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「ヴァチカンのエクソシスト」真摯な信仰者によるキリスト教エンタメ

どうも、安部スナヲです。

知る人ぞ知る悪魔祓い神父、ガブリエーレ・アモルトの回顧録「エクソシストは語る」を映画化した「ヴァチカンのエクソシスト」観て来ました。

夫を亡くしたジュリア(アレックス・エッソー)は、娘エイミー(ローレル・マースデン)と息子ヘンリー(ピーター・デソウザ=フェオニー)を連れ、アメリカからスペインへ移住。

ジュリアは再起を図るべく、亡き夫の「遺産」であるサンセバスチャン修道院の改修にかかるが、次々に不吉なことが起こる。

そうこうしているうちに息子のヘンリーに異変?なんてなまやさしいもんではなく、父の死のショックで口がきけなくなっているほど繊細なヘンリー坊ちゃんが目ん玉ひん剥いて呪詛、悪口雑言の連発。まさか悪魔憑き?ということで、ヴァチカンの主任エクソシスト・アモルト神父(ラッセル・クロウ)の出番。

悪魔の毒牙からヘンリーを救い出そうとするが…。

教養は深いが決して知的ではなく、寧ろ人を楽しませるためにはどこまでも阿保になってくれる。そこが好ましい。

エクソシストの映画でありながら悪魔とのバトルシーンなどはマーヴェル映画かと思うくらいスペクタクルでアドベンチャー。

派手に炎があがったり、亡霊や怪奇化した聖母マリアや、やさぐれた堕天使が次々出て来て、ファンタジカルな空間で暴れまくる。

とにかくケレン味に満ちたエンタメ作品だ。

ただホラー映画としてあまり怖くはない。

恐怖シーンにしてもどっかで見たようなパターンばかりで、そこに物足りなさを感じなくもなかったのだが、悪魔憑きによる攻撃なんて基本ポルターガイストのお部屋荒らしとか、人を壁に激突させるとかなので、今更目新しさを出しようがないのかも知れないし、神父サイドによる応戦が祈りと念仏に徹しているのは寧ろエクソシズムたるポリシーなのかなとも思う。

役者陣は全員グッジョブ!

まずラッセル・クロウに神父はまったく似合わないのだけど、悪魔とガチで死闘するところを見ると、この男しかおらんと思わせらるし、神父でありながら清濁合わせ飲むハードボイルド感が良い。

出典:映画.com

そのバディであるトマース(ダニエル・ゾヴァット)は噛ませ犬的なザコキャラかと思いきや映画の中で成長し、ちゃんとアモルト神父の右腕となり、最終なかなかええ仕事をする。

出典:映画.com

ジュリア一家も3人が3人ともいい感じにクセが強くて良かったが、特にヘンリー役のピーター・デソウザ=フェオニーくんはちょっと恐れ入るレベルでスゴい。

端正なお顔立ちに異常な撫で肩、どこか異様な虚弱感が登場した瞬間からホラーフラグを立ててくれる。

彼は悪魔を演じることが楽しくてしょうがないらしいが、本当にそれが伝わってくるくらいノリノリで悪魔になり切っていた。

出典:映画.com

ストーリーについて。アモルト神父を実名で主人公にしているくらいなので、もっと実話ベースなのかと思ったら、概ねフィクションのようだ。

しかしながらちゃんと聖書に基づく天使と悪魔やキリスト教の歴史に根差すハナシにはなっている。

ポイントは「エクソシズムの98%は精神疾患など、悪魔意外の原因による」という前提。

確かウィリアム・フリードキン監督の「エクソシスト」でも、最初に悪魔祓いを依頼されたジェイソン・ミラー扮するカラス神父は、まず精神病理学について言及していた。

エクソシズムはまずこの前提を認識することが重要のようだ。

本作では、冒頭の「擬似悪魔祓い」シーンで、それが示される。

そしてジュリア一家が悪魔の標的にされる背景には、中世、正統信仰に反する信者が残酷に裁かれた「異端審問」が関わっていたりする。

さらにアモルト神父が「見捨てた」かつてのクランケは、聖職者による性加害を受けていたという設定であり、これも実際に問題視されている虐待諸々カトリックの負の側面を反映させている。

これらについて、そういう負の側面を映画の中で「悪魔の仕業」とするのは不誠実だと批判するレビューや意見がしばしばあるのも興味深い。

ガチのクリスチャンであるプロデューサーのマイケル・パトリック・カツマレクはアモルト神父の回顧録を映画化できたのは自身の偽りない信仰心がアモルト神父に伝わったからであると自信を持って主張し、映画をつくる以上はカトリックについてきちんと描くように努めることもアモルト氏に伝えたという。

国際エクソシスト協会、ならびに今はもう亡くなられているアモルト神父がこの映画をどうとらえるかはわからないが、製作陣(少なくともプロデューサーのカツマレク)は真摯な信仰者の立場からフェアプレーの精神でキリスト教エンタメを作ったのだと、私は思いました。

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