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ヨーロッパ旅の記録〜Sienaでの日々〜

"2017年7月24日〜9月18日まで ヨーロッパ8カ国を旅した記録"

8月2日〜
今日からSiena Jazz Universityでのワークショップが始まる。このワークショップを受けることに決めたのは、スイスのシンガーSusanne Abbuehlが講師として招かれていることを知ったからだ。私はシンガーではないが、彼女の音楽がどうやってできているのか知りたくて、話をしたくて、彼女のクラスの聴講を申し込んだ。事前にインターネットで学校に申し込んでいたが、なぜか返答がなく、日本を発つぎりぎりに確認すると、やはり私のメールが弾かれていた。Susanneが取り計らってくれて、受講できるようになった。
アパートから学校へは歩いて20分くらい。朝はまだ気温も低く、歩くのも快適だった。学校は旧市街の城壁の中にある。城壁の外では朝から蚤の市をやっていて賑わっていた。広い敷地のどこに学校があるのか地図を見てもわからず迷った。授業開始の9時を少し過ぎて到着する。
今回Sienaでのアパートや学校のことを世話してくれたAndrea Silviaと初対面する。イタリア人はお喋り好きで明るいが、愛想を振りまいたりしない。笑顔を作ったりもしない。それはとても自然であると感じるが、慣れないと無愛想に思う。彼女も一見ぶっきらぼうだがとても親切でいい人だ。困ったことがあったら何でも聞いてと言ってくれ、実際彼女にはいろいろ聞いた。
初日は学校のシステムがいまいち理解できなかったが、二日目にはようやく飲み込めた。このワークショップにはテクニカルクラスとコンボクラスがあり、午前に2コマ、午後に2コマ、それぞれ違う講師の授業を受けることができた。テクニカルクラスは、受講する楽器の専門クラスで、主にその楽器のテクニックに関する授業が行われた。コンボクラスは各楽器の生徒5名ずつが振り分けられ、バンド形態での授業が行われた。コンボには講師も演奏に加わり、ワークショップの最終日のコンサートに向けて曲を仕上げることが目的とされていた。
私は聴講生だったので残念ながら演奏では参加ができなかったが、ボーカルのテクニカルクラスではSusanneのクラスとBecca Stevensのクラスを聴講し、コンボクラスは様々なクラスを聴講することができた。生徒はSienaの学生や、イタリアの他の地域から来た学生や、ヨーロッパ各国から主に若いミュージシャンが集まっていた。
このジャズワークショップは長い伝統があり、ヨーロッパでは知名度が高いようだった。魅力は講師陣の充実だろう。ヨーロッパのみならず、アメリカからも著名なジャズミュージシャンが講師として招かれている。ヨーロッパでのジャズ教育も、まだまだアメリカのトラディショナルなスタイルのジャズを教える学校が多いということと、特にイタリアではアメリカのジャズは好まれるようだ。学生たちにとって、このワークショップは憧れのミュージシャンに直に教えてもらえる貴重な機会だ。

Susanne Abbuehlについて特筆しておきたい。上にも書いたように、私は日本で彼女の音楽を知り、その音楽性に感銘を受け、彼女の近くに行ってその音楽や人間に触れたいと思ってSienaに来ることを決めた。
始めに彼女と話した印象は、明るくてハキハキしてよく喋る人。音楽の印象とはかなり違う。けれどこちらも意見を言いやすい雰囲気を持っていて、実際人の意見にいつも耳を傾け、どんな意見にも否定をしない人だ。
彼女がどんな授業を行うのか興味津々だった。テクニカルクラスでは至って基本的な歌唱テクニックに関することで、音程のこと、歌詞のこと、その他生徒の要望に応じて授業を行っていた。例えば、正しく目的の音程を発音するためのイメージトレーニングの方法や、歌詞を乗せて歌う場合のフレージングのことを細かく説明してくれた。また、彼女のジャズスタンダード曲についての知識、歌詞の記憶は並大抵ではなく、彼女は自身の表現としてジャズスタンダードを歌う機会は少ない歌手だが、やはりジャズシンガーなのだとわかった。
一方コンボクラスでは、Susanneが用意した彼女の自作曲や、Chic Corea、Carla Bleyの曲などを練習した。トラディショナルジャズに慣れている学生にとって、彼女の提示する音楽は少し難しいようだった。
ジャズを、音楽を学校で学ぶということはどういうことだろうか。日本での音楽教育しか受けたことのない私はヨーロッパの教育にとても興味がある。そして、日本で評価されている音楽とヨーロッパで評価される音楽の違いにも日頃疑問を持つことが多かったので、このワークショップでヒントが見つかるのではないかと思った。
Susanneはスイスはもちろん、フランス、オランダ、ベルギーなど、ヨーロッパ各国に招かれ演奏したり、教授している。だが残念ながら日本ではほぼ無名だ。言葉に重きを置いた音楽ゆえに、言語の壁があることは確かだが、カテゴライズできない音楽に対しての抵抗感は日本では根強い。しかし彼女の音楽がヨーロッパで高く評価されていることについて、もっと深く理解しなければいけないと思った。ここSienaでも、名だたる講師陣と並んで毎年招聘されている。

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