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無為をみつめる

ぼくは君を奪われても、一矢も報いることができないよ。それでもいい?
変なプロポーズだよね。結婚した日に植えた櫟の木が庭を覆うくらい大きくなった。
エプロンをしている君が好きだったけれど、今はもう、それも失くしてしまった。ここではない他の世界には、君がいるのではないかと妄想する癖がついた。たとえそんな世界があったとしても、垣間見ることさえ許されないのなら、それは無いのと同じこと。そんなことはよくわかっているんだけどね。
ぼくの日はいつ来るのだろうと、この頃よく考える。その日が待ち遠しくもある。
日々は時計とともに過ぎていく。今日は昨日の線をなぞるように。たまに起きるイベントは、凪いだ水盤に一滴の水を落とすけれど、その波紋が縁に届く間もなく、鏡の日常に戻っていく。


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