いかにネットワーク効果をデザインするか? "The Cold Start Problem" を読む、いや、読んでいる
すごい本がでた、と思っています(22%読了)。The Cold Start Problemという本です。
The Cold Start Problemのアイディア
本書の基本的なアイディアは、ネットワーク効果を5つの段階にわけて、具体的に説明する、というものです。
”シリコンバレー”のベンチャーが世界規模のビジネスを構築した理由である「ネットワーク効果」というバズワードを、実例や理論、歴史をもとに具体的にする
人間はそもそもネットワークの生き物だ(i.e. 人「間」)。つまり、ネットワーク効果はビジネスやその他のことがらに普遍的である
「ネットワーク効果」にはいくつかの段階がある。それは、「コールドスタート」「ティッピングポイント」「エスケープヴェロシティ(脱出速度)」「天井」「モート(堀)」。
コールドスタート:ネットワーク効果は、利用者が多ければ多いほど価値がある。つまり、はじめはなにも価値がない。それをどのように始めるのか。アトミックネットワーク(最小限のネットワーク)を見つけ、構築し、ネットワークのネットワークを構築していく。可処分時間(unutilized time)・可処分空間に目を向ける。それがhard side(集めづらい方)を集める秘訣。
ティッピングポイント:ミーアキャットが捕食を避けて群れるように、人間にも群生の閾値がある。UBERであれば、待ち時間(ETA)15分がその閾値。15分を超えればユーザーはUBERを使わなくなり、ユーザーがいなければドライバーもいなくなる。
エスケープヴェロシティ(脱出速度):ティッピングポイントから逆戻りしないためには、工夫が必要。ティッピングポイントを超えればサービスが勝手に成長していくシンギュラリティは間違い。「アクイジション効果」(e.g. グロースハックにおけるリファラル施策)、「エンゲージメント・ラダー」(e.g. レベルアップなどのゲーミフィケーション)「経済効果」(マネタイズ!)がキーワード。フライホイール式にこれらの効果をぐるぐるまわしていく。
天井:「くそクリックスルーの法則」(現著者が命名した法則)のようにイノベーションの効用が低減していく。この限界点とはうまくやっていく必要がある。
モート(堀):競争優位性を築く。古典的な機能や価格による優位性ではなく、ネットワークの質や規模が鍵になる。ダビデにはダビデの戦略が、ゴライアテにはゴライアテの戦略がある。
これらの説明を、ミーアキャットの習性から、著者自身が携わったUberのグロースの事例、a16zにおける投資や交友関係から聞いた企業家たちのコメントを交え、強力なリアリティと共に説明していきます。
また本書には上記以外の議論が含まれています。
クリステンセンのイノベータのジレンマは、どのようにネットワーク効果を用いて説明できるか?
Zoomはなぜキラープロダクトなのか?ほか、Tinderなどの事例
ネットワーク効果を引き出す再現可能な(そうな)方法論に出会ったことがなかったので、興奮しています。
なぜならば、ネットワーク効果への理解が、デザイン・コミュニティとスタートアップカルチャーや方法論のすれ違い(『行動を変えるデザイン』はリーンの考え方よりでいわゆるデザインシンキングとちょっと違う、と思ってます)の解消や、日本のSaaS(への違和感の解消。API公開してない「SaaS」があることとか)のさらなる成長機会の発見につながりそうだ、と思っているからです。
わたしがCold Start Problemに関心を持つ理由
正直に申し上げますと、まだ読み終えていませんが、以下のようなわたしの関心に応えてくれる期待をしています。
行動変容の考え方は、アトミックネットワークを作り出す重要な方法論になるはずだ
デザインの方法論がネットワーク効果の方法論と相性がよいいはずだ
例えば、本書では、LGBTQコミュニティのカーシェアリングの文化がsidecarのビジネスの発想のもとになった事例、slackはもともとエンジニアのIRCコミュニティに発想を受けたものであることが紹介されています。
なぜ日本のベンチャーの多くが、上場後「踊り場」のような状態になっているのか?(「両面性」を構築できず、システムとユーザーの関係だけになってしまっていないか?)
なぜうまくいっている日本のSaaS企業でも売上が”S字”になっていないのか?(「両面性」ではなくシステムとユーザーの関係だけになってしまっていないか?)
それは、大企業や日本社会のせいなのか?(そうでもないんじゃない?)
日本の”SaaS”の一部がAPIを公開しないことで失っているものがあるのではないか(直感的には公開した方が良さそうだと思うんだけど、なんで公開した方がいいのか?)
実は、(あまりブランディングのうまくない。失礼)日本企業のいくつかは、ネットワーク効果を実現して、ITの力を借りずして”シリコンバレー”級のイノベーションを先駆けて実現しているのではないか?
実は町おこしとか住民の呼び込みって、ネットワーク効果を考慮した方がいいんじゃ?
マッチングポータルの関わる仕事をしつつ、最初にそれが成立したときに何が起きていたのか、実はよく知らない
著者 Andrew Chenについて
著者Andrew Chenは、a16z(著名ベンチャーキャピタル)のgeneral partnerで、14歳で大学に入学した?早熟のようです。UBERからa16zへ転職。club houseへのアドバイスなど、多岐に活躍されているようです。詳しくなくてすみません。
Cold start problemということばについて
わたしが、Cold start problemということばに出会ったのは、プロダクトの表示順の機能を開発していたときに、アルゴリズムをつくるエンジニアからでてきたときです。ユーザに最適化していくけど、最初にウェブ・プロダクトにランディングしたときにはほとんど情報がないので、基づく情報がないから何を出したらいいか?となってしまう問題。
たしかに、データに裏付けられたシステムもデータが多ければ多いほど価値を発揮する、ネットワーク効果のプロダクトですよね。
しかし、そもそもそのプロダクトを使う人の属性なり前提条件があらかじめわかっていれば、その条件を設定しておけばよい。フリント・ストーンの主人公が自分の足で車を動かすように、井戸水に呼水を与えるように。にわとりーたまご問題の解決は、そういう泥臭いことなのかもしれません。
そして、そこにこそ、”デザイン”のフロンティアがのこっているのだと思っています。
関連する書歴
関連するエキサイティングな書籍を以下にあげておきます。以下にあげる書籍は、エキサイティングです。しかし、本書には、いま輝くベンチャーの「実録」を通して、ネットワーク効果をフレームワークとして再解釈できるとても貴重な視点があり、この要素は下記の書籍には備わっていません。
ネットワーク効果については、バラバシによるサイエンス読み物や教科書は存在してました。
両面性市場の経済学的説明については、シャピロとハル・ヴァリアンの本が古典ですが、今なお、有効な輝きを放っています。巨大IT企業が独占禁止法を掻い潜る理論武装の淵源をそこに見ることができます。
S字曲線のようなものはキャズム理論かなにかで目にしたことがある方が多いかと思いますが、いまいちしっくりきたことはなかった(そもそもイノベータにどうやって使ってもらうのかがよくわからない。イノベータからその後に伝播するイメージをどうつけていいのかよくわからない)ので、本書のコールドスタートセオリーで上書きされるとよいな、と思っております。ただし、キャズム理論の元ネタとなっているロジャーズの普及学の議論は、ベストプラクティスの集まりといった趣きで、すごい勉強になります。
これらの書籍も併せて読むとなにか有用かもしれません。
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