あどとユニの話 『ポニイテイル』★46★

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時計の針をほんの少しもどして、7月4日日曜日の話をします。

プーコがブラウニー図書館に行った日、そしてあどがブラックフォールに行った日のことです。2人の女の子の、それぞれの日曜の秘密と冒険。

では……『あどとユニの話』から始めましょう。

彼女たちの住む町のはずれには、黒い水が落ちる大きな滝があります。通称ブラックフォール。プーコによると、この滝はとてもくさい匂いがして、うっかり近づくと黒竜が現れて、子どもを捕まえて食べてしまうという話でした。黒竜は長くて鋭いその牙で子どもを震え上がらせ、身動きできなくなったところでガブリと噛みつき、丸のみして跡形もなく消化してしまうそうです。

「ブラックフォールのほとりの草むらにはね、子どもたちのランドセルやクツがたくさん落ちているんだって。あどちゃん、ゼッタイに行っちゃダメだから」

その話をあどが聞いたのはだいぶ前のことで、あどはすぐさま滝に行ってみたいと思ったのですが、何日かたつと、ウワサはなんだか全体的にウソっぽく思えたし、町はずれまで歩いていくのも面倒なので(あどは自転車に乗れないのです)ブラックフォールや黒竜のことは忘れることにしました。嫌なことや怖いことをきれいさっぱりと忘れてしまうのは、あどの数少ない特技の一つなのです。

ところが誕生日が迫って来た日曜日、7月4日の朝のことです。あどは目を覚ますと、なぜだか突然、

「今すぐブラックフォールに行きたい!」

という気持ちにかられました。これほど今すぐどこかへ行きたいと思ったことは、今すぐトイレに行きたいと思ったときを除くと、一度もありませんでした。

「ひょっとして、これは黒竜がウチを誘っているのかも!」

運命を感じたあどはさっそく冒険の支度を整えて、張り切って家を出ました。久しぶりに血迷って顔を洗っちゃったくらいです。防水のデジカメもちゃんと首からぶらさげました。

とちゅう3回くらいしか休けいしないで、あどはひとり、7月の暑い一本道を歩きつづけ、ついに町はずれのブラックフォールにつきました。あどはまず、ブラックフォールのてっぺんに行って、高いガケの上から真下を見おろしました。滝の水はたしかに黒いけれど、くさくはありませんでした。くさいどころか、あまい黒みつみたいなにおいがしました。手にすくってみると、ベトベトしていて、なめるとあまくて、冷たいお茶が飲みたくなり、とてもこまりました。

このブラックフォールのてっぺんから下をながめると「誰でも黒竜にさそわれて、滝へ飛びおりたくなる」なんてウワサでしたが、そんなことはぜんぜんありませんでした。あどはためしに、そばに落ちていた大きな石を持ち上げて、滝の下にエイッと投げ落としてみました。石はみるみる小さくなって水の中に消えてしまいました。

「黒竜、いるの! いたら3秒くらいでいいからその顔を見せて!」

さけんでみましたが、黒竜のかわりに、そばにいたセグロセキレイたちがチチチとかわいらしい声で鳴くばかりです。頭上にひろがる空はマヌケなほど青く「もうすぐ夏休みだよう!」とうかれているような明るさでした。いくらレアな黒竜にたのまれても、こんなに高いガケから、しかも意外とのどかで気持ちよいところから、飛びおりる気にはなれません。

そのあとあどはガケ下へおり、滝のほとりの草むらに行きました。
『立入禁止』『あぶない!』という大きな看板はあったけれど、プーコへのおみやげにしようとたくらんでいた『子どもたちのクツ』や『ランドセル』なんて、ひとつもありませんでした。

しかたがないのであどは竜を撮るつもりのカメラで、あたりに落ちていた石ころの写真を撮っていました。石ころの中には人や動物の顔に見えるものもあって、そこそこおもしろいからです。プーコにそっくりな石もあって笑えました。

とはいえ、石ころの写真撮影なんて、4ギガを使いきるほど夢中になれるおもしろさではありません。あどはとちゅうから撮影がつらくなってきて、最後の1枚の石ころの写真を撮り終えたとき、すっかりイヤケがさしていました。

もう石ころなんて見たくない。竜が見たかっただけなのに。最後に写真を撮った自分の顔にそっくりの石は、滝へ思い切り投げつけました。日曜日が完全にムダになったと思いました。

そのときです。

滝つぼのふちに、何か、金色のぼうのようなものが浮かんでいるではありませんか! あどは落ちているものや浮かんでいるものは、ひとまず拾うことにしています。それが金色だったらなおさらです! 金色のぼうはエンピツくらいの長さで、まき貝のように、ぐるぐると先たんにむけて細くなっていました。絵本でさんざん見たことがあったから、これが何かは一発でわかりました。

「こ、これは……」

それはさわらないときは金色なのに、手に持って空にかざすと、とうめいになります。

「ユニコーンの角!」


『ポニイテイル』★47★へつづく

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