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「イノベーション対話を通じて、地域産業を発信するサウナブランドを開発したい」福井大学と松文産業の挑戦(i-GARAGE HUB)

繊維王国と名高い福井県。その歴史は西暦2、3世紀ごろに遡るとも言われ、長い歴史の中で技術革新を繰り返しながら、日本の繊維産業を牽引する存在として時代の先を歩み続けてきました。

そんな福井県では、地元・福井大学産総研デザインスクールがタッグを組み、地域企業とイノベーション対話を重ねながら事業開発に貢献していこうというプロジェクトがあります。それが、「i-GARAGE HUB」です。

i-GARAGE HUBの活動や魅力に迫るため、このプロジェクトで活動する福井大学・大学院生の今原幸大さん、坂口昴大さん、石川智大さん、そして国内大手アパレルブランドの人気商品を支える松文産業の小泉綾子社長にサウナ商品プロジェクトについて、お話を伺いました。3回連載の1回目です。


学生たちの柔軟なアイデアを活かし、プロジェクトを一から共創する

ーー まずはこのチームが結成した経緯を教えてください。

今原:
産学官連携を推進する先生たちのゼミ生が中心となって2022年の6月に結成しました。この年は県内企業が3社参加してくださり、学生十数名が企業ごとのグループに分かれてそれぞれプロジェクトを進めていくかたちです。

どの企業も魅力的なのですが、松文産業さんは学生主体でものごとを進めたいという自由な雰囲気が強いですね。

坂口:
3社とも面白かったのですが、小泉社長のパッションに惹かれました!

石川:
僕は繊維系の学科だったので、一番学びが活かせるかなと思いました。

小泉:
松文産業としてもこうしたプロジェクトは初めてだったので、自社の新技術を使った布をテーマに、みんなで一からプロジェクトを作ろうってお話させていただいたんですよ。

プロジェクトへの参加を決めたときは「工学部の学生なので賢いに違いない!」くらいの気持ちだったんですが、実際に頭の回転も早いし、20歳以上も離れていると、色々な発想が出てくるからすごく楽しいです!

松文産業が独自開発したダンボールのような生地、中綿素材のような生地を活用したサウナハットとマット。1枚の布として織られ、糸くずが出にくく遮熱性が高いなどサウナとの相性が良い

ーー プロジェクトはどのように始まっていったんですか?

今原:
まずはアイデア出しのために工場見学をさせていただき、ブレストから始まりました。そのとき、「色々なヒントを結合させたほうが新しいアイデアが出るだろう」ということで、自分たちの好きなことも積極的に会話するようにしました。

坂口:
それで、どんなものが欲しいかを結びつけて、サウナハット、サウナマットというテーマに。

今原:
最初はマスクを作ったんですよね。
繊維を使って何かしましょうというのが2022年の6月か7月で、そこから8月末に開催される福井大学アイデアプランコンテストにむけて企画を進めていったんです。学生3人の共通項がスポーツだったので、運動に特化した通気性のあるコロナ対策マスクを作ろうと。

マスク自体はコンテストで最優秀賞をとらせていただいたんですけど、商品化の時期にマスクが売れるのか?という観点や、コスト面の課題から商品アイデアを見直すことにしました。

「福井大学アイデアプランコンテスト 2022」で最優秀賞を受賞した今原さん、坂口さん、石川さん(提供:今原幸大)

小泉:
みんなアウトドアが好きだから「布のお皿があったら楽しいかも」「植木鉢みたいな形状にしたらどうだろう?」と話をしている中で、これを帽子にしてみたらどうだろう?というアイデアに辿り着いたんですよね。撥水性もあるし、保温性もあるし。

イノベーション対話の難しさを超えて、学んだこと

i-GARAGE HUBに参画した福井大学大学院生の坂口さん(左)、石川さん(右)

ーー アイデア出しはサクサク進んだのでしょうか?

小泉:
アイデアを出すことよりも、まとめることが難しかったですね。
産総研の先生方も含め、みなさん議論を妥協しないですし、哲学的な話にもなったり、頭が良すぎる会話に理解が追いつかないときもありました(笑)。でも、ふだんの業務だけでは、そうした話を聞ける機会もないですよね。

坂口:
多方面のプロフェッショナルという視点の違いから、議論が白熱したのち振り出しに戻ることもたくさんありました。でもそのおかげで、自分たちがもっと前に出てやらないといけないと思ったんです。

最近は、技術的な研究だけではなく、どういうふうに売り出すかも、少しずつ自分たちから提案できるようになりました。

石川:
僕はものづくりの経験がなかったので「必要なものを作れば売れるのかな」と思ってたんですけど、マーケティングやターゲット設定の重要性を知ることもできて、学びが多かったです。

今原:
このサウナハットを体験できるサウナイベントを昨年11月に主催したのですが、そこでも効果的なターゲット設定について実践的に学ぶことができました。すべての人に売ろうとするのではなく、どんな人を対象にすれば結果が出やすいのか具体的にイメージがわきました。

ーー 技術者として、自分の研究がどう売れるのかをイメージしながら進めていくということですね

社会に出てから何年もかけて学ぶことが凝縮されたi-GARAGE HUB

i-GARAGE HUBで活動する福井大学大学院生の今原さん(左)、松文産業の小泉社長(右)

今原:
じつはi-GARAGE HUBは参画した2022年度内に終わる予定だったんですけど、僕たちはそのまま「i-GARAGE HUB+」として1年半続けています。今では、意見の食い違いも「色々な選択肢を知った上で、自分たちが何を選び取っていくのか?」という視点で捉えられるようになりました。

坂口:
大学生活中に、自分の技術に対するニーズを考える機会がなかなかないので、すごく刺激をいただいています。

石川:
会社に入ると、開発は開発だけ、営業は営業だけになるので、一連のものごとを経験するのに何年も何年も時間がかかると聞いています。今回、少人数で技術から売り方まで関われたのが良かったです。

小泉:
今回のプロジェクトが3人にとっても良い経験になっていたら嬉しいです。
人材採用の観点からいうと、大学在籍中の4〜6年間で、机に座っている以外の勉強で何をやってきたかが、企業側としては気になるところ。

ものを作るだけだったら、高卒のほうが物覚えもいいし生活リズムも乱れていない。
その中で大卒の方を採用するのは、経験値を買うんですよね。学生時代に社会人として何かしらの成果を出していることは大きいですし、ほかの人より一歩リードして仕事をはじめられると感じています。

サウナを科学し、福井の産業を発信できるブランドへ

i-GARAGE HUBのイノベーション対話を通じて「福井サウナプロジェクト」の構想が浮かんだと語る松文産業の小泉社長

ーー 松文産業の小泉社長は、このi-GARAGE HUBへの参加を通じてある構想が頭に浮かんだとお聞きしました。くわしくお伺いできますか?

小泉:
ただ単に自社のサウナハットを売る売らないの話ではなくて、「福井サウナプロジェクト」みたいな感じで県内のサウナ関連企業や仲間を増やし、サウナで福井を売っていく。そんなかたちができればいいなと思っています。

豊かな自然環境とサウナをウリにしている地域は日本各地にあるけれど、サウナを学術的に検証しながらものづくりの観点で地域を発信することで、福井らしい売り方ができるんじゃないかって話してたんです。

せっかく1年半かけてみんなでやってきたことを、一つの製品だけでおさめるのはもったいない。こういう試みを色々な人に知ってほしいし、仲間を増やしたい。そんなふうに考えています。


●松文産業は、2月6日(火)から東京ビッグサイトで開催される東京インターナショナル・ギフトショーに県内外の仲間たちとともに出展。i-GARAGE HUBから生まれたサウナハットも展示し、より多くの方からのフィードバックを得ながら、販売へとつなげていく予定です。

(インタビュアー:山崎 瑠美)


●産総研デザインスクール 小島一浩校長から読者へのメッセージ

i-GARAGE HUBには2020年から関わらせていただいています。
今原さん、坂口さん、石川さん(福井大生)と小泉さん(松文産業)とのイノベーション対話は、「福井の川中(かわなか)産業構造をなんとかして地域産業を盛り上げたい!」「自分達はサウナが好きだからサウナで盛り上げたい!」という想いが出発点となり、サウナで盛り上がった福井を妄想し、実験と失敗を繰り返しながら進みました。

これは、特許庁が発行する「中小企業のためのデザイン経営ハンドブック みんなのデザイン経営」の「デザイン経営の9つの入り口」にも書かれている

・未来を妄想する
・意志と情熱を持つ
・実験と失敗を繰り返す
・社内外の仲間を巻き込む

の実践に対応し、チームの駆動力として強力に働いたことでしょう。
チームの活動は、妄想の実現に向けて継続します。ぜひ、応援をお願いします。

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