見出し画像

それをサイトにどどーんと飾るの 『ポニイテイル』★39★

 前の話を読む・ 最初から読む

ツリーの最先端、ティフォージュ城の最も高い場所。

黒髪の魔女と栗毛の妖精が、並んでバンビとハムスタを迎えてくれた。

「きゃあ! レミ先生! なんでココに?」

「ふふーん。何でだと思う?」

「嬉しすぎてわかんない!」

「あどちゃんの浮気相手と……決闘しに来たの」

レミ先生は、さくら貝のように笑った。

「げげげ! ホ、ホントに?」

「冗談。わたし、今度からココで働くことになったの」

「ま、マジですか!」

「あ、その代わり、あたしが辞めるんだけとね」

城主レエも、さくら貝のように笑った。

「うぎぎぃ! レエさん、辞めちゃうの? い、いい! 何でですか」

「なんでだろうね」

あどと同じ誕生日のやせパンダが、笑顔で冷たくいい放つ。

「花園のせいだろ」

「ウ、ウチの?!」

「そうだね。あどちゃんのせい」

「ええ!」

「だって、あどちゃんがそれを持って」

城主の鋭くとがった赤い爪が、あどが肌身離さず持っているユニコーンの角を指さす。

「素敵な話を聞かせるから。あんなミラクル見せられちゃったら、もう一度歌いたくなっちゃっうよ」

「ひぇ! レエさんゴメンなさい」

「もうエネルギーは抑えない。ありがとう。感謝してる」

「そんな! ウチに感謝とかもったいないです!」

「あのあと、新曲作ったよ。あと少しで完成。できあがったら……聞いてくれる?」

「はい!」

「じゃあ、みんなで、お誕生日の乾杯をしよう」


7月7日と同じ——ちょうど夕方が終わり、夜にバトンタッチする寸前の、空が複雑な色彩に輝く美しい時間だった。

白い大きなテーブルがセッティングされ、そこには料理が苦手なレエが作ったシーザーサラダと、料理が得意なレミ先生が作ったロシア料理のビーフストロガノフ、そして魔女と妖精の合作のアップルパイが3人への誕生日のお祝いとしてテーブルに乗っていた。

「レミ先生とレエさんは友だち?」

鈴原風の質問に、妖精と城主は答えない。

「名前も似てるし……もしかしてひょっとして、姉妹?」

「話すと長くなるから言わない。ね、レミちゃん」

「うん。言わない」

すべてを見続けてきたレエは、あどと風がしていたように、レミの体をぎゅっと引き寄せた。ずっと昔からの、友だちみたいに。


きっと、レエさんの物語とレミ先生の物語がクロスしたんだ。

あどは空を見上げる。

東京の夜空には、流れる星も天の川も見えない。


「じゃあいくよ、乾杯!」

「お誕生日おめでとう!」

「いただきます!」

「うんまーーい!」

レミとレエは仲良く赤いワインを、少年と少女2人はマカムラが魔法びんにいれて持参したアイスココアを飲んだ。マカムラはこれから始まる砂漠での生活に備えてるのか、何も飲まない。

「おお、これもうまい!」

「ヤバい。これマカムラが作ったの? うま過ぎだよ。スペシャルココア?」

「大げさだなあ。フツーにチョコレートパウダーとミルクとお湯で作った」

「お湯? 熱くないよ?」

「氷で冷やしたんだよ! まったく……日本は料理もミシンも自由にできる国だぞ。はい。これ、プレゼント。もうバレバレだけど」

マカムラは『MILKY・WAY』という文字入りの、緋色のルビーが3つ散りばめられたブレスレットを少女2人と自分自身に渡した。

「おお! 」

「うわ、あたしに? ありがとう! すごい! めっちゃ嬉しい!」

「一応、3人おそろい。飽きたら捨てていいから」

「捨てないよ! 一生とっとく」

「うん。角でしょ、クッキーでしょ、部屋とブレスレット! ウチ、もらい過ぎ!」


新城主となるレミ先生が、お嬢さまの頭をなでる。

「元気そうだね。あどちゃんが病人病人っていうし、学校も休んでるみたいだから心配したけど」

「はい、病気完治しました!」

「じゃあリンリン、学校行かなくちゃ!」

「もうすぐ夏休みだけどね」

「病気? オマエ、病気だったの?」

「リンリンはね、ネットで頭が巨大病だったの」

「あ、でも完治はしてないか。だってまだ、あれが完成してないもんね」


風はタブレットを取り出し、リニューアルされた『ポニイテイル』のトップページを表示させた。

「ミヤコのおばあちゃんから、このサイトと管理人を引き継いだんだ。ミヤコウマとか全然接点無かったけど、あのサイト誰も見ていなかったし、このままかわいいミヤコウマが絶滅したら……できることをしたいってパパに相談したら、今すぐ沖縄に行けって。そしたらあっという間に管理人になっちゃってて」

「ふうちゃんのパパ、行動力ある人なんだ」

レミ先生が笑うと、なぜかマカムラが張り合う。

「オレの師匠だって負けてないよ」

「うん。それはわかってる。わたしに相談もなく、いきなりオーストラリアだもんねぇ。困った人だ」

「ところでさ——」

小学生管理人は、ユニコーンの角をハムスタの額にぴたりとくっつけた。
「あどちゃんだけだよ。みんなに誕生日プレゼントしてないの。もらうばっかりで返してない」

「うぐぐ……」

「そこで——」

「ひぇぇええ! 何さ!」

「おばあちゃんが考えたミヤコウマ文学賞ってアイデア、やっぱ、メッチャいいと思うの。でもいきなり物語を募集するんじゃなくてね、あどちゃんにあの物語の続きを書いてもらって、それをサイトにどどーんと飾るの。どうかな?」

「ウ、ウチの物語を飾るの?」


『ポニイテイル』★40★へつづく

読後📗あなたにプチミラクルが起きますように🙏 定額マガジンの読者も募集中です🚩