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【SFショートストーリー】荒涼とした美

 2177年。地球から遠く離れた、生命体未発見の惑星「ガイアX」に、探査員ジョン・ウィールズと支援AIのエルビスは降り立った。彼らの目的は明確で、未知なる生物や洗練された文明を見つけ出すことだった。
 ジョンは初日からガイアXの探索を始めたが、人工的な痕跡や生物の兆候は全く見当たらなかった。見渡す限り荒涼とした光景が広がり、ごろごろとした岩石だけが静かに時間を刻んでいた。ジョンは正直言ってがっかりしたが、辛抱強く探索を続けることにした探査員としての彼の使命に従い、ジョンの疲れ知らずの探索は続いたが、それからも“人工的なもの” “生物”を見つけ出すことは全くできなかった。
 そんな彼に、ある日エルビスが意外な提案をした。

「ジョン、私たちは未知なる生物や洗練された文明を見つけることはできていない。しかしこと美に関してはすでに見つけている」
「何を言ってるんだ、エルビス。気でも狂ったのか? この荒涼とした風景はお前の画像認識素子にもちゃんと映っているんだろう?」
「勿論だよ、ジョン。そのうえで私は言ってるんだ。私たちが見つけた美は生物的なものではなく、人工的なものでもなく、ただそこに存在する自然そのものなんだ」

 ジョンはこの提案に一瞬戸惑ったが、じっくりと考えてみると、エルビスの主張もまた納得がいくものだった。見つめているその一つ一つの細部、個々の砂粒が積み重なってできる荒涼とした風景、それがガイアX特有の美だったのではないか。やがてジョンとエルビスはガイアXの美しさを楽しみ始める。眩い星の下で輝く岩石、砂粒一粒一粒に反射する星光、そして大気に邪魔されずに直接降り注ぐ無数の星々の光。それらは全てが煌びやかで、美しく彩られていた。

「そうだな、エルビス。我々はあらかじめ自分が勝手に決めた美の尺度で物事を見ていたんだ。こうして目の前に『在る』ガイアX自体が奇蹟の産物なんだ」
「僕もこの事柄を6万回検証してみたが、君とまったく同じ意見だよ、ジョン」

 こうしてジョンは探査任務を全うし、ガイアXから地球へと帰還した。帰還したジョンは、その後サイエンスライターとして活動し始め、ガイアXでの経験や思いを多くの人々と共有した。
 読者たちからは彼の描く美しい星々やその純粋な美しさに感動の声が上がり、それは最終的に人々の心に新たな自然観を生み出すこととなった。美とは生物や人工物だけではない、自然の細部にこそ真の美が宿っている、というジョンのメッセージは多くの人々が共感し、彼の名は後の世代にも引き続き語り継がれたのであった。

(了)

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