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「オッペンハイマー」批判できるのもケチをつけられるのも、映画を観た人だけである。

どうも、安部スナヲです。

噂の「オッペンハイマー」遂に観ました。

本国公開から遅れること8ヶ月。

やいのやいのと物議を醸し、こと日本においては半分ケチがつけらた感も否めませんが、何にせよ、観ないことには始まりません。

【あらましのあらすじ】

ドイツからのユダヤ移民としてアメリカに生を受けたJ・ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は、コツコツ勉強した甲斐あって物理学者として頭角を表す。

ひょんなことから陸軍将校レズリー・グロース(マット・デイモン)に見出されてしまったことで、原爆製造の極秘プロジェクト「マンハッタン計画」の主導者となる。

出典:映画.com

優秀な科学者達を率いて開発に勤しんだオッペンハイマーは、やがて人類初の核実験「トリニティ実験」を成功させる。

出典:映画.com

直後、アメリカ国家はヒロシマ、ナガサキへ原爆を投下。

オッペンハイマーは罪の意識に苛まれる。

政府が「赤狩り」を強行し始めた1950年代初頭、元々共産主義の影響が色濃かったオッペンハイマーは、ソ連のスパイ容疑にかけられる。

出典:映画.com

が、その背景には水爆開発の是非を巡って仲違いした、原子力委員会委員長ルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr)との確執も???

出典:映画.com

【感想】

のっけらから忙しないカット割りとたたみ掛けるような編集テンポに、既に脳味噌がオーバーヒートしそうになった。

交互に映し出されるモノクロとカラーの映像は、それぞれが別々のシチュエーションでそれぞれが物々しいムードのなか、何やら議論・答弁が行われている。

が、何やってんだかよくわからない。

せめて年代や人物名・属性くらいはテロップ表示してくれたら、もうちょっと楽に観られるのになと思うのだが、その緊張感込みで演出と捉えるべきなのだろう。

ノーランらしいと言えばらしい。

構成は基本的に、以下3つのラインが同時進行する格好になっている。

①ソ連のスパイ容疑がかけられたオッペンハイマーを評定する聴聞会。
②ストローズを閣僚に任命する公聴会。
③オッペンハイマーの半生回顧録。


この3ラインを掴みさえすれば、さほど複雑でもないのだが、如何せん状況説明が何もなされないので、物語に着いて行く為には辛抱強い集中力が求められる。

時系列の前後は、実は意外とわかりやすい。

何故なら登場人物たちの顔を見れば若いのか老いてるのかが一目瞭然だからだ。

完璧なエイジングメイクもさることながら、場面チェンジの時に顔のアップから始まることが多く、このあたりは時系列をわかりやすくための配慮だと思われる。

原爆開発に直接関わった、あるいはそこに至る物理理論を打ち立てた科学者が多数登場するのだが、如何せん何の説明もされないので、知識がない上では、パッと見でそれとわかるアインシュタイン(トム・コンティ)意外、誰がどんな役割を担っていたのかはほとんどわからない。そこは早々にあきらめた。

わからないなりに、テラー(ベニー・サフディ)が水爆の言い出しっぺであることと、原爆開発に反対しながらも、最後までオッペンハイマーの味方でいたラビ(デヴィッド・クラムホルツ)に要点を置いた。

この2人が、あそこに登場する科学者達のなかのラジカル派と倫理派の両極であると捉えると、幾分わかりやすくなる。

で、オッペンハイマーその人は?といえば、どちらとも言い難く、ただの自己愛が強い、共感能力の乏しい、野心も度胸もないフツウの男。

ま、勉強しかできないタイプの典型といった印象だ。

何れにせよ、この男が成り行きで原爆開発の主導者となってしまったことは、不幸と言える。

先の米アカデミー主演男優賞に相応しいかどうかは些か疑問だが、キリアン・マーフィーの演技は確かにスゴ味があった。

いつも理性と狂気のキワで強張ってる、あの表情を大画面で見せられるだけで、胃が縮む思いがしたものだ。

強烈なキャスト勢のなか、決して出番は多くないが、フローレンス・ピューが演じた共産党員の精神科医・ジーンが個人的に特に印象深かった。

あのどこかオリエンタルな色気とアンニュイな眼差しは、思い出すだけで切なくなる。

近作では「デューン砂の惑星PART2」のイルーラン姫役もそうだが、この女優さんは私なんかが抱いているイメージでは計り知れない魅力を秘めているのだなと、あらためて痛感した。

最も刺さるセリフが多かったのは、エミリー・ブラント演じるオッペンハイマー夫人・キティ。

出典:映画.com

ストローズが後年になって、オッペンハイマーを陥れたことに対する「執念深い人間は、忍耐強いわ」には背筋がゾクっとしたし、

終盤の聴聞会で、オッペンハイマーと共産主義との繋がりを立証しようと躍起になる検察官・ロッブ(ジェイソン・クラーク)へのキティの反論は胸のすく思いだった。

あのシーンは、よくある検察官が供述を強要する時の卑怯な論法を浮き彫りにしてくれるやり取りで、とても勉強になった。

問題のヒロシマ、ナガサキのくだりは、やはり…という反応。

これに関してはどうしても条件反射的になってしまうが、例えばドイツが降伏した後の「まだ日本が残ってるじゃないか」という物言い。

さらにトリニティ実験の成功からの原爆投下で湧き立つ科学者や民衆。

あんなのを見ると、そりゃハラワタが煮え繰り返るし、彼の国への憎悪嫌悪を禁じ得ない。

その反応こそが正しいと思ってる。

ただこの映画は、軍拡競争の諸悪の根源がここにあることを、作り手側もハッキリと意識している。

ノーランの狙いはわからないが、少なくとも彼の持てる技術とノウハウと熱意を総動員し、出来得る限りの映画表現で、その愚かさと恐ろしさを伝えていることは確信できた。

また観ようという気にはなれないが、観て良かったと思っている。

出典:映画.com


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