いても、いなくても(よい朝を、いとしい人/plenty)
4時、23分。
夕方じゃなくて、朝の。
6時どころか5時にもなってない。
早く起きすぎなんだ、僕は。
パートナーを起こさないように、
そっとベッドを出る。
色々と身支度を済ませてから、
PCを開いて、日課の日記を書き始める。
だいたい、6時から6時半には書き終える。
パートナーは、まだ起きてこない。
7時まで、そっとしておくことにする。
「僕の好きな人がよく眠れますように」
そんなタイトルの本もあったな。
朝食の準備を始める。
家事はなんとなく分担してるけど、
僕の方が早起きだから、
朝食を作るのは、たいてい僕の役目。
今朝は、パートナーご所望のピザトースト。
野菜を切っていると、
パートナーが起きてくる。
「おはよう」
「おはよう……」
まだ目が覚めていないのか、
返事もおざなりだ。
パートナーは寝巻きのまま、
のそのそと僕に近づく。
いつものように、僕をあだ名で呼ぶ。
「なに?」
「大好きだよ」
朝は、やさしい。
夜に、どれだけ鬱々とした気分でいても、
朝は、そんな澱みをすべてさらってくれる。
朝は、1日の中でも、短い、儚い。
だからこそ、そんな朝に、
大切な人といられるのは、幸せなことだ。
不幸になりたくなかったら、
幸せにならなければいい。
そんなことばを、ふと思い出した。
どこでそのことばを見たのかは、
忘れてしまったけど。
たしか、こんな例え話もあった。
山を『幸せ』、谷を『不幸』だとする。
『不幸』が谷なら、
土を盛っていけばいいじゃないか。
そう考えて、
えっさほいさと谷を埋めていくと、
ごらんの通り、谷は無くなった。
でも、無くなったのは谷だけじゃなかった。
そこには、まったいらな土地しかなかった。
谷が無くなったから、山も無くなったのだ。
それでもいいのにな、と僕は思っていた。
不幸にならないなら、
それに越したことはない。
ただ、1人で静かに過ごせさえすれば。
ひとりには馴れるけど
孤独では生きていけないから
――plenty『よい朝を、いとしい人』より引用
パートナーがいない日でも、
僕は、それなりに楽しく過ごせている。
でも、きっとそれは、
その背景にパートナーの存在があるからだ。
実際にそばにいるどうかは、関係ない。
目の届かないところでも、
笑っていてくれたら。
生きていてくれたら。
パートナーの存在が、
僕の日々を支えている。
僕は君を探さないよ
信じてるだけ
――plenty『よい朝を、いとしい人』より引用
ワンルームに、
トーストの芳ばしい匂いが広がる。
パートナーは、
大きな口を開けてトーストを齧る。
「おいしいよ」
パートナーは、にっこり笑う。
僕は、それはよかったと笑う。
これが幸せなら、
不幸になる覚悟も必要だな。
よい朝を、いとしい人。
よい朝を、いとしい人/plenty(2015年)
(「よい朝を、いとしい人/さよならより、優しいことば」収録)
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