オレンジの片割れを探して 男に振られたその日にレズビアンバーに行ってみた

「あなたは私のオレンジの片割れ。2つに割ったオレンジを合わせるとピタリと重なるように、自分の半身のような伴侶を指すスペインの慣用句だそうです。美しい言葉ですね・・・・・・

 はじめまして。ペンネームをオレ・オレンジにすることに決めた24歳女です。本文は、私が私のオレンジの片割れを探して、煩悶する日々を記録することが目的なため、このようなネーミングにしました。どうぞよろしくお願いします。

 先日、人生で2人目の彼氏にお別れを言い渡されました。よりによって、私の地元の行きつけの某チェーン店で。その店は地元で唯一(多分)コンセントが自由に使えて23時まで開いている店で、仕事を持ち帰ったときなどに重宝していたというのに。立ち直りの早い私とはいえ、2週間くらいは行く気になれませんでした。そういう話はもっと実用性のないこじゃれたカフェとかですべきだなと学びを得ました。

 ふられた私は、どういうわけか、とても明るく彼と世間話をし、彼の今後の幸せを願って激励しました。そしてその足でホームセンターにむかい、趣味の植物の世話用のグッズをあれこれ買って、帰宅後、家にあった育ち過ぎた植物の株分けをしました。そして、3か月くらい前から合わないと感じていたジムの退会手続きを行ったあと、前々から気になっていたボランティア活動の見学にいき、再び帰宅しました。
 時刻は午後7時。私は、素早く化粧を直すと8時の列車に飛び乗って、地元から2時間弱の都会に向かいました。

 目的地は、週に1度営業しているレズビアンバー。昔から私は、親しい異性は恋人に、親しい同性は親友にという感覚がよくわかりませんでした。「恋人がほしい、一番近くに居られる存在がほしい」と思うのはいつも、性別を問わず親しい友人と一緒にいるときでした。そしてそう感じるほど親しくなる人の割合は、女性のほうが多い。
 これまで一生懸命彼氏を作っては深い関係になる前に破局しているのは、ターゲット層が適切ではなかったからかもしれないと、そんな仮説を建ててみたのです。

 真っ暗な車窓を見ていると、ようやく虚しさとさみしさがこみあげてきました。列車に乗るまでがハイテンションすぎただけで、振られた後のテンションとしてはこちらが正常でしょう。
 そしてもう1つ私の心を重たくしていたのが、隣町のホテルが本日ほとんど満員だったこと、空いている場所は、普通のビジネスホテルで軒並み2万円代からだったことでした。新型コロナが5類に移り、観光業が復活した某都会では宿泊費用がインフレしていました。もちろんカプセルホテルの類は全滅。だけど、当時投げやりになっていた私は、直前にキャンセルで空きくらいできるだろうと、何の策も持たずに観光客で溢れかえる某都会に赴いたのでした。

 これは自慢なのですが、私は結構女性に好かれるタイプと自負していました。なので、もしかしたら、女性相手にはモテたりするんじゃないか、そうだったらいいなと浮かれた気持ちでバーに入店しました。
 
 今思うと、どうして酒が飲めない人間が酒場でモテると思い込んでいたんでしょうか。
 バーで出会った若い女の子の集団に入れてもらい、誘われるまま2軒目のスナックへと移動すると、飲めるものと言ったらオレンジジュースと緑茶くらい。ダイエット中だったので、ひたすら緑茶を飲んでいました。私は素地金入りの下戸で、うっかり友達のカクテルを数口飲んだ日には、徒歩15分の自宅にもまっすぐ帰れなくなるほどです。

 カラオケで曲を入れ順番に歌い、PVに特定のものが映ったときにマイクを持っていた人が酒を飲む、という遊びに入れてもらいました。私は「GReeeeN」のキセキのPVで、おじいちゃんが映った瞬間、どうしたらいいかわからず緑茶を一気飲みしました。
 大学ではいわゆる大人しい人がマジョリティのサークルばかり掛け持ちしていたので、初めて触れる文化でした。どうにかこの場にふさわしいなにかをしたいと、精一杯頭をひねってT.M.Revolution「HOT LIMIT」を入れてみました。「この曲入れたの誰ー?」「なんでー」という声が次々に上がりました。違ったようです。未だになにが正解だったのかわかりません。

 彼女たちはオールする流れのようでしたが、私は流石に疲れ果てていたので戦線離脱。カプセルホテルには当然空きはありませんでした。それでも私はネットカフェの個室に宿泊した経験があったので、そこでもいいやと某都会の「快活クラブ」に向かいました。深夜3時に3軒ハシゴした結果、全席空き無し。完全に観光地の週末を舐めてました。
 汗でドロドロになりながら、たどりついたカラオケボックスで2時間眠って、翌朝始発に乗ろうと駅に向かったら、人身事故で全ての列車が遅延していました。

 交際破局から約21時間後、自宅で冷凍から揚げをあたためながら、そう簡単にはいかないよなと自分の浅はかさを反省しました。

 それにしても、これで交際経験2人、経験人数0人という謎のステータスを持った20代半ばが誕生してしまいました。性交一歩手前の経験はあったり、いわゆる風俗店に行ってみた経験はあったりするのですが、これもいつか書けたらいいなと思います。
 思うに、どちらも0のほうが、まだ未来に希望が持てるような気がします。伸び代があるので。
 私の場合、大学時代からマッチングアプリをいれ、友人に紹介を頼み、服装や髪型、メイクはよくわからないので、お店の人のアドバイスを丸のみにすることで、それなりの水準を保てているような状態です。
 正直もうできることが思いつかない。もう、思い切って整形に挑戦するか、人格を叩き直すくらいしか、本当にやることが思いつかないですが、できればどちらもやりたくない。
 
 果たしてオレンジの片割れは実在するのでしょうか、恋人とうまくいっている人たちが言う「上手くいくコツは妥協」だとか「出会いはタイミングだよ」とは一体何を指しているんでしょうか。
 昔から恋に憧れているのに、十人中九人には「恋人いらなさそう」と言われ、親しい女友達がぽろっと口にした「このまま独身だったら友達と一生暮らしたい」なという台詞に一喜一憂する私も、いずれそんななんでもない風に恋愛について語る日が来るのでしょうか。私がこの10年くらい悩み続けていることが、さらっとした思い出に変わる前に、不器用な推定バイセクシャルが考えたり悩んだりしていることを、書き残していきたいと思っています。


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