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体毛文化、復権!僕らの子孫が飛べない翼を欲しがるのは何故か。

 平成末年現在、永久脱毛が大流行しているようだ。
 街を歩けば、電車に乗れば、ネット広告を見れば、
 「初回1000円!」
 「あなたもツルツルすべすべの身体に!」
 「痛くないVIO脱毛…」
 空前の無毛ブームである。

 どうも今の人類は体毛を邪魔と感じているらしく、頭部以外の場所に生える毛を総称して「ムダ毛」などと名づけ忌み嫌っている。
 しかしその「ムダ毛」だって、バカだから無意味に生えてきたというわけではない。
 この世のほとんどの動物に生えていることからもわかるように、体毛というのはとても重要な役割を持っている!

 ●熱を留めて体温調節をしてくれるぞ!(今や服を着てエアコンをつけるから、関係ないんですけどね…)
 ●フェロモンを保持・拡散して異性を惹きつけてくれるぞ!(今や香水でわざと体臭を打ち消しますけどね…嗅覚は退化してフェロモンも感じないし…)
 ●皮膚を摩擦や衝撃から守ってくれるぞ!(今や服を着たほうがよっぽど安心ですけどね…)
 ●性差として表れ、異性に自分の個性をアピールするぞ!(今や首から下は人工物で飾るので、体毛で主張する機会が無いんですけどね…)
 ●実は触覚でもあり、危機回避能力を高めているぞ!!(今や危機とかほとんど無いんですけどね…)
 ●毒素を溜め、抜け落ちることで排出してくれるぞ!!(これは、ベンリ!でも気を使えば毒性を溜め込むこともない清浄な時代でございます…)
 とまぁ、体毛というのが実は極めて機能的な素晴らしいものかわかっていただけただろう!(そして文明の発展が体毛の役割を奪ったことも)

 そう、いまや人間は、衣服や家屋設備という外部ツールにモロモロの仕事を任せてしまうことで、体毛を必要としない生態を獲得してしまったのだ。
 なんでもかんでも体毛に任せていた昔より、色々な専門道具に分担して任せたほうが高性能だし、快適だ。
 まわりの人間を見渡してほしい。
 体毛の濃いヒト薄いヒト…毛が生えてすらこない部位が多いヒト。
 ホモ・サピエンスの体毛事情はあまりに個体差が激しい。
 もし胸や肩やお尻に毛が生えた個体をヒトの基準としたならば、他の動物なら病気同然のレベルで体毛を失っている人間があまりにもたくさんいる!
 人類は少し前から、体毛を失いツルツルになる方向へ進化の道筋を描き続けている…

【余談】
 しかしまぁ今現代ほど極端なツルツルブームは局地的一過性だとは思われる。
 現代でも体臭を大切にする人々は存在し、中国やヨーロッパ圏では女性でもムダ毛を剃らない文化圏は多い。
 デトックスの観点からすれば体毛の除去は毒素や老廃物を代謝できず皮膚に溜め込む一因になってしまうので、むしろ身体の内側から不衛生に…ということにもなりかねない。
 そんなわけで(毒性が皆無な食糧事情を確立した、ということが無い限りは)(もしくは日々の努力でヨガと岩盤浴を怠らない覚悟を決めた、ということでなければ)永久脱毛はほどほどがよろしいのかもしれない。

 さて、うすうす勘づいた人もいるのではないだろうか。
 「文明の進歩と体毛の退化が比例するならば、
 文明が退化したらヒトは体毛を取り戻すのではないか」
 ということに。

 これまでの記事で、地球に起こりうる様々な未来予想と各々に適応した未来人を提示してきた。
 今回想定する未来は、「地球温暖化が進み、南北の氷が溶け陸地面積が激減した地球」である。
 人間の活動範囲が狭まり、人類の生産能力が低下する。
 氷河期に至らず温暖化ルートに入る決定打は、隕石の衝突か地軸の乱れか…とにかく人が築き上げてきたものは、例によって地球の気まぐれで揉みくちゃにされる。
 そこは資源の少ない過酷な環境に回帰した地球…。

 そんな文明退化の未来で人間は体毛の便利さを思い出し、取り戻す。
 しかし猿のように全身に生えるわけじゃない。
 手を進化させる形で巨大な翼…つまり毛は毛でも“羽毛”を手に入れるのだ!
 なぜ温暖化した地球でヒトはわざわざ空を羽ばたけもしない巨大な翼を備えたがるのか?
 この記事では翼を獲得した人類を便宜上「翼人種(ウイングマン)」と名付け、その生態をあきらかにしていく。

なんでかっていうとカッコイイから。

 何故ヒトに翼が生えるかというと、カッコイイからである読むのをやめないでほしい!ふざけてない。
 各地の神様や天使や近代の創作物においても、古今東西で翼を持つ人型のキャラクターは登場する。
 普遍的に「大きくて美しいものはカッコイイ」という感性があって、翼という器官はそのイメージにピッタリだったのだろう。
 あまりにイカしてるもんだから、
「翼なんだし、とりあえず飛ぶだろう」とか、
「きっと高位の存在で、羽が多いほど偉いんだろう」とか
アレンジがエスカレートしちゃったりしてね!
 やっぱりカッコイイから盛り上がっちゃうんだね、翼があると。

 しかしこの感性、何も間違ってはいない。
 地球ではじめて羽を手に入れた生物は恐竜だった。その最初の1匹はどの恐竜なのかは諸説ある(というか定説が確立していない?)が、とにかく翼を持った恐竜たちは飛べはしなかった。
 そう、翼というのはそもそも飛ぶための器官ではなかった。
 では何のために羽を増やし、翼を備えるに至ったのか?
 研究者たちは議論した!!
 いくつもの説が飛び交い、奇説が生まれ、定説は何度も覆り、大きく4つの説がながらく激突していた!!
「飛べはしないまでも、滑空していたのでは?」
「いやいや、餌を捕獲するのに使っていたんだ!」
「走る時にバランスを取っていたんだよ」
「いやいやいや……  かっこいいからだろ?」
 なんと勝利したのは最後の説であった。
 決定打は、進化の過程で一度たりとも飛翔にかかわらない草食の恐竜が存在したこと。彼らは幼体の頃から走るのが得意なのだが、翼が生えるのは大人になってから…つまり飛ぶことにも捕食にも走ることにも翼が使われない、という事実が明らかになったのだ。

 その翼は正確に言うと、繁殖に役立っていたという。
 異性にアピールするためのディスプレイである。
 クジャクやキジを思い出してほしい。あの鳥たちのオスは非常にカラフルで目立つ羽毛を持っている。
 そのきらびやかさでもってメスに自分の優秀さを必死でアピールしているわけなのだ(ぶっちゃけ自然界であんなに派手な体色をしているのは不利である!しかし、それにもかかわらず綺麗な体を維持していることで生存能力の高さを証明できるし、発色の良さで自分が健康な個体であることも示すことができる!ロックだ…)
 ついでに個体識別に役立ち、抱卵や体温の吸排熱にも効果的だったというから、飛べない翼も馬鹿にしたものではない。

 まぁつまり端的に言って、生物的に「かっこいいから羽を生やす」のはごく自然な発想だ。
 むしろ空を飛ぶとか海を泳ぐとかという道具的な役割は後づけの追加機能であって、優秀な子孫を残すためにカッコつけることに命がけの動物にとっては、翼などカッコヨければ十分に存在意義があるのだ。
 そして我々人類は、数多の創作物でもって「人に翼が生えるとかっこいいと感じる」生物だということを証明してしまっている!!この事実が、未来人が翼を獲得する可能性の根拠足り得るのである。

飛べない翼に至る経緯

 生産力に限界が生じる海ばかりの地球では、色とりどりのファッションアイテムを生産・流通させるのは難しい。
 さらに標高の高い歪な陸地ばかりが残るので、上下移動が極端に増えることになる。するとあまり沢山の装飾品はつけられず、質素で動きやすい格好が好まれる。
 しかし服飾文化が衰退しても、カッコよくなって差をつけたい…!と、皆あいかわらず思う。

 だが一度ながいながい文明社会を経由した人類は、オシャレに対する要求がとても高度になっている。
 ファッションとは個性的で、刺激的でなくてはならない。
 しかし普段から質素な服装を着ざるをえないのだから、外部ツールには頼れない。
 上下運動が多いのだから、胸や尻、そしてお腹が大きければ生活に支障をきたすのでスレンダーになっていく。すると体型で判断するのも難しい。
 そこで体毛でもって容姿の良し悪しを決定するようになる。
 毛色が美しいとか、ボリューミーで威勢がよいとか、触り心地が良いとか、好きな匂いがするとか…五感で体毛を楽しむ感性を取り戻す。
 すると毛量は世代を経る度に増えていく。
 しかし最低限の服は着なければいけないし、人間特有の持久力と高い知能を維持していかなくてはならない。そうなると発汗による体温調整も捨てがたいので、身体の全範囲を毛で覆うわけにはいかない!
 毛の生える範囲は腕部から胸と背中にかけて、あとは股間周りといった具合だ。

 また、盆地が激減する以上農耕文化も原始的な方法が向くため非生産的に、食料調達は自然に頼る割合が増大する。
 すると収穫作業のために嗅覚や触覚を野生レベルまで戻す必要が生じるうえ、香水による不自然な強い匂いは邪魔になるし刺激が強すぎて忌避されるようになる。
 そして人類は、ファッションセンスで異性の良し悪しを決める価値観を捨て、自身のフェロモンでもって雌雄の相性を決める感性を取り戻すのだ。

 さらに複雑な地形を移動する上で生存能力を上げるため、腕を利用した空中運動を発達させていく。
 腕の筋力や巨大さが重要になっていき、肥大…
 ワキ毛からつながる腕毛が風を受け止めるようになると、風を切るための羽毛が生え始める。
 その派手で美しい毛は恋愛面でも有利に働き、羽毛を持った人種が増え始める…
 羽毛をまとった手の小指と薬指が発達し、肥大・伸長していくことで沢山の風を受け止められるようになり、空中での姿勢制御能力を特化させていく。
 それがついに鳥の翼と同じ構造になる頃、飛翔こそできないが滑空ができるレベルまで発達。
 人類は少ない土地面積でも社会を継続し、上下方向に発展していく住処(町)を形成するために落下死を克服しなければならなかったのだ。

 翼が大型化されれば、寒暖差の激しい時期の吸熱・保温や散熱にも有効な体温調節器官としての役割も強化される。

 ちなみに翼は手に入れるものの、手自体は残る。
 鳥というのは手足が三本指なのだが、ある程度の文明を維持する翼人種はそうはいかないのだ。
 手指のうち二本は翼に回したが、相変わらずスプーンやフォークは使いたいし多少精密な作業も必要なので、残りの三本は今の我々と同じ精度で残る。
 一見三本指になるが、翼を勘定に入れれば五本指を維持する形だ。

翼人たちの築く社会

 翼人たちの生きる世界は移動が大変で、現代ほど清浄ではなく自然の毒物や文明崩壊で汚染された環境で生きねばならず、けっこう過酷だ。
 そのため人類はだいぶ数を減らすのだが、あいかわらず高度な社会動物であるためむやみに子供を作って増やす…ということも嫌だ。しかし現代のように意図的な装飾や振る舞い、わざとらしい匂いでもって異性を選択する理性的な恋愛を楽しむ余裕もない。
 そこで翼という器官によって本能的で、かつ恋愛的な高度な感情で子孫を積極的に残す体毛文化を復権した。

 その社会は日々の暮らしを維持するだけでもなかなか忙しく、事故や異性争奪戦も激しい世界だ。

 そのため彼らは恋愛や愛情を大切にし、家族単位で共栄する助け合いの社会を形成する。
 彼らの社会性はやはり現代人と通じる複雑さであり、協調性がある。
 というと多少懐かしさこそ感じるが、つまり今の我々とほとんどかわらない人間性を持っている。
 彼らの翼は、過酷に変貌した地球環境でも現代と変わらない普遍の心を維持するためのしわ寄せとして現出した器官と言える。

 翼人種の祖先になるのは、良くも悪くも恋愛脳、家族や恋人を大切にする情の厚さをもち、いつでも異性にモテることを考えている…そんな人間にちがいない。

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