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バーボンと煙草と未来のサイボーグ猫:(ハードボイルドから純文学転向編)

これまでのあらすじ

プロローグ
 すべての色が混ざり合って、灰色と化すマンハッタンの探偵事務所で、俺はこの陳腐なハードボイルドな世界から脱出しようと、頭を抱えていた。
 
『だが、そもそも、この独り言だって偽物だ。ハードボイルド小説なんて、俺は読んだことがねぇ。それどころか、アルコールが苦手な俺は、これまでバーボンも飲んだことがねぇし、ここはマンハッタンの探偵事務所でもねぇ。ここは電気街秋葉原のすぐそばの神田川近くの安アパート。世界で最もバーボンが似合わない街だ。秋葉原と言えば、メイド喫茶で甘々なドリンクを、メイドの魔法の呪文と一緒に味わう。これがこの街の真実だ』と、俺は現実に直面し、新たな自分探しを始めていた。
 
 だが、なんという皮肉か、俺が住んでいるこの街、秋葉原は地図上には存在していない。秋葉原駅の近くに実際にあるのは、神田や外神田という地名だけだ。
 
 去年閉店しちまったガンダムカフェ秋葉原の住所を調べてみれば分かるだろう。あれは千代田区神田花岡町にあった。あそこが秋葉原じゃなくて神田だなんて、信じられるかい? だが、それが真実なんだ。本当に秋葉原という地名は東京には存在しちゃいねぇ。
 
 中年オヤジがメイド喫茶で注目されるのは流石に恥ずかしい。だから、俺はガンダムカフェでセイラの物思い・地中海のラタトゥイユ丼を食べながら、ジャブローコーヒーを一人で味わっていた頃の思い出に浸っていた。なぜなら、もうガンダムカフェは廃業しているのだ。

 行き場を無くした俺は、秋葉原名物の恐怖の自動販売機の不気味な飲み物にむせながら、また一人で考えこんじまった。『本当に全部これを飲んで死なないのだろうか…?』
 
【東京都】顔面と股間が永久に公開される?秋葉原にある恐ろしい自販機に行ってみた!

 三年前ならここで『映え』そうな自撮りをやって、インスタにアップしていたところだが、今時インスタを使っている奴なんていねぇ。
 
 TikTok動画でも投稿しようとも思ったが、中年男がそれをやるのは、ある意味、一人でメイド喫茶に行くよりも恥ずかしい…。俺は仕方なく、今では高齢者が、自分がまだ生きていることを、遠くの家族や知人に知らせるためだけの孤独死防止装置と化したフェイスブックに『ガンダムカフェ跡地なう』のメッセージとともに、映えない自撮り写真をアップした。
 
『だが、そうだ! 俺が追求すべきものは、酔いどれ探偵が活躍しないハードボイルド作品じゃねぇ。本物の純文学なんだ!』という明快な答えが、突如として俺の頭に浮かんだ。
 
 しかし、俺は、ハードボイルド小説だけじゃなく、純文学小説も一度も読んだことがねぇ。
 
『そもそも純文学って一体なんなんだ?』という素朴な疑問が、俺の脳裏をよぎった。『芥川賞とか直木賞とかが純文学なのか? でも、芥川龍之介の名前は聞いたことあるが、直木賞の直木って一体誰なんだ?』と、俺は再び頭を抱えてしまった。
 
つづく...

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