5:13起床。

天気は晴れ。
空の色が、いつもより薄い。
鴇色の空気は、いつもより濃い。

どこにも行けない。
どこにも逝けない。
だから、
僕は、生きている。

「なにもしない」をする。
それって、
どうしたらいいんだろうね。
あ、プーさんのことね。

「なにもしない」をする……。

「働かない」をする？
「稼がない」をする？

でも、
僕はそれをしないと、
生きていけない。

まったく、
人間っていうのは、
厄介な生きものだ。

そりゃ僕だって、
働きたくないわけじゃないけど。

でも、
この社会で働くっていうことは、
イコール、
その社会の、人間の１人になれってことだ。

社会にいる人間。
社会人。

社会を反対にすると、
会社になる。
会社にいる人間。
会社員。

つまり、
会社員は社会人で、
社会人になるっていうのは、
会社員になることであって……。

じゃあ、
働いていない僕は、
社会人とは、いえない？

でも、
働くために動いてはいるし、
働くために勉強しているし……。
ああ、頭がいかれてしまいそうだ。

というか、
そもそも、
僕は、
社会人になりたいの？

なりたく、ないですね。
……っていったら、
たぶん、罵られますね。

世のため人のために生きることが、美徳である。
自分のために生きることは、悪徳である。

……ですって。
プーさん、どう思う？

自分のために生きるって、悪いことらしいよ。
だから、
自分のために生きる人は、悪い人なんだって。

プーさんは？
「なにもしない」をしているプーさんは、悪い人なの？

……あ、ごめん。人じゃなかったね。
えっと……そうだな、悪いクマなの？
僕には、
悪いクマには見えないけどね……。

プーさんは、なんて答えるかな。

わるいクマ？
わるいクマって、なに？
クマは、クマだよ。
わるいとか、いいとか、
ぼくには、わかんないや……。

僕はそのことばに、
うんうんと肯いた。

クマには、
いいも悪いもない。
でもね、プーさん。
人にはね、
いいも悪いもあるんだよ。
おかしいよね。
あの人は、いい人。
あの人は、悪い人。
そんなの、他人にわかりっこないのに。

プーさんも、
うんうんと肯いた。
……肯いてほしいな。

クマはクマ。
ヒトはヒト。
だから、
ぼくはぼくだし、
きみはきみだよ。

プーさんが、
僕の手をぎゅっと握る。

そうだね。
僕も、彼の手を握り返す。

そんなことより、大変なことが起きているんだ。
大変なこと？
ぼくのおなかが、ぐうぐう鳴っている。
はは。それはたしかに、大変なことだ。
これは、はちみつを探さなきゃいけないってことだ。
はちみつ……いいね。僕も、ついていっていい？
もちろん。

こうして僕らは、
まだ見ぬはちみつを求めて、
あてもなく歩きだしましたとさ。