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【父の手を求めて③】 ―潜在意識のレイプの記憶―

(前回の話)

同時に、当時、水中ボディワークのトレーニングを受け始めた際、微かに戦慄したこともあった。

セラピストになるトレーニングには、水中だけでなく、室内でのマッサージも含まれる。
参加者同士でペアになり、交代で相互の身体に繊細なタッチで触れて神経系からの安心を誘うトレーニングである。

私がクライアント役になって横になり、ペアになった男性が私の身体に覆いかぶさって私の足に触れたとき、ほんの数ミクロン、身体が強ばり息が僅かに止まるのが分かった。身体の中を網羅する神経線維がサインを発して全身を駆け巡った。
私は、緊張している……

私には3-4歳の頃に親戚の男性からレイプされた記憶がある。
そのレイプの記憶は、確かにあったことなのか、それとも自分の妄想なのかは分からないが、いまだにあまりに身体に残る匂いや感触といった感覚が生々しく、おそらく今生か、最近の過去生かのどこかで実際にあったことなのだろうと思っている。
私の体の上に、男の人が覆いかぶさる。そして、洗練されていないタッチで、私の身体に触れる。
それを私の身体は、「侵襲されている」と認識する。レイプされた時の恐怖の記憶を、身体が呼び覚ましてリプレイするようなのだ。
(断って書いておくが、決してそのトレーニングにおいてペアになった男性が、乱暴に私に触ったわけではない。
 彼なりのベストなやり方で、精一杯優しく触れてくれていた。けれど、私の身体は、トラウマ故に「安全」を察知する感度のハードルが高く、慣れない初心者のタッチを「危険」とみなしてしまうということだった)

トレーニング中、微かに、息が止まり、以後気持ちが悪くなり吐き気がした。
まだ身体に残っているトラウマがあることを自覚せざるを得なかった。
男性から触れてもらう以上、それは、今の私にとっては熟練したセラピストやボディワーカーの、相当に繊細で精妙なタッチでなければ、
リラクゼーションとは真逆の、恐怖を呼び起こすものになっていた。

10代や20代の頃は、何とも思わず、ただ男性を好きになり、身体の関係もほとんど恐がることなく持ってきたというのに。
数年前にバリ島でヒプノセラピーを受けて、レイプのトラウマ体験を思い出したのは大きなきっかけだった。それ以後、潜在意識に眠っていたその身体の記憶が、何もなかった場所から浮かび上がり、恒常的に自分の身体上をたゆたうようになっていたのかもしれない。再度の恐怖体験から自分を守るために。
また同時に、その頃、好きになった水中ボディワークの先生のセッションで、極上の安心感をもたらしてくれる「手」で支えられる体験をしてしまったのも大きな理由だった。これ以上にない、最高の経験を一度してしまったがために、もはやそれ以外のどんな「手」も、安心とはとてもみなせなくなってしまった。粗雑に扱われ、自分のテリトリーを侵されていると身体が認識するようになってしまった。

レイプを受けた3-4歳ごろ(もしそれが本当にあった事実なのだとしたら)、
私の中で凍結した思いがある。

私は、本当は、父親に守ってもらいたかった。
私を守ってくれるはずの強い父が、その日、その場に、いなかった。私は、しっかりと、暖かな父の腕の中で、安心と安全を保証されていたかった。
強くて優しい父。私をすべての脅威から守ってくれる、父。

私は、父に、守ってもらいたかった。


これが私の男性との関係における、原初の傷だった。


私は、異性との関係において、ずっと「父」を求めていたのだと思う。
恐らく多くの人がそうなのだろう。男性が「母」を求めるように。

子どものときに、父親と母親から
どんな愛情を受け取り、どんな愛情を受け取れなかったのか。
どんな記憶を受けたか、どんなトラウマを受けたか、どんな経験をしたか。
それが大きなキーファクターになり、私たちは生涯においてそれを追い求めてパートナーを探す。

両親から与えられて、素直に喜んで受け取ったことと、
求めたのに与えられず、必死にそれを追い求めようとしたこと。

それらは、体に記録され、
その後出逢うパートナーには、体験できた充足感と、欠如感を埋めてくれるものを求め続ける。

そうして、自分が子どもの頃、満たせなかったものを満たそうとする。

わたし達は、必死に、自分を満たそうとしている。

私は、「父」の、温かで大きな手のひらを、求め続けている。
そうした手で、頭を撫でてもらったり、しっかりと支えてもらい、あらゆる不安や恐怖から守ってもらうことを。

それは、きっと男性が女性に対して求める、柔らかい母性のようなもの。
私にとっては、私が赤ちゃんの時に与えられなかった、「父の手」という「欠けたもの」を、一生、取りにいき続けたいと、
皮膚感覚とその奥の細胞レベルで、願ってしまうものなのだろうと思う。



(「性」と、私たちの全存在についての覚書)



(続き)


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