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起きたことすべてを覚えていたら疲れちゃうよ
僕たちの前を通る電車のせいで彼女の言ったことが聞きとれなかった。彼女は僕が聞きとれていないことを察したらしく、途中で喋るのをやめたようだった。電車が通り過ぎてしまうと踏切のバーが上がり、僕たちは歩き出した。「何て言ったの?」僕が聞くと「さぁ?忘れちゃったわ」と自分が言いかけたことに関して少しも興味を持っていないような顔つきでそう答えた。
「早いんだね、忘れるの」
「忘れようと思えばすぐに忘れら
白い髭の深い声を持つ顔の若い老人
「人には誰しも消したい過去がある」「人には誰しも言えない過去がある」「そういうものですか?」
風の気持ちよい草原のなかで、僕はその老人に尋ねた。髭は見ごとに白く、しわが目立だっていた。遠くから見たら、あるいは仙人に見えるような人だった。しかし彼の顔は意外なほど若かった。少なくとも僕はそういう印象を受けたはずだった。その白い髭と薄くなった髪の毛が似合わないと思えるくらい。
「そうだな」「たいてい
何かを無断で取られた感じがしたことに
「私には...やりたいことがありません」「いえ、正確にはやりたいことがありませんと言いたくなるほど熱中できるものがない、ということだと思います」
女性は的確に悩みを打ち明けることができた。
「それで、あなたは熱中できるものが欲しいんですか?趣味とかそういうものが」
悩める女に男が尋ねた。
「そう...ですね」「でも、こういう想いを他人にぶつけたところで私の悩みが永久に解消されないことはわかっていま