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宇宙には詩人を連れていくべき 『ポニイテイル』★33★

前回の物語を読む


レミ先生はいきなり顔マッカッカになった。

スピードを落とし、車を端に寄せた。

「びっくり! な、何で知ってるの?」

「ウチ、読みました。っていうか買いました。自分のお金で」

「ど、どうやって調べたの?」

「こっそり後をつけたり、パソコンオタクのふうちゃんに調べてもらったり」

「そっか、電話でオルフェって言ってたの……たまたまじゃないんだ」

「ごめんなさい。ていうかなぜオルフェなんですか? もしかしてウチたちが妖精とか好きだから?」

「マカムラくんのおかげ」

「マカムラっち?」

「あの詩集はね、詩人仲間の、ご褒美の出版みたいなもので。もう、全然売れてないよ。それこそ1年に4冊ペース。全世界から忘れられた存在。でもあどちゃん、よく発掘してくれたね。しかも買ってくれたんだ」

「はい!」

「ありがとう。嬉しい」

こっちも嬉しいのに、ハムスタの目から涙があふれる。コレ、かけるの忘れてるよ、とレミ先生はあどにサングラスを手渡した。ふたたび赤い車のスピードが上がり、風圧が強くなる。


「先生! なんか、サングラスって宇宙人気分になりませんか?」

「わたしね、子どもの頃の一番の夢は、宇宙に行きたかったんだ」

「宇宙!!」

「宇宙に関わる人って、みんな理科とか算数がすごくできるの。あどちゃんは算数とか理科、得意?」

「自慢じゃないけど、苦手です!」

「わたしも。だから子どもながらにそんな世界はムリだなってあきらめてたら、ある本に『宇宙には詩人を連れていくべき』って書いてあったのを見つけた」

「え? 宇宙に詩人を? 何でですか?」

「詩なんて、役に立たなそうでしょ。ロケットを作ったり、すごいコンピュータを作ったりする人の方が偉いような気がするでしょ。でも、詩人はそんな人たちすべての心を支えるの。力強い言葉で勇気を奮い立たせるの。そして宇宙で得た感動を美しい言葉にして、地球の人々にメッセージとしてプレゼントする」

レミ先生はあどのリュックをちらりと見た。

「あのカフェでね、その角を頭にのせていたら」


金色の角の先っぽが、ちょこんとリュックから顔をのぞかせている。


「いきなり宇宙に連れ出されちゃったの。いたずらのユニコーンに。信じてくれるかな?」

「信じます! すごい! 宇宙にですか! いいな」

「いいでしょ。そしてね、その宇宙で詩を書いた」

「12秒の間に?」

「宇宙からのメール。『Uメール』っていう題名なんだけど。宇宙って英語でユニバース。さらにユニコーンのUもかかってるミラクル」

頭上にひろがる空はマヌケなほど青く「もうすぐ夏休みだよう!」とうかれているような明るさで、レミ先生はそんな7月の青空に向けて、ユニコーンに乗って創った詩——『Uメール』を放った。


* * *


もうすぐ海だよ——レミ先生は言った。

意外と海まで遠かった。もうすぐ海、もうすぐ海だよ。これで3度目のもうすぐ海だ。おみやげに貝でも拾って帰ろうとか言ってたけど、そんな時間あるのかな。レミ先生、このあと新しい仕事場に行くんだっけ。あ、遊びに行くんじゃないもんね。気持ちの準備とか仕事の準備とか、いろいろあるよねきっと。ウチと遊んでる時間なんてないよね。でも……もっといっしょにいたい。ギリギリの時間まで、いっしょに。

「今でも宇宙に行きたい。宇宙で詩をつくりたい。わたし、前に彼にそう言ったらね」

「彼? レミ先生、彼氏さんがいるんですか!」

「うん、いるよ」

「ショック!」

「あらら? なんであどちゃんがショック?」

「デート中にショック過ぎますよ!」

「わたしもショックだったよ。レエさんだっけ? すっごく美人なんでしょうね」

「いいい! レミ先生はかわいいです!」

「あは! そんなふうに、言葉にしてくれたらうれしいんだけどね。今日だって休みのはずなのに電話もかけてくれない」

「ひどいヤツですね! うん。今すぐ別れましょう!」

「でも彼、わたしの宇宙に行きたいって夢、本気でかなえようとしているみたいなの。今の仕事のほかに、何やら一生懸命、お金になる仕事を探しているの」

「宇宙旅行なんて……安くないですよね?」

「億はいかないと思うけど。あれ? いくのかな」

「億!」

「そう。でもなぜかわたしのために本気になってくれてるの。その夢はゼッタイかなえた方がいいって。頼んでもないのに勝手に」

「億もかかる夢をかなえるって、どうするんだろう、想像もつかない」

「なんか彼ね、お金稼ぐために……」

レミ先生は思い出し笑いをしながら言った。

「隕石ハンタになるんだって」

* * *

Uメール


U宙なう ついに圏外! 

地球が見える ひとつに見える!


約束したUメール さっそく送るね

いつ届くかな わからないけど

空を見上げて 受信してね


I LOVE U


メールにしては シンプルすぎる?

てUか 

遠距離恋愛にも ほどがあるね


今のきもち 正直にUと

やっぱりあなたに 来てほしかった


え?

来てくれるの?

うれしい

パワフルなあなたなら 

今からでも きっと

よU

ペガサスか ミヤコウマか ユ二コーンにのるといいよ


U宙ではすべてが軽い

たくさんの愛と  世界がまるごとひとつ

あなたの物語  わたしの物語

落ちていたユニコーンの角

ペガサスの銀色の羽根

消えかけているミヤコウマのしっぽ  

ぜんぶ合わせても たった77銀河バイト


U宙からのUメール

受信できたら それはミラクル

届けばいいな 

できればUの生まれた スペシャルな日に



ポニイテイル★34★につづく

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ポニイのテイル★33★ Uメール

ポニイテイルは、今まで周りの人に読んでもらっているので(たぶん20人くらい)いろいろな感想をすでにもらっています。でもこのnoteの場では、コメント欄をオープンにする気持ちにはなれませんでした。noteの有料会員になった最大の理由は、コメント欄をオフにできるからという後ろ向きなものでした。

でも、この章からはオンにします。

もう書きまくりすぎたので、どこに埋もれているのかわかりませんが、いつぞやの『ポニイのテイル』で、松尾芭蕉に関する『作品は作者の手を離れて存在する』という指摘を取り上げました。

すでに手は離れている——作品は自分が書いたけれど、それは自分のものではない。その感覚はとてもわかります。しかし物語の一番近くで、物語の誕生から成長まで見てきた作者が怯んで、積極的に誰かに届けようとしないのなら、物語というユニバースの中にいるすべてが、無いものになってしまうような気がしました。ブラックサンタだって生ごみを届けるというのに、自分は何を届けてきたのかな?

連載中の『ポニイテイル』については、2014年版の文章を読みやすく整えるだけで、かつての物語にほとんど改変を加えていないのですが、今回の章については、レミ先生の詩を手直ししました。

2014年当時、自分の中に『詩のポテンシャル』がゼロだったので、レミ先生の詩が表現できなかった。それは何年たってもしっくりこなくて、とても気になっていたのですが(レミ先生の想いを汲み取れていないという感覚がずっとありました)ついに、ユニコーンの角を借りて、それを直すことができました!

すごく嬉しいです。これもすべて、noteにたくさんの詩や表現をアップしてくれていた人のおかげだと思っています。毎日、ほんとうに毎日、私のタイムラインには詩が流れていました音楽が乗っている詩もありました。

私は『作品をとどける戦略』の1つとして、noteという世界において、この『ポニイテイル』を読んでもらうために、たくさんの人と表現をフォローしました。というのも、勇気を出して世界にとどけたつもりの『ポニイテイル』第1話が、ほんの数ページビューしか見られていなかったからです。

これはない。この状況を放置していたら自分はダメだ。つぼんでる場合じゃない。

今ならわかります。あれは画期的な、重要な1歩だったけど、ほんの1歩にすぎなかった。

自分が世に生み出した、物語の登場人物たちのことを想うと、そしてあどちゃんと同じくミヤコウマに代表される消えてゆく存在を想うと、そしてレエさんやリンリン、そして自分も含め、表現を世に届けられないことで何年も、何十年も迷っている人たちのことを想うと、羞恥心を押し殺してでも、柄でなくても、疲れていても、今すぐこの話を届けたいと思うようになりました。完全に思い込みだとしても、ここは勇気を出して、ポニイたちに乗って突っ走ろうと決意しました。

わたしはフォロワー数ではなく、フォロー数で1位になろうと思いました。フォロワー数+1000人が、フォロー数の限界と知り、今その上限を保っています。フォローしている人が多いと、タイムラインのnoteを追うのがとても大変になります。それでも可能な限り全部読もう、読めなくても少しでも、ちらりとでも目を通そうと考え、今までだらだら見ていたネットのニュースやゲームのアプリをやめ、雑誌も読書もやめ、サッカーの観戦も極端に減らし、トレーニングの回数を制限し、作り出した時間でnoteにアップしている写真や詩や俳句や絵やエッセイや小説、マンガを読みまくりました。

イラストを描いている人の気持ちを知ろうと、海馬くんのイラストを自分で描いてみました(時間がかかるし見てられないからやめましたが、3回は続けました)。お弁当をアップしている人はどんな気持ちだろうと思って、お弁当も作ってみました(恥を忍んで写真上げます)。いいわけですが、時間もぜんぜんなかったんです(7分くらい)。普通に、今食べたいものを詰め込んだら、インスタ映えの対極になりました。今までウェブで見た中で一番かわいそうなお弁当・・・もちにカフェオレって・・・お弁当を作られているみなさんのすごさが分かった瞬間でした。

音楽やラジオ、一言ボイスも聞いています。音楽を作る気持ちを知るために、音楽制作のアプリもダウンロードしました。ラジオ放送をやっている人をみならって、塾の子と一緒に収録もしました。まだアップしていませんが。今はプログラマの気持ちを少しでも知りたいです。

偶然、たまたま、数人にでも、自分を知ってもらうきっかけになるかなと、チャーハンのこと書いたり、ウィンタースポーツのことを書いたり、塾のエッセイを書いたりもしました。これも『ポニイテイル』のため。

もっとも労力がかかっている『ポニイテイル』の宣伝戦略は、『ヴィンセント海馬』くんです。物語を引き受けてくれる作家エージェントの人が現れたとき何ていうか。他の作品はあるのか、と私だったら知りたい。そして『ヴィンセント海馬』を書くことで、『カクヨム』への展開をはじめ、更に広がりが生まれるかもしれない。

『ヴィンセント海馬』は、準備ナシ、構想なしの、その場での製作。近頃は、毎日更新で精一杯で、時間確保のために、2日1度は夕飯抜きになっちゃいます。ときどき投げ銭をしたり(炭酸水を買うのをやめて、その分を投げ銭に充ててます)、コメントを残したり、時間がないときはスキだけつけたり・・・可能な限りnoteの空気を吸った人になろうと決めました。自分とは価値観や世界が違うと感じる、これまでだったら一線を引いてしまう人の文章も追いました。

それでも——控えめに言って、物語『ポニイテイル』に対してやれることの10分の1くらいしか手をつくせていない感覚があります。それを10分の10にするために、『TRY人』という振り返りnoteを3月1日から始めました。

書籍化にどのくらいの時間がかかるのかわかりませんが、2018年7月7日までに出版ということを考えると、タイムリミットがどんどん近づいている。それは困る。物語にもっと寄り添わなくちゃ。

どうしよう、助けてユニコーン。

そんな祈るような思いで体と頭を満たしたら、自分が物語の中にいるような、楽しい気持ちになれて、レミ先生の『Uメール』を無事受信することができました。さすが遠距離恋愛。発信から受信まで4年くらいかかりました。

本当に良かったです。

思い出に残る日になりました。

(長文にお付き合いくださり、本当にありがとうございました。)

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