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ADHD当事者が語る:実行機能の障害とは?

最近、認知度が高まってきたADHDですが、
「ADHDってそもそも何?」
と聞かれたら、なんて答えますか?

一般的なADHDの定義

ADHDについて学んだことのある人なら、こんなふうに答えるかも知れません。

ADHDは、Attention-Deficit(注意欠陥) Hyperactivity(多動)  Disorder(障害)の略で、その名の通り、注意力と多動性、衝動性に問題がある、子供の発達障害です。不注意なのでミスや忘れ物が多く、落ち着きがなく、衝動を抑えることが難しいです。

表面的な定義の弊害

このような一般的な定義は、ADHD当事者の私から見ても間違いとは言えませんが、ADHDの本質を捉えていないといつも感じます。

この定義は単に
ADHDの行動的特徴、要は「見える部分だけでADHDを理解する方法」のため、非常に表面的で、誤解を招きやすいのです。

ADHDの子供はよく喋り、活発なので、一見「障害」に見えません。
それが返って先生や上司、周囲の人たちをイライラさせる原因にもなるのです。

「わかっているのにやっている」
「わざと迷惑なことをする」
「好きなことしかやらない!わがままだ」
「すぐに怠ける」

ように見えるんですね。

そして、

「親の育て方が悪いから」
「先生の指導が甘いから」

と世間から批判されがちな保護者や教師は、ますます子供たちに厳しくあたるようになります。
その結果、ADHDの子供たちは多くの叱責や否定的な発言を受けることになります。

ADHD児は2万回も多く叱られている!

精神科医で作家のウィリアム・W・ドッドソン医学博士は、ADHDの子供は12歳までに、ADHDでない友達や兄弟に比べて、保護者や先生などの大人から2万件も多くネガティブなメッセージを受け取っていると推定しています

その結果、挫折感、羞恥心、自尊心の低下を招き、症状をさらに悪化させ、社会的・学問的な場面で効果的に機能する能力を損なう可能性があります。

両親、教師、その他の養育者は、ADHD児の行動を単に故意や意図的なものとみなすのではなく、脳の配線が少し異なる神経発達的、つまり実行機能の障害であり、本質的な理解をした上で、専門的なサポートや介入が必要であることを認識してほしいところです。

ADHDは実行機能の障害

近年、諸外国では、ADHDは実行機能の障害と言われるようになってきました。研究者たちは、ADHDの症状が脳の実行機能と深く関係していることを発見しました。
実行機能とは、計画、組織、始動、思い出す、自己調整などの認知機能のことで、ADHDの脳はこれらの機能を効率的に働かせることができません。

実行機能とは?
人間が日常生活で行う様々な課題を遂行するために必要な認知的な能力のことです。
実行機能は、脳の前頭前野などの領域が担当しており、計画立案、組織化、行動の開始や継続、課題の完了までの管理などを制御する機能です。

実行機能を使っているときには、次のようなことが起こっています。

◆ 計画を立てる:やるべきことを整理し、スケジュールを組み立てます。
例:週末に友達と遊びに行く計画を立てる:どこに行くか、何をするか、何時に集合するか、どのように行くかなどを決めるなど。

◆ 組織する:タスクを小さなステップに分け、順序立てて進めます。
例:部屋の掃除をする:まずゴミを拾い、物を片付け、整理したら、掃除機をかけ、最後に拭き掃除をするなど。

◆問題解決する:問題を分析し、適切な解決策を見つけます。
例:学校で難しい問題に直面した時:問題を細かく分解し、1つずつ解決策を見つけていく。

◆ 自制する:衝動的な行動を抑制し、良い判断を下します。
例:テスト前だからゲームを控える、Youtubeを見ない、明日は早いから、携帯の電源を切って早めに就寝するなど。

◆ 注意を集中する:注意を散漫にせず、タスクに集中します。
例:宿題をするときには、携帯やテレビなどの刺激を排除し、集中して取り組むなど。

ADHDの研究者として有名なトーマス・E・ブラウン博士の著書「子供と大人のADHDの新しい理解」では、ADHDを次のように定義しています。

ADHDの主要な特徴は"前頭葉実行機能"(判断力、意思決定、計画、組織化、時間管理などを含む脳の高次機能)の欠如によるものである。
これらはほとんど無意識の操作のシステムである。
これらの障害は、状況に応じて変動性を持ち、慢性的であり、その人の日常生活の多くの側面において機能を著しく阻害する。

【ADHDなら誰もが持ってる】状況変動性

人間の脳は誰でも興味のあることに集中しますが、ADHDの脳は新奇性や興味に敏感に反応するようにできています。ADHDの人は、興味のない分野には、それがどんなに重要であっても、意図的に注意を向けることができません。これを状況的変動性と呼びます。

この感覚はADHD傾向の人なら、結構体験していると思います。私も状況変動性が甚だしいですが、私がこれまで関わってきた児童生徒たちもそうでした。

Neuroscience of ADHD: the search for endophenotypes

目の前の状況が興味深く魅力的であれば、ADHDの人の強みや情熱に火がつき、ADHDの問題や実行機能の問題はほとんど現れません。ADHDの人は、状況が興味深く、自分の強みを使用できる特定の取り組みで、問題なく成功することができます。しかし、状況が退屈で困難なものであれば、その逆なことが起こります。状況による変動は、信じられないような強みが現れたり、信じられないような弱点が明らかになったりする格差の大きな原因であり、主に状況による変動が、ADHDの見えない矛盾を生み出しているのです。

Castellanos & Tannock (2002)

A New Understanding of ADHD in Children and Adults: Executive Function Impairments
ADHDは、人の注意力に影響を与える障害ですが、この注意力の欠如は、すべての状況において常に存在するわけではありません。ADHDの人には「状況変動性」と呼ばれるものがあり、興味のあることに注意を向けるのはすごく得意でも、つまらないと思うことに注意を向けるのに苦労することがあるのです。

ADHDの人は怠け者でも、やる気がないわけでもないことを理解することが大切です。すぐに興味を引かれないものには、なかなか興味を持てないかもしれません。しかし、自分が面白いと思うことをやっているときは、とても優秀でうまくいくのです。

ADHDの人の強みのひとつは、その強い好奇心です。彼らは多くのことに興味を持ち、周囲の世界に対して自然な好奇心を持っていることが多いのです。この好奇心を生産的な活動に向ける方法を見つけることができれば、それは本当の財産となり得ます。

Brown, T. E. (2013)

次回はADHDの状況変動性について、もう少し深掘りしていきます。

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