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パンクロック 3

エリックのブレイザーにバイトして買った黒のアイバニーズRGを積んでザックのスタジオに向かう。

着いてみるとスタジオというより倉庫だ。田舎のローカルバンドが練習をするのはメンバーの家のガレージか倉庫と相場は決まっている。こういう場所は『物置き』の意味で、Shedと呼ぶことが多い。空き地のような場所に10くらいの部屋が並んでいる。

ザックはドアを開けっぱなしにしてドラムを叩いていたので、どの部屋かすぐわかった。他の大きめの部屋は、ドアではなくガレージのようなシャッターがついている。クルマいじりをしているレッドネックたちがジョイントを吸いながらこっちをみていた。

「ヘイ、ザック。こいつが話してたすけちゃんだよ」

ザックは坊主頭のスケーター。なんとなく見覚えのある顔なので、話してみると、共通の友達が何人かいた。僕の以前いたバンドをハウスパーティーで見たことがあるらしい。

ザックの横にいた赤髪の女の子を

「彼女のテラだよ」

と紹介された。カウボーイハットを被り、ピタッとしたジーンズにブーツ、胸元を大きく開けたシャツを着ている。田舎には結構このタイプのかわいい子がいる。

実はテラとは数学のクラスで一緒になったことがあった。久しぶり、と挨拶を交わす。会話はそれ以上弾まない。日本人とアメリカ人ギャルのやり取りなんて大抵こんなもんだ。

まずはみんなで音を出してみる。マーシャルアンプにケーブルを直に繋ぐ。メタルじゃないから、エフェクターで歪ませなくてもいいだろう。BossのMetal Zoneは質屋に売っちゃったし。

ザックのドラムはちょっとモタつくこともあるが、8ビート中心で叩く僕の好きなスタイルだ。そして時折入れるフィルのセンスがカッコ良い。

そしてエリック。倉庫がビリビリ震えるくらい、ベースの音がバカでかい。

ボリュームを下げるか?いや、このままでいい。

僕が単純にパワーコードをつなげていき、その上をエリックがベースで歩き回る。おお!いいじゃないか!今ままでやってきたギターリフ中心で組み立てるやり方は捨てよう。エリックの声もいい。前はもっと鳥みたいな変な声だったぞ。

実は僕とのバンドが解散したあと、エリックは地元でそこそこ知られたスカバンドでベースを弾いていた。その影響だろう。以前とは全くスタイルが違う。ボーカルもハードコア的なスクリームじゃなくて、ちゃんと「歌」になっていいる。

帰りの車の中、

「明日ボーカルを連れてくるから」

とエリックが言った。

「え?誰?」

「ダレルだよ。知ってるだろ?前モヒカンにしてたあのIdiot」

「知ってるけど、あいつ歌上手いの?」

「Dropkick Murphysを歌ってたけどまあまあだったぞ」

こんなふうに選任ボーカルとしてエリックの旧友ダレルの加入が決まり、全てのポジションが埋まった。

第一期メンバー:
エリック Bass・Vocal
僕    Guitar
ダレル  Vocal  
ザック  Drums

2回目の練習ではRancidの『Salvation』をコピーした。原曲とは全然違うダレルの声がバッチリはまり、The Clashの『Guns of Brixton 』もエリックとのツインボーカルでまあまあの出来だ。このカバー2曲を合わせて8曲が揃った。これだけあればライブが出来る。

初ライブは僕とエリックが再会した、あのヒッピーオヤジのレコード屋のオープンマイクでやらせてもらうことになった。のちにこのヒッピーオヤジの企画は年々大きくなって、この街のちょっとした音楽イベントにまでなっていったことを記しておく。

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