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18時に閉まるデパート

いつかの秋、友人と少し遠出して街を巡った。紅葉を眺めつつ実家の裏の林はどうなっているだろうか、と想いを馳せていた。

木々に囲まれたレストラン。カツカレーが美味しかった。近くにあった煉瓦造の倉庫には公衆電話やタクシー乗り場と書かれたプレートが煤けたガラス窓からちらりと覗いている。自動販売機の裏には喫茶店を彷彿とさせるような立て看板がひっそり佇んでいた。元々ここにあったのかな。

次に訪れたのは大きなデパート。といっても営業しているのは一部の階のみ。改装中らしい。薄い藍色をベースにしたそのデパートを私はすっかり気に入ってしまった。中に入ると意外とたくさん人がいる。エレベーターで目的の階まで行こうとエレベーターのボタンに目を移すと、改装中であるはずの階にも止まるようだ。試しに押してみると本当に止まった。扉が開くと絶賛工事中であり機械音と工事の人の話し声が聴こえる。友人と顔を見合わせる。別の階も押してみる。今度は静寂。元々あったのであろうテナントの跡が残っている。時が止まっているようだ。

ふと、あのデパートのことが浮かんだ。18時に閉まるデパートである。数年前、中国を訪れた時のことだ。疎らな人と猫がいるだけ。エスカレーターは上りしかない。(あったのかもしれないが見つからなかった)お茶やお菓子が売っている店は営業しているか定かではない。店員はいるけれど基本寝ているかだらだらしている。時が過ぎている気がしない。それが好ましかった。

中国のいい意味で緩い感じが好きだった。生き急がないこと。18時に閉まるデパートといつかの秋のことを思い出したい。

#コラム #日記 #エッセイ #デパート

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