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一人称単数「石のまくらに」

「一人称単数」
村上春樹著
2020年発行 短編小説集。

「石のまくらに」
バイトの帰り、12月の寒い日、一夜を共にした女の子。
報われない恋をしていて、短歌を詠んでいる。
それ以来お互い会うことはなかった。

長い人生の中で、具体的な名前や前後の関係性は思い出せないけれど、
記憶にとどまる言葉や瞬間がある。
嵐が去った後の地表に生き残った言葉。
疲れて寒い夜に温めあった時間。
後日、約束通り、彼女の短歌集「石のまくらに」が送られてくる。
逢うことはもうないけれど、引き出しの中で色褪せ静かに朽ちていく、誰にも知られない四十二首。

短歌や和歌は一首、二首と数える。
中国の漢詩の数え方が由来とのこと。
「首」は甲骨文字では生贄の頭部の形。
道という字に「首」が使われるのは、古来、領地を支配するとき、異属の首を携えて、血で土地を清めて歩いたところを道と呼んだからという。

彼女の短歌は、古の「首」のように数えられる気がした。
どこかで血が流され、生み出された言葉。

詩や歌には「首」と数えられるくらい、血が通っていて、命が宿っている。
「句」の甲骨文字は、死者の傍らに添えられた言告の形。
俳句や川柳は、形式やメッセージ性が大切なのかもしれない。

読み終わると、一首、何かを研ぎ澄まして、言葉を紡ぎたくなります。

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