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「Don't Look Up」何も問題解決しないから、笑うしかない。

どうも、安部スナヲです。

社会風刺コメディの鬼才、アダム・マッケイが、名だたる名優を集結させて、政府、マスメディア、そして私たちを真っ向から斬って来ました。

半年後、地球に衝突する彗星が迫っていて、確実に人類が滅亡することが科学的に立証されたら、あなたはどうしますか?

【Best of“ダメプリオ”】

名優というのは、役によって変幻自在するのが当たり前かも知れませんが、ディカプリオほど年齢を重ねるにつれ、それこそ白から黒へ、ジワジワとグラデーションを描くように変貌して行った役者も珍しいのでは?と思います。

子供の頃から映画に出演し、「ロミオとジュリエット(1996)」「タイタニック(1997)」あたりまでは薄幸の美少年。そこから徐々に男っぷりを醸すようになって行き「ギャング・オブ・ニューヨーク(2002)」~「ディパーテッド(2006)」の頃になると完璧なハードボイルドスターに仕上がっていました。そして「ウルフ・オブ・ウォールストリート(2013)」以降のヨゴレキャラも、最近ではスッカリ板に付き、なんだか初めは可愛らしいペット犬だったのが段々野生の狼になって行く過程を見るようです。

近作では「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019)」での、落ちぶれてしまったかつての人気俳優、リック・ダルトン役でのダメっぷりが最高でしたが、この映画ではさらに「ダメプリオ」がアップグレードされていました。

今回、ディカプリオが演じた天文学博士ミンディは、博士は博士でもダメ博士です。

いつも鼻息が荒く、挙動不審で汚らしい。見てるだけでイラッと来ます。

しかも、精神安定剤に頼らないと人前で話すこともままらぬほどヘタレの癖に、たまたま出演した朝の情報番組の女性司会者ブリー (ケイト・ブランジェット)からの色仕掛けにアッサリ負けて××するわ、ちょっとメディア慣れしてチヤホヤされると調子に乗るわ、イケてない凡人の卑しさ全開。個人的には「ダメプリオ」のベストアクトを更新しました。

【人類の危機<利権】

アダム・マッケイと言えば、実在する政財界の人物をわかりやすくモデルにしますが、この映画に登場するキャラクターもあからさまです。

まず、オーリアン米大統領(メリル・ストリープ)

人類に危機が迫っているというのに「中間選挙にひびく」という理由でその情報を隠蔽しようとし、自分のハズ~いスキャンダルが露見しかけるや手のひらを返し、今度は飛びっきりパフォーマンスを利かせて「人類の危機に立ち向かいます!」と、正義漢ぶって彗星の迎撃を表明。

加えて息子のジェイソン(ジョナ・ヒル)が首席補佐官www

人を小馬鹿にしたようにしか喋れないこのアホぼんは、あたかも自分はものをハッキリ言い過ぎるが故に周りから敬遠されているが、それは正直者で本質を見ているからこそだと印象づけた気なマウンティングが殺意を抱くレベルでウザいです。

この言わずもがなな傲慢さとリレーションシップ。明らかにあの前大統領親子です。

そしてモロに「リンゴかじり社」の新作発表会パロディで登場するのが、巨大IT企業「バッシュ」のカリスマ創業者、ピーター・イシャーウェル(マーク・ライランス)

この人、無表情無感情で喋り方もなんだかロボットみたいなので、彼そのものがバッシュの最新AIちゃうのん?って感じもありますが、彼は件の彗星がIT製品の材料として価値の高いレアアースの宝庫であると知るや、ソッコー金儲けに結びつけ、迎撃とは別の採掘案で大統領陣をそそのかします。

さらに、ミンディに気に入らないことを言われた彼が、ビッグデータなどを応用したアルゴリズムで「死に方まで予想できるんだぞ」と、無表情なドヤ顔で脅すシーンでは、大笑いしながらその一方で、世界一のテクノロジーと財力を持つ人間の野蛮な本性を見た気がしてゾッしました。

いや、ジョブズはそんな人じゃないと思いますけどね!

【見る派?見ない派?】

いちばん初めにその彗星を発見したのは、ミンディの教え子の大学院生、ケイト(ジェニファー・ローレンス)です。

このケイトのキャラクターも絶妙です。

真面目な大学院生にはちがいないのですが、パンクスを印象づける鼻ピアスや割と過激めなヒップホップを好んで聴いていたりする様子から、反体制思想を秘めている優等生という感じで、この時点で既にちょっと萌えます

そして序盤、彗星衝突の危機をまともに取り合わない大統領に「この解釈であってますか?大統領はすべての情報を知った上で、“静観し精査する”」と怒りを抑えつつ、毅然と問いただす様子や、ふざけた反応しかしない朝の情報番組の司会者にキレる場面で、私は完全に落ちました♡

彼女はミンディとともに危機を訴えるべく奔走していましたが、前述の通り、政府筋はおのおの利権に固執するだけだわ、メディア筋は如何に面白おかしくするかしか考えない。挙句、世間からは「ちょっとイタイ子」扱いされてSNSで茶化されるわと、ろくでもない目に遭います。

さすがにアホらしくなったのと、関係者から蔑ろにされたことをきっかけに、彼女は一旦、本件から手を引きますが、いよいよ地球に接近してる彗星が、空を見上げると肉眼で確認できるようになって来ると、再び立ち上がります。

さすがにこの段階になると、ことの重大さに気づき危機感を抱く人が増えて来ます。彼女は「look up(空を見よ)運動」を起こし、そういう人たちを扇動します。

これを受け政府は「don't look up(見るな)運動」にて対抗します。

中には中立の立場を示すエセエコロジストみたいな映画俳優が出て来たりもしますが、人々は概ね「look up(空を見る)派」と「don't look up(見ない)派」に分断されます。

その状況は、新型ウィルス、あるいは気候変動などに纏わる「情報」と「真実」の間で振り回されている我々そのもので、映画の狙いもそこにあるのだと思いますが、この映画が辛辣なのは、いくら世論が白熱しても、何の問題解決にもならないということを「問題」にしているところ。

まして映画なんて観て笑ってる場合じゃありません!

…ってもう笑うしかおまへんがな( ̄∇ ̄)

出典:

ドント・ルック・アップ | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト


ドント・ルック・アップ : 作品情報 - 映画.com


Netflix Japan 公式Twitter

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