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第73回 戦国自衛隊(1979 東宝)

 さて、千葉真一追悼レビューのトリを1日遅らせたのにはちゃんと理由がありまして、本日9月9日は男色の日です。

 というわけで、連続レビューの最後の一本はBL的映画鑑賞と銘打ったからには絶対に外す事の出来ない『戦国自衛隊』でお送りします。

 原作は半村良、千葉ちゃんと自衛隊の愉快な仲間達がタイムスリップして夏八木勲演じる長尾景虎(上杉謙信)といちゃいちゃして天下を狙うという単純明快な筋で、角川映画特有の莫大な予算をつぎ込んだ合戦シーンが売りの見た目の押し出しで勝負な映画です。

 テレビ時代劇では常連の斎藤光正がメガホンを取り、日本の『アメリカン・グラフィティ』を目指したという話ですが、その実態はカラテ映画に時代劇と戦争映画を接ぎ木して巨大化させたような仕上がりで、とにかく千葉ちゃんが格好良い所を見せてくれます。今風に言えば異世界転生ものでもあります。

 そして、角川映画は偶然では説明がつかないレベルでホモ臭い作品が揃っており、本作も公私ともに仲の良かった千葉ちゃんと夏八木勲の濃厚な衆道があまりに有名ですが、実は他にも多数の矢印が飛び交う乱れっぷりです。戦国時代はむしろノンケが変態なのです。

 角川映画なので綺麗どころもちゃんと揃っていて濡れ場も完備ですが、なんと女優陣は事実上全員セリフゼロです。角川映画でもここまで露骨にホモソーシャルに走った作品は稀です。

 ヤンホモ狂犬受けの渡瀬恒彦、スター錦野に隠れた恋心を燃やす鈴木ヒロミツ、暴君化していく千葉ちゃん、褌デートが強烈過ぎて忘れられているカップリングも余すことなく解説していきます。

戦国自衛隊を観よう!

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真面目に解説

角川映画という商法
 角川映画というのは描いてその名の通り、角川書店の角川春樹が製作に携わった映画を指します。これらの作品群は内容はさておいても、日本の映画の歴史を語る上で決して避けて通れないものです。

 従来の日本映画は各映画会社が撮影所、俳優、配給網を自前で持っていて、それぞれが映画を作るのが普通でした。

 ここへ割って入ったのが角川春樹でした。角川書店の本を原作にした映画を作れば相乗効果で両方売れるだろうという発想です。当時の角川書店の文庫本を古本屋で買うと、しおりが映画の優待券になっていたりします。

 役者やスタッフは高いギャラで自由に集め、撮影所はレンタル、配給もどこかしらの映画会社に任せてしまいます。一本の単価は高くつきますが、人員や機材は抱え込まずに済むわけです。

 その一方で角川サイドはテレビでCMをジャンジャン打って宣伝に力を入れ、前売り券をせっせと売って収益を確保します。どちらも従来の映画人が嫌がるやり方で、それを「よそ者」だからこそ角川は出来たわけです。

 つまり、角川映画は今で言うメディアミックスというわけです。映画単体で儲ける性質のものではないので、当時としては並外れた予算で作ることが出来、角川映画は70年代終盤から80年代にかけての日本映画の頂点に君臨したのです。

 本作はこの手法で角川映画が軌道に乗り始めた時期の一本で、映画を作るからには一度は正月の時代劇を、という角川春樹の都を制する的発想で製作に至り、狙い通り大当たりを取りました。

 ところが角川映画は恐ろしく贅沢に作られ、当時は大ヒットした反面、今では顧みられることの少ない作品が殆どです。つまり、話題先行で高く売り抜けた側面があります。

 その点本作は『蒲田行進曲』と並んで例外に属する作品であり、おそらく後々まで残るだろう映画です。後世に残るのが真の名画なのです。


アメリカングラフィティ要素
 前述のとおり、角川春樹としてはアメリカングラフィティを狙って作ったそうですが、私の知っているそれとはえらい違いです。青春群像劇を目指した痕跡は確かにあるのですが、明らかに別種の何かに仕上がっています

 むしろ千葉ちゃんはイーストウッドの『戦略大作戦』を狙っていたというので、思えばこの発言は角川春樹の独り相撲だったのでしょう。

 むしろそれっぽい要素を挙げるとすれば、これまた角川式のメディアミックスの一環として劇中歌に力を入れている点です。サントラもついでに売ろうというわけです。

 映画同様豪華な歌手を揃え、あまり映画の内容と関係ないナンバーを好きに歌わせるのが特徴で、映画の方は忘れられてもこっちだけは後世に残っているパターンもあります。

 本作でもメインBGMは羽田健太郎ですが、事あるごとに戦国時代も自衛隊も全く感じさせない歌が流れます。ちゃんとそれっぽく聞こえるのは斎藤光正の構成力の賜物なのでしょう。

 特にジョー山中の歌うエンディング曲の『ララバイ・オブ・ユー』は千葉ちゃんも後年愛唱したという名曲です。ただ、流れるシチュエーションがあれなので私にはゲイソングにしか聞こえません。


自衛隊の自衛
 演習中に伊庭三尉(千葉真一)率いる陸上自衛隊の一団が何かの間違いでタイムスリップしてしまった事でこの映画は始まります。戦車、ジープ、装甲車、更には哨戒艇にヘリコプターまで巻き込まれて合流し、機械化部隊が戦国の世に放り込まれるわけです。

 ところがこの映画、自衛隊の映画として観るとガタガタもいい所です。というのも、クーデターだの天下取りだのと物騒に過ぎる内容なので自衛隊に協力を拒否されてしまったのです。

 隊員の着ている制服からして米軍のそれを改造してそれっぽく見せています。協力を断られた以上、自衛隊に似ているとむしろ不味いのです。

 問題は乗り物の方で、これは角川の資金力に物を言わせて自作してしまいました。使い捨ては勿体ないのでその後も色んな作品に使い回された人気者が揃っています。『ぼくらの七日間戦争』の戦車も本作の物です。

 もっとも、考証は適当ですが金をかけただけあって戦闘シーンは目を見張る出来です。ハリウッドの大作にだって負けていません。それを証拠に本作は海外でも売れたのです。

 哨戒艇は正直オマケ扱いですが、ヘリコプターは自作できないので民間会社からチャーターしてそれっぽく塗装して間に合わせています。むしろメカ的には戦車よりこのヘリコプターが主役です。

 パイロットの清水二等陸曹を演じた加納正氏は機体と一緒に借りてきた日本有数の腕利きパイロットで、本作の戦闘シーンの出来はこの人の貢献によるところが大です。ヘリボーンで城を制圧する時代劇というのは後にも先にもこれだけでしょう。


JACの心意気
 対する戦国サイドで大いに頑張るのが千葉ちゃん率いるJAC(ジャパンアクションクラブ)の面々です。彼らの力なくしてこの映画は出来ていません。

 海からの弓での襲撃や、わざわざ専用の馬を輸入して調教したという忍者の曲乗りなどは今の日本でやれと言っても無理でしょう。リアリティはないですが無限のロマンがあります。

 ちなみに、忍者を率いている真田昌幸は角川春樹が出しゃばり、もとい陣頭に立って演じます。金を出したのはこの人なので、この程度の役得はありでしょう。

 一方千葉ちゃんもボスとして若い衆に負けてはいられないので馬に乗って弓を乱射し、刀を振り回して大暴れです。

 武家を俗に弓馬の家と称し何しろ千葉ちゃんは柳生十兵衛なので殺陣だってお手の物ですが、自衛隊で教えてもらえないこの技術を伊庭が何処で学んだのかは聞いてはいけないお約束です。

 そして、何気に本note初登場で美味しい役どころなのが、武田勝頼を演じる真田広之です。言うまでもなく日本が世界に誇る国際俳優であり、JACの出世頭であります。

 出番の尺は短いですが若衆ルックで決めたイケメン勝頼は若さ爆発のアクションと殺陣で大いに存在感を見せます。この後も真田広之は角川映画の常連となるわけですが、この人については後に譲ります。


隊員の葛藤
 青春群像劇っぽさを演出するためというと身も蓋もないですが、一緒にタイムスリップしてしまった隊員たちもそれなりに苦悩し、見せ場を作って死んでいきます。

 伊庭の右腕ポジションの県(江藤潤)はインテリなのでタイムパラドックスを避ける為に伊庭をコントロールする役目を負っています。

 伊庭のお気に入りのスナイパー三村(中康次)は事実上メインヒロインの現地の娘みわ(小野みゆき)を連れ歩いて事態をややこしくさせます。この小野みゆきがセリフ無しなのに実にいい仕事をしています。

 戦車の操縦手の丸岡(倉石功)は近在の後家さんの所へ夜這いに行って佐藤蛾次郎以下雑兵とじゃんけんで順番を決めたりと、この映画はとにかく女をコンドーム扱いしまくっていきます。

 その極致が恋人の和子(岡田奈々)と駆け落ちする気だった菊池(にしきのあきら)の存在で、錯乱して脱走した彼を心配だからと付いて行く西沢(鈴木ヒロミツ)との関係にこそ力が入っています。岡田奈々をコンドームにするとは勿体ない話です。

 一方男装して若武者役で特に必然性なく出てくるのが角川映画の常連だった薬師丸ひろ子で、木村(竜雷太)はドン引きしつつ倒されます。この辺は完全に角川春樹の趣味によるのでしょう。

 た苦悩するマラソンランナーの森下(速水亮)はライダーXなのにバイクなしで伝令に走り、グラサンの根本(ムッシュかまやつ)は現地の孤児と仲良くなって板挟みになり、野中(三浦洋一)は頻尿の気があってバカにされますがこれまた現地の婆さん(本間文子)に「死んだ孫に似とる」と言われ、挿入歌も歌っている妻子持ちでヘタレの平井(高橋研)は優遇されて長生きし、とにかく隊員は全員それなりの見せ場を作っていきます。


現代のバーサーカー
 一番ヤバい奴が不穏分子の矢野(渡瀬恒彦)です。明らかに他の隊員より格上のキャスティングなので当然この狂犬は暴れます。

 矢野は伊庭に反発し、平気で他の隊員を殺し、挙句は他の隊員を引き込んで略奪と強姦に走って内ゲバを発生させる有様です。戦国時代に生まれていれば大名になれたでしょう。

 矢野は過去に伊庭に裏切られた過去があり、その当てつけでこんな事をしている節があります。つまり、矢野は手のつけようのないヤンホモなのです。

 千葉ちゃんと渡瀬恒彦がやり合って血を見ないわけがなく、二人の争いが長いこの映画の中盤の肝なのです。


お前は虎になれ

 タイムスリップした一行は現地勢力の襲撃を受け、犠牲者を出しながら撃退します。その結果そいつらと争っていた長尾景虎(夏八木勲)と一行は接近します。

 この景虎が実に良いキャラで、伊庭に機関銃を撃たせてもらって大はしゃぎし、なし崩し的に伊庭たちは景虎に加勢してしまいます。戦国大名ともなれば有無を言わせないカリスマがあるのです。

 景虎は流石に上杉謙信だけあって恐ろしく強く、何と言っても戦国武将なので殆どバーサーカーです。敵将(中田博久)の首を討取って大笑いして隊員はドン引きです。

 一方伊庭は千葉ちゃんなのでやっぱり戦闘狂であり、この一件で完全に景虎のカリスマに魅了され、二人で褌一本で天下取りの夢を語らってしまう間柄になるのです。

 そして伊庭は景虎と一緒に天下を取ろうと狙って景虎の君主小泉越後守行長(小池朝雄)を討取り、あの有名な海岸デートに至るわけです。

 二人で上洛しようと新婚旅行の約束まで取り付けて戦国時代をエンジョイする伊庭ですが、戦国時代も政治が必要なので二人の仲は最終的に悲しい方向に進みます。

 もっとも、細かい話はBL的の方です。


オーパーツVS名将
 伊庭は完全にガチホモバーサーカーに変身し、自分達だけで川中島へ武田信玄(田中浩)を討ちに行きます。明らかに調子こいてます。

 なので何も考えずに突撃したのが悪く、事前に近代兵器の情報を仕入れていた武田信玄はきっちり対策を練っています。殆どの兵器と隊員を伊庭は失ってしまうのです。

 かの西郷隆盛は西南戦争で熊本城の難攻不落ぶりに「清正公と戦は出来ん」とこぼしたそうですが、近代兵器があっても相手はあの武田信玄なのです。なろう系を書いている人はこの辺を考えて他と差を付けましょう。

 伊庭は三尉にしては歳なので、おそらくその辺の機微を学べる防衛大学を出ていないのでしょう。もっとも、最後は伊庭がランボー並みの大暴れでケリをつけてしまうのですが。

BL的に解説

角川映画BL説
 角川映画というのは沢山ありますが、どれもこれも異様なホモ臭さを湛えています。例えば『蒲田行進曲』を思い浮かべて下さい。議論の余地なしです。『魔界転生』はジュリーと真田広之のキスが、『汚れた英雄』は事あるごとに出てくる草刈正雄のケツが山場です。『セーラー服と機関銃』さえも原作ホモレイプの勢いです。

 原作者も、監督も、製作時期も違う大量の作品群が押しなべてホモ臭い。これは偶然で片付ける事は出来ません。そう、全ては角川春樹の趣味だと私は思うのです。

 角川春樹の息子が男にセクハラをしたという醜聞は有名です。そして、同性愛は遺伝するというのは今のところ科学的根拠はありませんが、二丁目においては経験則として広く信じられています。経験則は馬鹿にできません。経験則を理屈でくるんだのが科学なのですから。

 金を出しているのは自分だからとばかり毎回ちょい役で出演するのを無上の喜びとしていた氏の事です。氏が男もイケる口だと仮定すれば、ホモ要素を入れてくれくらいの要望を出すのはおかしくありません。

 そして角川春樹バイ説を信じるとするなら『アメリカン・グラフィティ』にホモ要素を見出すのは当然であり、本作がこんな風に仕上がるのもまた必然でありましょう。

 いずれにしても、角川映画は基本的に上質なBLです。その上で原作も読めば一粒で二度美味しい。たまには素直にメディアミックスの目論みに乗るのも悪くありません。


伊庭×県
 この二人をトップバッターに持って来たのは、伊庭が県を明らかに特別扱いしているからです。物語の始まった時点での正妻は県なのです。

 第一に、二人だけ他の隊員と違う制服を着ています。この世界の自衛隊の服務規定は不明瞭ですが、いずれにしても二人だけ違う制服を着ているのは変です。

 そればかりか、首の赤いバンダナまでお揃いです。これは軍事的見地からは単なる邪魔なアクセサリーであり、伊庭の趣味以外の何物でもありません。

 そう、この非合理的ペアルックは県が伊庭の物である事を示す物であり、バンダナは言わば二人の結婚指輪なのです。この伊庭の趣味は後々さらに重要な意味を持ってくるので覚えておきましょう。

 もう一つ注目したい点は、県はインテリでありながら大学教授の父に反発し、父の一番嫌がる事をやる為に自衛隊に入ったという裏設定です。

 つまり、県の行動原理の第一は父への反発なのです。息子が自衛隊に入ったばかりか、ノンキャリアのロートル幹部の小姓に収まるというのは頭の固い大学教授殿にとっては大変体裁が悪く、ホモのホモ嫌いの教授仲間相手に肩身の狭い思いを強いる妙手です。

 伊庭に身体を差し出す事で父に復讐する。ホモレズノンケを問わずよく見る展開ですが、そうして伊庭に抱かれるうち、県の行動原理は父への反発から伊庭への愛に変質していったのは明白です。

 県は伊庭を助手席に乗せて夜道を走るさなか、金星の位置がおかしいという高度な天文学的見地からいち早くタイムスリップの予兆に気付きます。

 伊庭は千葉ちゃんでありバーサーカーです。どうでもいい部下がこんな事を言って起こしたらぶん殴られるはずです。

 そうしなかったのは、県が星を愛するケツマンもといロマンチストである事を伊庭は知っているからです。演習地で二人寝転がり、寝物語に星座のレクチャーくらいはやったことがあるはずです。

 そんな県なので星座のモデルになったギリシャ神話の登場人物同様嫉妬深く、矢野のヤンホモを一番警戒しています。

 伊庭にナイフを投げつけた矢野を見る目は狂犬相手なのに泥棒猫を見るそれです。青春群像劇などノンケ相手の建前に過ぎず、BL的にはこの映画はどろどろの愛憎劇なのです。

 タイムスリップしてしまった際に伊庭が最初に意見を求めたのも県でした。もっと経験豊富な曹(下士官)は沢山居るのに、第一に県なのです。

 県は景虎との邂逅で間違いなくタイムスリップしてしまったと確信し、隊員にその旨を説明します。当時はこの言葉も概念も広く知られていなかったので県は優位にあります。この講釈は状況説明である以前に正妻の地位を守るための優秀な右腕アピールです。

 襲撃で二人の死者を出して錯乱する伊庭を止めるのも県です。この分だと全員伊庭の小姓なのでしょう。正妻の座を守るのも楽ではありません。

 そして伊庭はタイムパラドックスを恐れる県に無理矢理ジープを運転させ、自ら敵を迎撃します。この男気があればこそハーレムを作れるのです。

 県はこの期に及んでも歴史へ介入する危険を隊員に説き、却って隊員を不安に陥れます。勿論これは伊庭を独り占めするための可愛い独占欲の顕れです。

 初日の犠牲者を埋葬し、脱走者まで出て墓前でうなだれる伊庭に寄り添うのもやっぱり県です。景虎とホモった挙句天下取りをぶち上げた伊庭をいさめるのも県です。

 歴史が自分達を殺すかもしれないという脅しの入った説得に県のメンタルの乱れが見て取れます。正妻の座が景虎に脅かされているのです。しかも、伊庭は県の説得を突っぱねたのですから大変です。

 おまけに矢野が拗ねだして伊庭に裏切られたと恨み言を言います。県はこれに憤慨して伊庭が処分を軽く済ませた伊庭を庇って喧嘩になってしまいます。

 矢野の反乱鎮圧の為にヘリに乗り込んだ伊庭に、意味もなくペイロードを圧迫しながら乗り込んだのも正妻の座を守るための強硬策です。一緒に撃墜されれば結果オーライです。

 伊庭が後家さんへの夜這いをセッティングした時も県は行きませんでした。景虎は居ない、二番手争いの相手の三村は現地妻を獲得、菊池は怪我人の上和子一筋。となれば伊庭は県の独り占めです。

 川中島での作戦を地面に枝で描いて思案する伊庭をじっと見つめる県。そこには崇高な愛が見えます。

 本番でも県は伊庭の運転手の座を譲りません。武田方は県を伊庭の小姓と認識したに違いありません。

 ラリードライバー並みのドライビングテクニックで途中までは大暴れしていた県でしたが、ジープを失い、トラックを失い、ヘリコプターを失い、ついには槍を振り回して自分で何とかしちゃった伊庭の元生き残りを果たします。

 燃料の無くなった戦車は川に捨てられ、いよいよ銃と僅かな手勢だけが伊庭の元に残ります。

 県は駄目押しを狙ってかまた金星の位置がおかしくなったと真偽不明の事を言って補給地に帰れば昭和へ戻れるかもしれないと説きます。

 ところが、伊庭はあの武田信玄を討ったものですからガチホモバーサーカー状態になっていて、県を「怖気ついた」となじり、天下を取れば戻れると言います。勿論口実です。

 文句を言う奴は殺すとスーパー攻め様状態の伊庭ですが、県は伊庭が戦国の世に居たいだけだと正妻だけにズバリ見抜いて意見します。

 伊庭は戻って自衛しているより戦国の世で暴れたいのです。そしてついには暴力に訴えて隊員を黙らせ、「時代なんかに潰されてたまるか」と凄く格好良い事を言います。

 しかし、伊庭は見事に時代に潰され、全員矢でハリネズミとなります。しかしその時、部下たちの中で一番前に居たのが他ならぬ県です。最後の最後に正妻らしいところを見せて県は散ったのです。

 景虎もこれには感涙することでしょう。伊庭の小姓の忠義は上杉家の語り草となり、伝説となるのです。


伊庭×三村
 三村は誰にでも優しく男前でいて連隊きっての狙撃手であり、強い男フェチの気がある伊庭のストライクゾーンをずばり撃ち抜く極上のオスです。

 しかし、いい男過ぎるのが仇になります。多分現代でも相当モテたのでしょう。たまたま通りがっかた百姓娘のみわに欲情し、水辺で洗濯している百姓娘にも欲情し、早くも女日照り状態です。

 みわの方も恐ろしく重い女で、たまたま出くわして目が合っただけの三村が百姓娘に欲情しているのを見て後ろから突き飛ばす有様です。小学生男子のアプローチです。

 これはイケるとスナイパー特有の勘で見抜いた三村は異様に逃げ足の速いみわを追いかけ、河原で取っ組み合った挙句訳の分からないうちにヤっちゃいます。なら最初からヤっちゃえばいいのにと思うから私はモテないのでしょうか?

 女をゲットして絶好調の三村は矢野の反乱に際して伊庭から狙撃任務を仰せつかり、見事に達成します。伊庭の寵愛もばっちり確保するのですから極めて優秀な兵士です。そして、矢野を仕留めれば側室としての序列が上がるのですから抜け目がありません。

 伊庭の天下取り宣言に最初について行くと表明したのも三村の抜け目のなさです。これは大きなアドバンテージです。「どうせなら一暴れして死にたい」というのも伊庭の性癖をよく分かっています。続いて賛同した県に「戦争ごっこだぞ」とかますのはまさにスナイパー。あとは景虎を闇討ちすれば俺のものと思っていそうです。

 ところが、執念深い者同士は惹かれ合うという事か、みわが出陣した三村にどこまでも勝手に付いてきます。最初こそ突き放していた三村ですが、川中島へ向かう道中でついに内縁の夫婦になります。

 おそらく三村は伊庭の機嫌を損ねることを危惧したのでしょう。ところが三村の狙いは都合良く外れて伊庭は二人の仲を祝福し、他の部下には近所の後家さん(絵沢萌子)に夜這いをかけてこいと命じる名指揮官ぶりを見せます。女関係はノータッチ。これが良きゲイカップルです。

 みわは川中島にまで付いてきます。武田騎馬軍団など愛の前にはロバのパン屋さんに過ぎないのです。そして、愛の力で見事二人とも生き延びます。

 県の補給地へ戻ろうという提案に三村も賛同しますが、伊庭はガチホモバーサーカーモードなので「女が出来て腑抜けになった」と名指揮官を返上してスーパー攻め様爆発です。

 妻子の居る昭和に帰りたいとヘタレながらも優しさを見せる平井を伊庭は挙句拳銃で脅します。

 それに対して伊庭に銃を向けて無言の反抗を示す隊員達。一番いい位置から狙っていたのが三村です。ここへきて三村も反抗期突入です。

 平井の歌う『スクリーンに雨が降る』の流れる中、みわに拳銃を渡して最後は自分を殺してくれと頼みます。請け合うみわもみわです。ベストカップルです。そして、これは伊庭ではなくみわの為に死ぬのだという反抗の顕れです。

 そして、景虎の矢を射かけられた瞬間みわは見事三村の注文をやってのけます。これは間接リバであり、千葉ちゃんが受けに回った貴重なシーンと言えます。


三村×森下
 マラソンランナー森下は明らかに円谷幸吉をフィーチャーしているので、恐らく禁酒禁煙禁女コーチ(勝野洋)に言い渡されています。女は足に来るというわけです。

 その上世間に良く思われていない自衛隊に属しつつ国家の威信を背負う重圧は並大抵ではなく、鬱憤をため込んでいます。トレーニング中にへたり込んですれ違うブルマ姿のバレーボール選手に欲情して苦悩する有様です。

 しかし、軍隊は員数と要領と申します。自衛隊も同じでしょう。つまり、男ならいいのです。衆道が戦国時代に流行った背景には戦場が女人禁制であった事が根底にあるとされているので、森下は戦国時代向けの男だったわけです。

 その相手が誰あろうイケメン三村です。人知れず苦悩する森下は、タイムスリップで走らなくてもいい開放感を三村にカミングアウトするのです。

 人に言えない悩みを打ち明けるのはBL的には求愛行為です。以後も二人はいちゃいちゃします。

 みわが何処までも三村に付いてくる問題も森下が焚き付けた事で丸く収まりました。森下は仲人です。結納を頂く権利があります。

 伊庭の夜這い司令にも野中、平井と三人で出掛けていきます。そして、森下の提案で事前に全裸になっていくのがこの映画の本質を物語っています。

 一方、佐藤蛾次郎以下三人の武士も裸に兜のマニアックスタイルでやってきます。じゃんけんを教えて仲良く順番を決めて夜這いをかける男六人。これはもう実質ホモ乱交です。いくら美熟女爆発の絵沢萌子と言えども所詮は戦国の女です。

 ところが、蛾次郎は武田方だったのです。蛾次郎は刀を戦車の砲身に詰め込んでかなりの活躍ぶりです。そして、窓越しに野中と眼が合ってしまうのです。実に『アメリカン・グラフィティ』っぽくて私はこのシーン大好きです。

 そして、森下はヘリコプターに武田勝頼がへばりついたのを知らせる為に伝令に走り、忍者に斬り殺されます。
 
 マラソンは古代ギリシャにおけるマラトンの戦いで伝令に突っ走って死んだ兵士を讃える競技なので、この死に方はマラソンランナーの本懐と言えましょう。伝令は失敗でも犬死にではなかったのです。

 そして、極楽の蓮の葉の上で森下と三村はお互いの健闘を称え合い、盛るのです。みわは怒らないでしょう。戦国の女ですので。
 

伊庭×矢野
 二人には爛れた前日譚があります。クーデターを企てるグループに属していた矢野は、その計画を阻止する為に潜入した伊庭をそうとは知らず深く信頼し、裏切られたのです。

 この時期に自衛隊でクーデターとくれば、これはもう三島先生の影響が無いはずがありません。少なくとも、首謀者は先生とヤっているはずであり、グループそれ自体が首謀者の楯の会であったとするのが自然でしょう。

 そんなハッテン場で深く信頼し合う極上のオス二匹。これで何もないはずがありません。狂犬が唯一信頼するご主人様に売られたとなればそりゃあ大事になります。伊庭はスーパー攻め様が過ぎて男の嫉妬心を見落としたのです。

 伊庭が計らって下っ端の処分は軽く済まされ、矢野は伊庭の手元に置かれています。これは今でも伊庭が矢野を愛している証拠です。

 しかし、矢野ときたら完璧に拗らせてクレイジーサイコホモ状態です。それは当然でしょう。裏切られただけでも面白くないのに、伊庭は自分を差し置いて県を正妻に据えて三村にも色目を使う有様です。

 千葉ちゃんは『エクスペンダブルズ』に出たいと願いながらかないませんでしたが、伊庭はバーニーであり、矢野はガンナーです。県が弱いクリスマス三村を一回り大きいヤンとすれば完璧に同じ構図になるのです。

 矢野は伊庭の気を引くために意味も無く伊庭めがけてナイフを投げつけたりします。伊庭はこれに全く動じず「こんな物はしまっておけ」の一言で片付けるのですから、最初から矢野はこんな感じだったのでしょう。

 それに対して矢野は持ち歩いている木で作ったおもちゃの拳銃を向けて伊庭を撃つ真似をするというのも相当に高度なBLです。

 この木製の拳銃は専守防衛という総受け宣言に縛られる自衛隊のメタファーという説が有力ですが、BL的に解釈すれば違います。貴方に掘られ過ぎて私の股間の拳銃はもはや不能ですという矢野の当てこすりです。表現の自由は日本国憲法21条に定められるところであり、憲法9条と同格です。映画をどんな解釈で観ようと自由なのです。

 襲撃してきた騎馬隊に真っ先に応戦したのも不運にも矢を食らった矢野でした。伊庭の制止も聞かず機銃掃射で騎馬隊を撃退するものの、伊庭に「今度命令に背いたら許さんぞ」と叱られ、傷口を指示して不貞腐れます。こいつは萌えますね。

 伊庭が部下の死についに専守防衛の建前から解放されて打って出た時には矢野も慌てて子分の加納(河原崎建三)に運転させて追いかけます。これは伊庭へのアピールであり、県へのけん制です。我こそが伊庭義明が正室なりという戦名乗りです。

 そして黒田の立てこもる砦の門まで敵を追いかけて来た伊庭の車に矢野はオカマを掘ります。実質リバです。そして伊庭が巻き込まれる危険を承知で手りゅう弾を投げ込みます。のっけからSMが過ぎます。

 加納が合戦を目の当たりにして興奮するのをいさめられても、矢野ときたら「伊庭三尉と同じことをしただけ」と拗らせ発言で伊庭を積極的に巻き込んでいきます。

 そして県から何か大きな衝撃があれば現代に戻れるかもしれないと知らされて火薬に火をつけて手っ取り早く衝撃を起こそうとした海自の高島(伊藤敏孝)を髭を剃っていたナイフを投げつけて殺します。

 当然伊庭は怒ります。「何故足を狙わん」という至極尤もなお叱りにも伊庭から授かったという「目的は確実に果たせ」という言葉を持ち出して反抗期です。

 なんなら矢野は伊庭が自分に構ってくれないから意味もなく人を殺しているのです。まさしく狂犬受けです。

 伊庭の天下取り宣言も矢野は一笑に付します。矢野の性格を鑑みればクーデターより百倍楽しい提案のはずですが、狂犬だけに臭いが分かるのでしょう。伊庭の股間の槍に付いた景虎の糞の臭いが。

 しかし、どんなに憎んでも惚れた弱みと言うのが「裏切られるのは好きじゃねえんだよ」という本作の最尊ワードから明らかです。

 愛する伊庭三尉となら無理筋のクーデターでもいけると矢野は信じ切っていたのです。しかし自分を裏切った伊庭と、裏切られた自分の馬鹿さ加減が許せないのです。他の隊員もこのヤンホモぶりにはドン引きです。

 県がこれを咎めますが、もはや末期状態の矢野は県をぶん殴ります。拳骨じゃなくて平手なのに注目下さい。矢野の中のメスが反応した証拠です。

 伊庭に止められてにらみ合う二人。伊庭のハーレムは今や愛の重さで崩落の危機に瀕しているのです。

 矢野のヤンホモは反乱という最悪の形で爆発します。加納と島田(三上真一郎)を連れて哨戒艇に乗り込んで小野三尉(辻萬長)を刺し殺し、海自最後の一人の須賀(角野卓造)を抱き込んで沿岸の村を襲撃し、女を誘拐して犯します。マッドドッグのマッドポリスがマッドマックスです。

 須賀ときたら女とやり放題と知って王様になると宣言してノリノリになる外道ぶりですが、矢野は全く女に手を出した気配がありません。そう、男性機能を喪失した矢野はもはや女に興味などないのです。

 伊庭が事態を重く見て哨戒艇に無線連絡を入れます。加納が止めるのも聞かずこれに応答してしまうのですから矢野はブレません。

 伊庭は投降を促しますが、矢野は「俺は裏切者じゃねえ」と徹底的に根に持って全面戦争を宣言し、ついに二人は決別します。

 矢野達は女を海に捨て、内ゲバを嫌って降りようとした島田を射殺します。須賀はというと銃を乱射した挙句海に飛び込んで絶好調です。角野卓三は実はこれが映画初出演なので張り切っていたのでしょう。

 伊庭は三村に矢野達の狙撃を命じ、自らはヘリからロープでぶら下がりながら銃を乱射して囮になります。千葉ちゃんもまた絶好調です。

 矢野は伊庭の策に見事に引っ掛かり、おもちゃの拳銃を手に撃たれて虫の息です。そして、おもちゃの拳銃を乗船してきた伊庭に向けながら伊庭にとどめを刺されるのです。

 形見の拳銃を手にヘリへ戻った伊庭は、自らの手で哨戒艇を狙撃して爆破させ、矢野を火葬します。これにはライバルの県や三村も流石に哀しそうです。愛するが故に殺し合った二人。まさしくバイオレンスポルノです。

 そして、伊庭は矢野の死を機に景虎と天下を取る決意を本格的に固めます。それは戦闘狂だった矢野への供養なのです。


関×掘
 目立ちませんが、最初に犠牲になった関(佐藤仁哉)と掘(古今亭志ん駒)も私に言わせればなかなか怪しい取り合わせです。

 堀は不運でした。海から襲ってきた弓隊の目の前にたまたま居たばかりに逃げ遅れて首を貫かれてしまうのです。「何で?」と自分に何が起こったかもよく呑み込めず呆気なく死んでしまいます。

 これに怒ったのが関です。応戦しようと危険も厭わず装甲車に取りつき、あえなく後を追います。

 二人は並々ならぬ関係にあったのがこの数十秒のシーンで見て取れます。掘にとって関は何が何でも仇を討たねばならない相手だったのです。

 それを冷ややかに矢野が見ているのも意味深です。ガチホモの矢野は全てを知っていたのです。しかし、愛の方法論が真逆の二人に矢野は共感はできないのです。

 そして、ここで堀を演じる古今亭志ん駒の経歴に注目です。元は古今亭志ん生の弟子でしたが、その死去に伴って弟の金原亭馬生の門下に移籍、更に志ん生の息子である古今亭志ん朝門下に移籍した『いだてん』のフルコースのような芸人人生を歩んだ人物です。

 『落語心中』を制覇した腐女子なら、あの作品のモデルが三遊亭圓生と志ん生であるという俗説は聞いたことがあるはずです。二人は満州で同居生活を送ったのは、せっかく圓生に中村七之助を使ったというのに全くの不十分ながらも『いだてん』でも描かれた通りです。

 この両師の同居生活と後のライバル関係のむせ返るようなゲイっぽさは両師の著書並びに同時代の文献を紐解けば赤裸々に描かれています。事実は小説より奇なりです。

 志ん駒がそんな師匠に付いてこの辺の機微の分からないはずがありません。芸界のゲイ界ぶりについてはいつもの浪曲師の友人からも本にも書けないような話を色々と聞いていますが、これ以上突っ込んだ話は怖いので差し控えます。


西沢×菊池
 この映画で一番青春していたカップリングはこの二人に他なりません。私が理屈をこねるまでもなく西沢は菊池に片思いしていることが示唆されています。

 そして、この映画最初のお色気シーンは部隊の集結を待ちながら水浴びする西沢と関の裸なのです。男あしらいと商売の上手い角川春樹なれば、マニアックなゲイにもコミットするようにと狙うのは当然です。

 菊池にとっても西沢はかけがえのない親友である事は、脱走して駆け落ちする事を西沢に打ち明ける事からも明白です。

 和子の友人を頼って北海道に逃げるというプランを聞いて余所余所しくなる西沢が何とも言えません。西沢は間違いなく鈴木ヒロミツのベストアクトです。

 ここで破滅型のホモなら密告して大胆な告白して決裂というコースになります。しかし、西沢はそうしませんでした。二人の崇高な友情の前には密告が如き汚らわしい裏切りはあり得ないのです。このあまりに甘酸っぱい青春、ノンケにはおいそれと作れるものではありません。

 タイムスリップという障害を前にして菊池の和子への愛は余計に燃え上がり、山の向こうの待ち合わせ場所の駅はタイムスリップしていないかもというあまりに無謀な理論に基づいて脱走する決意を西沢に打ち明けます。

 和子への愛で暴走気味の菊池を西沢も色んな意味で止めようとします。西沢の心中たるや察するに余りあります。

 菊池の事なので親友西沢に和子を紹介したことがあるはずです。何しろ岡田奈々です。どんなガチホモでも美女である事に疑問を差し挟めない美女です。それだけに秘かに菊池に思いを寄せる西沢は怖いのです。

 そこへ矢野の高島謀殺事件も起こり、メンタルを乱された菊池は一人脱走します。しかし、西沢は「一人じゃ危ないよ」とやけにしっかり準備をして同行を申し出るのです。

 これは最善手です。タイムスリップの結果がどうあれ、菊池は恐らく戻って来ません。それなら死ぬにせよ現代に戻るにせよ一緒に、そしてあわよくば、というわけです。

 苦しい山越えにチャレンジする菊池と西沢。登山の歴史を紐解けば、英国紳士の旦那様とガイドがデキちゃったなどという話は珍しくもありませんが、これは別の機会に取っておきましょう。

 西沢は「女ってそんなにいい物か」とかまします。大して菊池は「お前だって誰かを好きになった事があるだろ」と深く考えず返します。

 これ対する西沢の答えは「無いね俺には」から一呼吸おいて「女を好きになった事なんて」です。勘の良い腐女子はこの瞬間濡れ濡れです。鈴木ヒロミツのBLはどうなのかという問題は残りますが、そんな事を気にするようならこんなnote書いていません。私は関係性重視です。

 寄り添って休憩を取り、西沢が持っていた最後の一本の煙草を回し喫みする二人。もはやセックスです。なのに菊池の脳裏に浮かぶのは駅のホームで彼を待つ和子の姿なのですから、負けヒロインとは哀しいものです。

 しかし、そんな二人に落ち武者狩りの魔の手が迫ります。菊池を逃がして「彼女が待っているんだ」と一人奮戦する西沢。愛はぽっちゃりロッカーをスタローンに変えるのです。

 ジョー山中入魂の『もうなくすものはない』が流れる中、離れ離れになって逃げ惑う二人。菊池は和子の名を叫びながら崖から落ち、西沢は宇崎竜童演じる落ち武者狩りと相討ちで散ります。

 しかし、菊池は忘れた頃に景虎の軍勢に助け出されます。「和子が待ってる」とこの期に及んで菊池は言いますが、これは西沢の愛が菊池を助けたのです。和子は勿体ないですがコンドームです。戦国の世に咲いた赤い薔薇の奇跡です。かくして菊池は戦列に復帰したのです。

 夜這いの誘いにも怪我人である事もさることながら、和子の事があるので菊池は応じません。テントにロウソクで和子と書いちゃう有様です。

 しかし、私は西沢とも書いたと確信します。菊池にしてみれば西沢は命を捨てて助けてくれたかけがえのない友なのですから。

 菊池は思い余って川中島で単身敵陣に突出し、ついには和子の名を呼びながら斃れます。しかし、極楽で待つのは和子ではなく西沢です。かくして二人は結ばれるのです。


上杉謙信メス説
 さて、メインディッシュの前に背後関係を明確にしていきましょう。

 ここに来るような人たちには戦国武将にとってノンケが変態であり、女は茶道具に毛の生えた程度の扱いであった事は常識でありましょうが、中でも長尾景虎こと上杉謙信は深刻です。

 謙信は毘沙門天を信仰し、生涯妻を娶らず独身を通したことで知られています。その一方で当然の帰結ではありますが、美少年を好んだという記録も残っています。

 これをもって謙信は女だったとする説も広く流布しています。私もバイセクシャルとしてその説に計り知れぬロマンを感じはしますが、そんなのはアダルトゲームに任せておけばいい事です。

 現実的には謙信はガチホモだったわけです。越後の虎だけにネコです。衆道は若衆を掘るだけと思っている人も居ますが、それはあくまで建前に過ぎません。蘭丸×信長の可能性を明確に否定することは事実上不可能なのです。

 ガチムチ髭野郎に掘られるのが好きな大名も居れば、爺やと赤ちゃんプレイをする大名だって居たはずです。それでも相手が男であるという一点でどこぞのガチノンケの猿よりは百万倍健全というのが戦国時代なのです。

 なんなら、川中島の戦いは上杉謙信と武田信玄の壮大なBLと言えなくもありません。単身武田本陣に斬り込んだ謙信の太刀を信玄が軍配で受けたなどというはもはや実質セックスです。

 講釈師、見てきたような嘘を言いと申しますが、BLはファンタジーであり、リアリティはアクセサリーでしかありません。講釈場で妄想してしまう腐女子は江戸の昔から居たはずだと私は確信しています。


伊庭×景虎
 タイムスリップしてきた自衛隊を最初に見つけ、襲撃したのが景虎と敵対する黒田長春 だったのが二人の運命を変えました。

 矢野によって黒田の軍勢が追い払われた直後に現れたのが家来を一杯従えた景虎です。

 伊庭が長尾景虎が後の上杉謙信だと知っていたのかはハッキリしませんが、見るからに立派な景虎と伊庭は会って早々目と目でセックス状態です。

 伊庭は景虎の名乗りに敬礼で応えますが、景虎はそんな伊庭を見て「同族じゃ」と喜びます。

 この同族も解釈のしようが色々とあります。南蛮人ではない程度の意味だったのか、それともバーサーカーである事を感じ取ったのか、それとも虹色のオーラをホモの本能が察知したのか、いずれにしても、景虎は並々ならぬ親近感を伊庭に抱いたのは確かです。

 馴れ馴れしく笑いながら伊庭の袖を引っ張って素性を尋ね、戦車のサイレンに「鉄の馬が鳴いておる」と興味津々の景虎。まさに萌えキャラ。アリスソフトさえこれを超える事は叶わなかったと私はバイ特有の中立的観点から断言します。

 近代兵器に大興奮の景虎が特に興味を示したのが機関銃です。そして大胆にも伊庭は撃たせてくれます。二人で一緒に崖を撃ちまくります。

 これが何を意味するのかは言うまでもありません。矢野に浅からぬ縁のあるカ・イ・カ・ンです。陽気で爽やかなBGMがそれを裏付けます。

 そして景虎は何としても伊庭達を仲間に引き入れようと家来と計略を巡らせます。勿論、自衛隊の兵器に期待していたのは言うまでもありませんが、景虎は伊庭が褌一本でうろついていても仲間に引き入れたでしょう。

 伊庭も隊員も満更ではありません。戦国大名特有のカリスマに完全に魅了されています。

 しかし、その計略も黒田勢が先んじて再襲撃を敢行した事から良い意味で御破算となります。黒田の砦まで突出してしまった伊庭を景虎は追いかけ、そのまま砦に突入していくのです。

 矢野がそれを見て「同族じゃ」と呆れ気味に言うのも注目です。矢野のヤンホモレーダーは景虎は危険だと告げているのです。

 伊庭に「お味方嬉しゅうござるぞ」と既成事実を叩きつけてバッタバッタと黒田勢を討取っていく景虎。県はドン引き、矢野はうんざりですが、伊庭は違います。

 たちまち黒田を仕留めた景虎ですが、後ろから敵が迫ります。そこを狙撃して助けたのが伊庭でした。ここで使ったのが自衛隊の標準装備の64式小銃ではなくM1カービンなのをよく覚えておいてください。全然違う銃なので判別は容易です。

 切り倒された黒田の顔を高笑いしながら踏みつけ、首を取って大はしゃぎする景虎。この首級は伊庭と二人で挙げた共同戦果です。

 完全に正室面を始めた景虎は、主君越後守の軍使の元へ伊庭を連れていきます。軍使は越後守が伊庭に会いたがっているというラブレターを持ってきましたが、伊庭は誰の味方もするわけにはいかないと断ります。

 そのラブレターを読んでいた景虎はそのラブレターを口にくわえたかと思うと、おもむろに軍使を斬り殺します。

 完璧なタイミングで伊庭も拳銃を抜いてバックアップしました。ホモは嘘つきです。事前の打ち合わせなしに出来る動きではありません。

 景虎はラブレターで刀の血を拭い、越後守を腑抜けだの卑怯だのとかなり無理筋になじり、裏切りを宣言します。そして景虎と一緒に笑っちゃう伊庭。もはや正室の座は不動のものです。

 そして景虎は伊庭を有名な褌デートに誘います。何故伊庭も褌なのか、どうして脱いだのかは永遠のミステリーです。

 美味しい所取りを狙う越後守を盛大になじり、「本心から友となってこそ忠」「本心のままに生きたい」などと凄まじく重い愛を語り、伊庭に共に天下を取ろうと持ち掛けます。

 お互い闘うのが好きな人間のはずと説く景虎の褌に注目です。透けてます。夏八木勲の槍が透けて見えています。角川春樹がある意味ジャニーさんを超えた歴史的瞬間です。

 間違いなく二人はこの場でヤッてています。それを証拠に、部下に天下を取ったらそのショックで現代に戻れるという超理論をぶち上げます。

 とは言え、まだ伊庭は迷っていたのでしょう。矢野の反乱に決着をつけてから県と三村を前に改めて天下取りを宣言したのは、二人にとっては敗北であり、景虎にとっては勝利です。

 伊庭は景虎と仲良く越後守の待ち構える春日山城へ出陣します。そして景虎は天守閣で面と向かって越後守をディスり、伊庭から借りた腕時計でわざとらしく時間を確認して越後守と家臣団を斬り殺し、天守閣まで飛んできたヘリコプターに乗って城を後にします。

 忍者が凧で飛ぶなどという非現実的な物は別として、恐らく史上初の時代劇と空挺作戦の融合です。越後の空に愛の黙示録が鳴り響きます。

 こんな楽しそうなことをしたらそりゃあ伊庭と景虎がデキちゃうのは当たり前です。男の子はこういうのが好きなのです。

 見事に越後を事実上制圧した二人はまたもデートに赴きます。井上堯之の『DREAMER』が二人の愛を高らかに讃えます。

 弓と銃を取り換えっこして流鏑馬をして遊ぶ二人。この銃が先述のカービンです。二人はこの武器を今後も活用します。よく覚えておいてください。

 そしていつの間にやら服まで取り換えっこして海岸ツーリングです。勿論、脱いだついでにヤったのは言うまでもありません。

 そして、小姓の県にだけ自分とお揃いの服を着せている伊庭にとって、これは特別な行為です。

 そして砂丘で槍でチャンバラです。交差した槍が実に意味深です。伊庭が勝って景虎を追いかけます。きっと勝った方が掘るというルールだったのでしょう。

 最後に海岸で一緒に逆立ちするのに至っては意味不明です。もはや二人の愛は第三者が介入する余地はないという事なのでしょう。

 ヤり過ぎてテンションが壊れたらしき伊庭はその夜、自衛隊だけで武田信玄を川中島で叩き、景虎には浅井朝倉の連合軍を攻めさせるという大胆なプランをぶち上げます。

 そして「京で会おう」と言って笑います。なんなら伊庭はこれが言いたかっただけなのではないでしょうか。各個撃破しておけば二人で天下を取れたかもしれませんから。

 景虎は伊庭に旗印を預けます。これは同じ旗の下に戦おうという事であり、二人は一心同体という意思表明であり、今夜OKのサインです。まだヤる気なのです。

 川中島において近代兵器を失った最終的に伊庭を救ったのは景虎から貰った弓でした。拾った矢を口にくわえ、馬に乗ってメキシカンなBGMに乗せて弓を乱射して戦場を突き進む様はまさにマカロニウエスタン。イーストウッドも開いた口がふさがりません。

 そして伊庭は武田信玄を討取り、景虎同様に首を手に高笑いするのです。それをこっそり偵察に来て「京で会おうぞ」と秘かに褒め称える景虎。本作はまさにガチホモバーサーカーの宴です。

 ところが、京の御所まで交渉に行った景虎は伊庭のような得体のしれない奴と手を結ぶようではいけないと足利義昭 (鈴木瑞穂)、本願寺光佐 (成田三樹夫)、九条義隆 (仲谷昇)といった無駄に豪華な面々に怒られ、景虎の食い下がりもむなしく光佐は細川藤孝(石橋雅史!)に伊庭を討てと命じます。

 ところが、景虎は自ら伊庭を討ちに行きます。友は自らの手で、と言う事なのでしょうが、ここで相手に注目です。

 石橋先生演じる細川藤孝など手に負えない強さに決まっています。それに、石橋先生と千葉ちゃんの関係を鑑みれば、これは強い男フェチの伊庭を盗られては困るという景虎のホモのジェラシーの発露とも取れるのです。役者同士の人間関係もBL的映画鑑賞には大事なのです。

 景虎は伊庭から貰ったカービンを手に伊庭の立てこもる荒れ寺に乗り込みます。伊庭は景虎から貰った旗印を鉢巻きにして大喜びで出迎えですが、事態を察し、抵抗しようとする部下を制して「お前達には関係のない事だ」と二人だけの世界に突入します。県も三村もこの瞬間コンドーム落ちです。

 伊庭は「わしは天下を取る」と口調まで景虎から伝染したのを示し、あの有名な八双の構えで景虎に撃たれます。

 そして本作のサントラのベストナンバーである『ララバイ・オブ・ユー』の流れる中、景虎は伊庭の亡骸に自らの陣羽織をかけてうなだれます。陣羽織はみだりにこんな使い方をしていい物ではありません。つまり、景虎にとって伊庭は特別なのです。

 景虎は涙を流しながら伊庭達を最高の礼をもって葬り、自ら寺に火矢を射かけて荼毘に付します。なんと美しき悲恋物語でしょうか。

 景虎が上洛できたという事は浅井朝倉連合軍を打ち破ったという事であり、また伊庭が武田も親子諸共討ってくれました。

 これはつまり、今や景虎は天下取りのポールポジションに居るという事です。あとは信長さえ始末すればいいのですから。ガチノンケの猿を可愛がっているような男など今やホモの世界チャンピオンである景虎の敵ではありません。つまり、景虎は伊庭の力添えで天下を取るのであり、それは壮大な実質セックスなのです。


伊庭×信玄
 本作の信玄は実に武田信玄しています。何も知らない人にこれは誰かと聞いても多分武田信玄と答える、そういうレベルの典型的武田信玄です。

 さて、信玄が衆道の相手に浮気を詫びるラブレターが残っているのは広く知られる事実です。戦国武将はただ一人の例外を除いて全員男を嗜んだと断言してもいいレベルですが、それはあくまで状況証拠によるもので、このように物的証拠が残っているのは非常に貴重なケースです。

 それだけに、信玄がノンケである可能性は0%と断言できます。従って、BL的にはちょい役でも無視できない存在です。

 何と言っても天下御免の武田信玄です。自衛隊の近代兵器にも入念に対策を施し、自衛隊を殆ど全滅に陥れます。

 ヘリコプターに至っては息子の勝頼自ら飛び移り、パイロットを斬り殺して撃破します。下で武田勢が旗印でトランポリンを作って勝頼を着地させるあたりは流石に武田家中は精鋭ぞろいです。

 ここで横道にそれますが勝頼に注目です。史実の川中島の戦いが終わった時点で勝頼はまだ18歳なので、本作でもそれを反映して月代を剃らない若衆姿です。若衆姿で大暴れの真田広之です。もう辛抱たまらんわけです。

 そもそも、私の持論の一つに「ゲイの役を何回もやった役者は本物」というものがあります。ノンケには一回はともかく複数回はそういう役は回ってこないだろうという理屈です。

 少なくとも、ゲイだったとされる役者のフィルモグラフィーを調べるとこの説はほぼ百発百中です。腐女子の皆様は映画ライフの充実の為にも是非覚えておいてください。

 そして『魔界転生』でジュリーに唇を奪われ、『新宿鮫』でハッテン場を潜入捜査した挙句掘られかけ、『最終目的地』に至ってはオープンゲイのジェームズ・アイヴォリーたっての希望で設定を曲げてアンソニー・ホプキンスとゲイカップルになった真田広之はグレーゾーンです。

 というよりも、千葉ちゃんが仕込んだという噂が当時からありました。真相は確かめようがないですが、ノンケにあの耽美な色気が出せるのかというと大いに疑問が残るのも確かです。

 話を戻しましょう。そんな息子を持つガチホモ信玄ですので、伊庭への対応も相当に怪しいものがあります。

 ランボーのごとく景虎から貰った弓を振り回して馬で本陣に突入してきた伊庭との一騎討に応じる。流石に武田信玄だと感心する前に、このシチュエーションには明らかに裏があります。

 近代兵器を知恵と工夫で撃破してしまう信玄が、いくら超人的強さとは言え馬も弓も素人のはずの伊庭を、しかもたった一人で本陣まで侵入させるでしょうか?

 あり得ません。ただし、意図的にそうさせたならその限りではありません。つまり、これは武田信玄一世一代の誘い受けだったのです。

 伊庭という極上のオスを前にした強い男フェチの信玄は、本陣まで伊庭をわざと誘い込み、自ら剣を交えたかったのです。

 なんなら、生け捕りにして寝取るつもりだったのでしょう。強い男フェチはお互い様なので、笛吹川のほとりで褌一本で語らえば伊庭が寝返る可能性が無かったとは言い切れません。何なら金山衆の群れに縛って放り込んで嬲り者にさせても楽しいでしょう。

 しかし、伊庭は信玄の想像以上に強く、信玄は討たれてしまいます。しかし、大丈夫。強い男フェチ同士の決闘の末に討たれてるのは強い男フェチの本懐なのです。ついでで勝頼も討ったのは実に勿体ない話ですが。


根本×景虎
 伊庭の天下取り宣言に生き残った隊員がほぼ全員ついて行く決意を固める中、根本だけは脱退を宣言します。

 近くに住んでいる父なし子の祥吉と仲良くなってしまい、兄貴になってやると約束してしまったというのです。

 ただ、実際の所は祥吉の母(谷口香)と引っ付いて兄貴じゃなくて親父になってしまうのでしょう。

 しかし、これを伊庭が快く送り出すのはまさに美しき主従愛という物です。そして、戦国自衛隊はちょっと宇宙戦艦ヤマト入った行進曲に乗せて根元に見送られて出陣していくのです。

 だからと言うわけではないでしょうが、結局生き残ったのはここで抜けた根本だけでした。これが重要な意味を持ちます。

 勿論上杉謙信は越後を平定するわけです。となれば、伊庭の家来の一人が生き延びたという話を放っておくはずがありません。

 謙信は戦国の世にただ一人の昭和生まれである根本を家臣として取り立て、亡き伊庭の面影を求めて自らの尻を掘らせ、ついでに祥吉を掘ります。

 そして謙信に武士道を身体で叩きこまれた根本祥吉は義明という字を頂戴して上杉家中きっての立派な武士となり、根本はそれを見届けて出家し、伊庭達の菩提を弔い、またその悲しき恋物語を語り継ぐための諸国巡礼の旅に出るのです。これで『まんが日本昔ばなし』がワンエピソードできます。


お勧めの映画


 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

千葉真一追悼企画
『激突!殺人拳

『沖縄やくざ戦争』
『空手バカ一代』
『トラック野郎 度胸一番星』

『ロッキー3』(1983 米)(★★★)(海岸ホモデートで青春)
『女囚701号/さそり』(1972 東映)(★★)(悪のホモ景虎)
『エクスペンダブルズ』(2010 米)(★★★★★)(千葉ちゃんは実は出演していた!)

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 良い映画だと思った。解説が良かった。憐れみを感じた。その他の理由はともかく、モチベーションアップと資料代他諸経費回収の為にご支援ください。

 時代に潰されてたまるもんか

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