Diorama

恐ろしく風の強い冬の日に、そのジオラマは発見された。そこは使われなくなった朽ち果てた倉庫の地下で、ほとんど人が踏み入れない場所だった。ジオラマは簡単には見つからないように周りを無数にガラクタで囲われていた。しかし、ジオラマの周りは綺麗に片付けられていて、文字どおり塵ひとつなかった。すぐ近くには山積みにされたジオラマの部品が無造作に置かれており、最近まで誰かがこのジオラマに手を入れていることがわかった。

そのジオラマは、その街をものの見事に再現していた。道や建物はもちろんのこと、看板や電線のヨレ具合、ガードレールのへこみいたるまで、完全にその街を再現していた。歩いている人や店に入る人、ビルの中で働く人までも忠実に再現されており、まるで写真を見ているようだった。天井からは大きな電球がぶら下げられており、その明かりによってジオラマの街は昼のように照らされていた。電球の位置はちょうど正午。高さも計算され、影の出方も調整させれているようだった。電球には長い電源コードがついており、その電源コードは近くの電柱に直接繋げられていた。

ジオラマが発見された時、その場所には誰もいなかった。たまたま現地をパトロールしていた警官によって発見されたが、不審な物音も人の気配もなく、ただ煌々と電球がジオラマを照らしているだけだった。警官は応援を頼み、その周辺をくまなく捜索したが、特に手がかりになるようなものはみつけられなかった。

警察は丹念にこのジオラマを調査したが、調べれば調べるほど不思議なジオラマだった。そのジオラマの精密さは神がかっており、折れた標識や民家の屋根のスレ具合まで、どこをとっても完璧だった。まるでこの街を完全にスキャンしたかのようで、駅に向かって歩いている人の流れや橋の手前の道路が渋滞しているところまで、もれなく忠実に再現されていた。しかし、誰が何のために作ったのか。警察も首をひねるばかりだった。

しばらくして、ジオラマを囲っていたガラクタの下から白骨死体が発見された。死後三年以上は経っており、もはや個人特定はできそうになかったが、成人男性のものだということは判明した。また、ガラクタの中からいくつかの男の遺留品らしきものも発見された。衣類や生活用品に混じってひとつ封筒も発見されたが、その中には何も入ってなかった。結局、男がジオラマを作った目的は分からずじまいになった。

ジオラマはそのまま放置された。しばらくは噂を聞きつけた何人かがこの場所まで見に来たりしもしたが、場所が場所だけに次第に誰もよりつかなくなった。電球も撤去され、警察からも忘れ去られ、周りのガラクタと同様に埃まみれになっていった。次々に朽ちていき、ビルや建物が崩れて落ちていった。次第にジオラマは原型を留めなくなっていった。そして、いつしか倉庫全体が朽ち果てて、崩れ落ちていた。いや、倉庫だけではなかった。街全体がいつしか朽ちていたのだ。ジオラマと同じように、街は次第に活気がなくなり、人が出ていった。次第に忘れ去られ、建物は放置され朽ちていった。そして、最後にはジオラマと同様、街も原型を留めなくなった。

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