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大ピンチ!髪型がッ! 『最善手ドリル』★9★

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こんにちは! 藍澤誠です。

塾の先生をしていると大小さまざまな「生徒のピンチ」に直面します。そんなとき、どういう方針を取れば良いかについてのドリルです。

【問題】

高校2年生男子サイサイくんが、塾に来るなりずっとフードをかぶっています。「どうしたの?」と聞くと、テンションどん底の理由は——

(1)部活が忙しく時間がない。そこで行ったことのない「10分カット」みたいなところで髪を切ってもらった。
(2)やってみたい髪型があった。写真を見せたらたぶん出来るといわれたのでお願いした。
(3)片側をモヒカンのように刈り上げられ、その反対側は、ほぼ手つかずで放置された。
(4)勇気を出して抗議すると、「これ以上はもうできない」と言われ、逆に「写真と同じだろ」とキレられた。
(5)死にたいくらい哀しい気持になっている。

このような状況で、塾の先生ができる対応はどのようなものでしょうか?

①甘やかさず「美容室あるあるだよ」と自分の失敗談を話す。
②専門家の力を借りる。つまり「自分の行っている美容室」に相談する。
③塾の子に「美容師志望の子」がいるので、その子と一緒に修復する。

制限時間1分


【解説と解答】

まず「死にたいくらい哀しい気持」になっているのに、塾にきちんと来てくれたサイサイくん、偉い。よく来たね。そんな勇気を出してくれたのに「美容室あるあるだよ」という①の対応は、明らかに不十分。自分の失敗談を話したところで、気分は紛れるかもしれないが、状況は少しも改善されない。改善したいのは、髪型であって気分ではない。

③は論外の悪手。たしかに「美容師志望の子」もいるし、「美容師のたまご」としてトレーニングしている子はいるが、プロである「10分カット」の美容師が再現できなかった写真のイメージに、素人が辿り着けるとは到底思えない。お相撲の消しゴムのときに登場した「マグマちゃん」は、友だちに切ってもらって「面白すぎる髪型」になったばかりだ。また段取りを整えるまでに時間がかかり、その間にずっと「死にたいほど哀しい気持」を抱え続けることになってしまう。手持のスキルで全力を尽くそうとする、仲間と解決しようとする姿勢は評価したいが、そうしたアプローチの姿勢自体に意味はない。

最善手:②専門家の力を借りる。つまり「自分の行っている美容室」に相談する。

◎実戦の棋譜を見てみよう

美容室にその場で予約の電話しました。さらに現状の髪型を撮影し、それをメールで送信。他の塾の子たちのスケジュールをちょっと調整。時間を少し作って、翌日、本人を美容室に連れて行きました。

美容師さんの判断と対応は以下のようなものでした。

①襟足のバランスがアシンメトリー過ぎるのを修正。
②右サイドの内側を少々切り込み、前から見た時のバランスを修正。
③前髪は残しつつトップの長さを切り、全体の馴染み感を作りました。
④つむじがかなりパッツン切り込まれていたので修正。
⑤全体の量感を修正。

結果、まったく別人に! 本人はものすごく喜んでいました。あんなにテンションが上がったサイサイくんを見たのは初めてです。修正したとはいえ、ファンキーな髪型なので、学校の先生にはぶつくさ言われたようですが、本人としては0の気分から100まで上がったので、本当に良かったです。あとお願いした美容師さんが「わずかな時間でここまでやれたのはすごい」と同業者を褒めていたのも印象的でした。

◎実戦のポイント

この最善手自体はシンプルなのですが、塾の先生の側としては、乗り越えなくてはいけない心的な課題はいくつもあります。

まず「自分がオススメした美容室で状況が改善されなかったらどうしよう」という不安感。また「結局、本人に気に入ってもらえなかったら」というネガティブな推測。さらには「独断で改善策を施すことに対する許可」を、サイサイくんの母親から得られるか——その説明に使うちょっとした労力。成功するか見通しが立たないので「カット代は塾で出してやりたい」という一方的なリクエストを出せるか。そして「他の子のスケジュール」を、急遽調整することに対する申し訳なさ

こうした心的マイナス要素を全部クリアしないと「面倒くさいからいいや」という放置、あるいは「美容室あるある」として笑い話に変えるかのどちらかになります。でも、私が美容室に行かせた最も大きな理由はポジティブ

美容に関する仕事を本気でやっている人がいる

ということを知って欲しかったからです。10分カットは行ったこともないし、需要と供給がマッチしているから存在しているので、特にそれに対してコメントはないのですが、その一方で、仕事としてその道を追及している人がいることを知るのは、サイサイくんにとって大きな財産になると思ったからです。将来仕事をするときに、サイサイくん自身が「誰かのピンチを救ってあげる」という経験をすると思います。その「救いたい」と思った根底のところに、今回の経験が生かされることになったらいいなと思います。


★10★へつづく

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