カトルとタタン_2_

「なんでもないよ、」

「カトル、カトル」
「なあに?」
「ぼく、すごいことを発見したよ」
「すごいこと?」
「こうして、こうやってね」
「うんうん」
「こうして、カトルをぎゅっとしてね、」
「あら、あなたがこうしない日なんてあったかしら」
「そうじゃないよ、カトル。目をつぶってみて」

「……」
「……」
「……あら、花の匂いがする。カモミールかしら」
「その匂い、カモミールなんだ!やっとわかったよ」
「カモミール……。植えた覚えはないけど。
 種が、どこかからやって来たのかしら」
「違うよ、カトル。この匂いは、カトルからするんだよ」
「そうなの? でも、私はカモミールなんて……」
「ううん、カトルのだよ。
 こうやってぎゅっとしてると、この匂いがするんだ」
「自分の匂いなんてわからないから……ああ、もしかして」
「……?」
「このちっちゃな鼻が、そうさせているのかもね」
「ぼくの鼻?」

「ねえ、タタン。
 どうして、私からカモミールの匂いがするのかしら?」
「んーんー……わかんない。
 でも、いい匂いだよ。それだけじゃだめなの?」
「だめってことはないわ。……ただ」
「ただ?」

「……そうだ、タタン。
 せっかくだから、庭の花を少し摘んでいきましょう。
 そうしたら、いい匂いがもっと家の中に溢れるわ」
「そうだね。ねえ、カトル」
「なあに?」
「カトルは、本当にいい匂いがするんだよ。
 それは、僕がやってることじゃないんだよ」
「……」

「たしか、ハーブもだいぶ大きくなってたよね。お茶にしようよ」
「そうね。昨日焼いたクッキーも余っていたし、いいお天気だし、
 ここでしましょうか」
「うん!」


ねえ、タタン。
私から、花の匂いがするのは。
タタン。
あなたが、私のことを、きれいだと思ってくれているからよ。

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