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北海道立総合研究機構×産総研デザインスクール 「観察と対話によるデザイン思考」ワークショップレポート

産総研デザインスクールの修了生・現役生の活躍を紹介するnoteマガジン「​​AISTDS修了生アンバサダー」。初の記事は、産総研デザインスクール5期生の宮島沙織さん、6期生の大久保京子さんが所属する北海道立総合研究機構様で開催されたデザイン思考のワークショップをご紹介します。本ワークショップは、5期生の宮島さんの企画で所内研修の一環として開催されました。産総研デザインスクール校長の小島一浩が講師を務め、宮島さん、大久保さんとの共同企画・ファシリテーションを実現。その一部始終をお届けするイベントレポートです。

2023年11月28日(火)、北海道立総合研究機構(以下、道総研)の所内研修に講師として参加するため、産総研デザインスクール校長の小島一浩は北海道・札幌へと向かいました。産総研デザインスクールは2023年に6期目を迎え、道総研からは2名の受講生をお送りいただいています。

道総研は2010年の設立以来、農業、水産、森林、産業技術、エネルギー・環境・地質、建築・まちづくりなど幅広い分野で研究開発を行い、外部機関との連携を図りながら研究成果を生み出しています。研究成果を産業、社会により貢献していくために必要なスキルとマインドを学ぶ機会として、研究所内で年3回のMOT(Management of technology)研修を実施しています。今回は小島が講師となり、企業連携では欠かせない「ニーズの引き出し方」をテーマとして、産総研デザインスクールの研修スタイルをベースに2時間の研修を提供しました。

産総研デザインスクール校長 小島一浩 

相手のニーズを引き出す 〜観察と対話によるデザイン思考

研修のテーマは「相手のニーズを引き出す 〜観察と対話によるデザイン思考」。道総研から約20名が集まり、研修にご参加いただきました。冒頭は産総研デザインスクール校長の小島より、本研修における目的と期待する成果を共有します。

小島一浩(以下、小島): 研究開発や技術支援、もしくは日常業務のなかで「相手のニーズを知りたい」と思うシーンがあると思います。今日はワークを通して、相手の価値観やニーズを知るためによく観察し、対話を促す問いかけを意識できるようになることを目指します。

会場に入ると、講義でよく使用されるスクール形式ではなく、5〜6人のグループごとに机が配置されていました。机をよく見ると、真ん中にはおもちゃのレゴが。講義直前、参加者の皆さんも興味津々のご様子でした。この設定にも意図があると、小島は言います。

小島: 本日の研修はワークショップ形式を採用しています。ワークショップは本来、つくる・対話する・学ぶという3つのサイクルを行います。手と頭と心を総動員して、ワークを進めていくのが産総研デザインスクールの学び方の特徴です。

その後、「チェック・イン」という活動を実施。これは研修や会議を行う前に、参加する全員がその場にコミットするための活動です。小島は「最近誰にプレゼントして、どのくらいの時間を使って選びましたか?」という問いを会場に投げかけ、参加者はグループ内で共有していきました。

一見シンプルなアイスブレイクに見えますが、相手のニーズを知るというテーマに対してプレゼントを選ぶ行為は類似性があり、次のワークへの架け橋になります。こういった問いは「足場がけの問い」として、通常のコミュニケーションにおいて後に続く対話のきっかけになると、小島は説明しました。

「目で聞く」コミュニケーションの体感

今回の研修では、2つのワークを用意。その一つ目が、机の上にあるレゴを使ったワークです。そのワークの内容は、【①レゴを使って一つの構造物をつくりあげる】というチームのミッションと、【② チーム内の個々人に渡されたタスクを遂行する】という個人のミッションを両立させること。なお、個人のミッションはチーム内で明かされません。

誰がどのようなタスクを持っているか不明確な状況で、チームとして一つのミッションを完了させなければいけません。さらには、言語を使ったコミュニケーションまで禁止されます。どのようにタスクを進めていくのでしょうか…。

ワークの序盤は、皆さん探り探りレゴを動かしている様子。自分で積み上げたレゴが、他の人に取られてしまい困惑している方もいました。ここで中盤、小島からとあるヒントが加えられました。

小島: チームの状況を確認してみましょう。個人ミッション、チームミッションがそれぞれどのくらい達成できているか、指のサインで0〜10の間で示してみてください。うまくいっている人と、そうでない人がいると思います。その状況を踏まえて、両方を達成するにはどうしたらいいでしょうか。ヒントは、手元ではなく相手をよく観察することです。

すると、チーム内のコミュニケーションが変わりました。手振り身振りを使ってコミュニケーションを取ろうとしたり、個人ミッションの満足度が低い人をよく観察して意図を推しはかろうとしたりする方がちらほら。目線がぐっと上がったのです。

ワーク終了後、このワーク中に何が起きたのか、そこから何を学んだのかを内省する「振り返りシート」を記入していきます。その内容をもとに、チーム内で学びを共有。参加者の皆さんからは、以下のような振り返りのコメントがありました。

・LEGOを使ったワークを通して、不確実な状況ではタスクだけでなく人を観察することが有効だと思いました。
・最初は好き好きにLEGOを積んでいたが、ある人がジェスチャーで「ストップ」を示した。場面を展開する人がいることは必要だと感じました。

小島からは加えて、ワークに関する意図の説明がありました。ここでは「目で聞くこと」の重要性を説きます。

小島: 最初はブロック、手元に集中していたと思います。チームのコミュニケーションの質が変わったように「目で聞くこと」が大事です。目の前のタスクだけでなく、人を見てみましょう。

まずは自分から行動して、相手の反応を受け取ることも大切です。企業とのコミュニケーションでも、相手の話を聞くだけでなく、こちらからアイデアを提供して反応・フィードバックをもらいますよね。否定される場合もあるかもしれませんが、それも一つのフィードバックで、情報を得たともいえます。デザインでいうプロトタイプにあたります。

互いを知り、ニーズを引き出す3人対話

言語コミュニケーションを禁じられていた一つ目のワークと打って変わって、二つ目のワークは対話を通してお互いを知り、ニーズを引き出すための問いかけをテーマに進行します。まずは個人で「最近仕事で嬉しかったこと」を3つ考えてもらい、卵型のワークシートに書き出してもらいます。その内容について、3人1組で問いを投げかけあい、深めていくというプロセスです。

実際の進行に入る前に小島と、本研修の企画した産総研デザインスクール5期生の宮島さん、同じく6期生の大久保さんが対話のデモンストレーションを行いました。まずは宮島さんが話し手となり、小島と大久保さんが聞き役を演じます。一通り話し手が話し終えたら、聞き手役が問いを投げかけます。

「一番嬉しかった周りからのフィードバックはどのようなものがありますか?」「もしも同じような状況で後輩が困っていたら、どのように声かけしますか?」。このように具体的なエピソードを想起させる問いかけによって、話し手側の思考がどんどんと深まっていきます。

事前のインプットを得たうえで、参加者どうしで対話と問いかけを実践していきました。セッティングが変わることで、場の空気が一変。前段のレゴのワークも相まって、相手の目をみる機会が増え「お互いを知ろう」「相手のニーズは何か、どのように貢献できるか」を考え抜いて問いかける参加者の方が多くいらっしゃいました。

3人対話後、各グループ内での振り返りを経て、小島から対話と問いかけについてのインプットがありました。小島は「会話・対話・議論」の違いを説明。答えが一つではない複雑な課題を扱う、誰もが正解がわからない中でものごとを進めるといった場面では、共に探求する姿勢、つまり対話における問いかけが重要となります。会場では参加者の皆さんが体験したワークを思い出しながら、小島によるインプットで理解を深めていきました。

学びを収穫するための振り返り

実は、2つのワークの間には「振り返り」の時間が用意されていました。産総研デザインスクールの学び方の基本にある「経験学習」を採用しています。経験学習では、まずはものごとをやってみて(経験)、起きたできごとを振り返り(内省)、そこで得られた学びを他の経験に活かせるようにし(概念化)、次の実践へとつながります。

経験学習モデル

身体性を重視したワークだからこそ、普段の業務や日常生活で活かせる形で学びを概念化することが大切です。今回のワークショップは、概念化した学びをグループ内で共有する形で幕を閉じました。

・日常業務で、振り返る習慣が減っていたので、活動のあとに毎回振り返りを入れることの重要性を感じました。これからの仕事やプロジェクトで活かしていきたいです。
・日常ではつい相手の反応を”察しよう”としてしまいますが、目で耳で聞いてコミュニケーションをとれるようにしていきたいです。

以上、道総研で行われた「相手のニーズを引き出す 〜観察と対話によるデザイン思考」ワークショップの様子をお伝えしました。次の記事では、今回の研修の発起人であり、企画・当日のファシリテーションを行った産総研デザインスクール5期生・宮島さんと6期生・大久保さんに研修への想い、産総研デザインスクールの経験を取材しています。ぜひご覧ください!


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