思考論_第一章_のコピー

2-2|物事を考えるのに役立つ4つのツール【1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法】

 単に意識をコントロールして縦横無尽に動かし、俯瞰・抽象化せよ、と言ってもメタな視点を持っていなければ仕方がない。そこで出てくるのが物事を考えるための補助線となるツールである。具体的に言うと、物事を分解するためのツールと、物事の関係を考えるためのツールである。

✁ -----

たくさんの方に手に取っていただいた「1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法」(プレジデント社)。大反響を記念して、8/14限定で全文を公開します! 令和時代の生き方・働き方をぎゅっと凝縮した一冊です。

 
 物事の関係性を考えるときの大きな武器となるのが、全体を正しく分ける技術であり、物事の分け方を知っておくことである。
 会議で議論が錯綜しているときにズバッと核心を突く発言ができる人がいると思うが、そういう人は必ずしも頭の回転が速いわけではない。入ってくる情報をその都度、きれいに整理するコツを知っているのだ。

 ではそのコツを身につけるにはどうしたら良いか?
 一つはビジネスの世界で頻繁に耳にするMECEが有効である。

「MECE」で物事を全体的に整理する

 MECEはMutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの頭文字を取った言葉で、「相互に背反しているが、それらの総和は世の中のすべてを包括する」という意味である。モレなく、ダブりなく情報を仕分ける方法で、マーケティングやビジネス戦略用語としてもよく使われる手法でもある。インターネットで検索すれば、たくさんの事例が出てくる。

 我々ビジネスパーソンは日々様々な課題解決を図っている。しかしその課題は複雑な問題が絡み合っているケースも多い。そこでそれぞれを小さな要素に細分化してシンプルにすることで、より集中して解決策を検討することが可能になる。これを「構造化」と言うが、この構造化の指針となるのがMECEというわけである。

 もし情報のダブりやモレがあると、全体像を正しく把握できず、正しい判断を下せなくなる可能性がある。効率も悪くなるだろう。しかしMECEを使って考えることが習慣になっていると思考のモレが起きにくくなり、問題解決に向けてスピーディに進めることができる。

「二項対立」で物事を正しく分ける

 物事の全体を正しく分けるためには、物事を考えるときにいつも「ペア」を想起し、その相手を考えることである。このペアのことを二項対立と言う。「抽象と具体」「長期的と短期的」「効率と効果」「インプットとアウトプット」「量と質」「入口と出口」などのことである(図16)。

画像1

 こうした普遍的な二項対立を頭に入れておくことで、分解能力は飛躍的に上がる。
 慣れてくると対立する内容を自然と考えるようになるので、ほぼ自動的に一段上の次元から対象を捉えることができる。一段上から捉えることで、新たな視点と選択肢を持つことができるのだ。二項対立は思考家にとってイロハのイであり、これがないと仕事にならない。ちなみに私がいつも使っている二項対立は2つある。

 「目的と手段」と「原因と結果」である。 なお、二項対立は「善と悪」や「重要と非重要」といった価値概念の対立は含まないため、物事を公平に分けることができる。

1 目的と手段
この分け方が役に立つ理由は2つある。
一つは「目的はさらに上にある目的の手段となっている」という法則が成り立つためだ。つまり、対象を見たときに「これが手段だとしたら、目的は何だ?」という疑問が湧いてくる。もう一つは「手段は常に代替可能である」という法則があるからだ。ある手段を試して万が一うまくいかなくても、この二項対立の考え方を通じて別の手段を想定しておくとうまくいくことが多い。

2 原因と結果
大半の人は「結果」しか見ないが、本質的な課題は常に「原因」にある。
たとえば今期の売上が前年比30%増の20億円になったからと言って、来期の売り上げが25億円になるとは限らない。20億円は結果であり、その数字につながった原因、すなわち何かしらの仕組みがある。もし来期に25億円を目指したいなら、分析すべきは原因であるこの仕組みであり、その仕組みを明らかにしたうえでそれが来期も通用するのかという分析を行わなければならない(図17)。

画像2

 世界最高の投資家であるウォーレン・バフェット氏は、「株式投資の極意は何か?」と聞かれて次のように答えた。
「私は、投資という分野では代数の知識の必要性を感じておりません。企業の価値の源泉を探ることだけが私の仕事なのです」
 世の中の証券マンが上側の世界(結果の世界)で複雑な専門用語を用いながら必死に顧客に株を売りつけようと努力しているとき、バフェット氏は下側の世界(原因の世界)にいて、「その鶏は、来期にどれだけの卵を産むのだろうか?」とゆっくり考えているのだ。

「ロジックツリー」で物事を分解・整理する

 MECEと二項対立に加え、もう一つ紹介するのが、皆がよく知っているロジックツリーである。
 ロジックツリーは個々の物事を分解・整理するためのツールである。問題に構造を与える分解表記法とも言える。ロジックツリーについては様々な本にまとめられているので参照してほしい。
 ここではロジックツリーを作成するときのコツについてまとめておく(図18)。

画像3

 たとえば図19のAに「少子化問題」が入るとしたら、B?Mには何が入るだろうか。少し考えてみてほしい。

画像4

B?Eは5分以内、F?Iは10分以内に入れられるようになればこの問題は合格である(解答例は図20参照)。

画像5

「コーザリティマップ」で物事の関係を考える

 ロジックツリーは物事を分解するのは得意だが、個別の物事の関係を整理するのには適していない。そこで出てくるのがコーザリティマップである(コーザリティとは「因果」を意味するcausalityのこと)。

 同じテーマでも、図21の上図のようにロジックツリーで整理するのと、下図のようにコーザリティマップで整理するのとでは異なる。

画像6

 ロジックツリーは構造の分解を行ううえで役立つが、コーザリティマップではさらに物事の循環・流れを明らかにすることができる。
 物事は分断されず有機的につながっているはずだ。それを明示的にするのがコーザリティマップである。コーザリティマップが描けるようになると、より深いレベルで考えを導き出すことができるだろう。

画像7

次はこちら

目次に戻る


最後まで読んでいただきありがとうございます。 スキ、シェア歓迎です!励みになります。