勝ち負けではないプラスアルファの価値」は、「その競技畑ではない人」のほうが見えていることが多い。

そのプラスアルファに光を当てるのはメディアの役割。のはずだけど。
今の、特にパブリックメディアは、知名度基準による過剰な礼賛や美化、浮足立った煽り、はたまた、まるで芸人に対するかのような扱いや要求…。
こういった従来のメディア姿勢は、アスリートの本質を見えなくしてしまう。
これについては話が長くなるので、私個人の関連記事もご参考に。

私がずっと疑問に感じてきたアスリートを取り巻く「目先の儲け」ビジネス。これからは、メディアも含めたビジネスとして、アスリート個人にも、競技の土壌にも「長い目での価値づくり」という視点を持ったマネージメントが必要だと強く感じる。

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