のび太のようにすぐ眠れるのが特技だったのに、３、４年ほど前から寝つきが悪くなりました。眠れたと思ったら２、３時間で目が覚めてしまい、再び睡眠に戻るのが難しく感じるようになりました。ロサンゼルスの明け方３時は日本の夕飯後ぐらいの時間なので、姉や友達に「目が覚めちゃった〜」などとショートメールを送ると、しばらく付き合ってくれたりして、話の展開によってはますます目が覚めてしまうこともあります。

　眠れないことで一番ストレスなのは、実は睡眠不足そのものではなく、「眠れないなぁ」と思いながら布団の中でじっとしていること。そして、何度も時計を見ては「今から眠れたとしても睡眠時間はどれくらいだろう」などと考えて、気持ちが焦ることなのです。そこで考えたのが、隣で寝ている夫の睡眠を妨害しないよう、イヤホンで音楽を聴くことでした。

　しかし、好きなあいみょんやクラシック音楽だと聴き入ってしまうし、何より心を動かされてしまうので、入眠には逆効果です。かと言って興味のない曲だと、聴いてないので、「眠れない」という事実に思いが行ってしまい、結局は無音なのと同じです。そこで考えたのが、YouTube にある、BGM用に編集された漫才の音源でした。

　まず試したのは、声質も抑揚も落ち着きのある華大。思わずクスッっと笑ってしまうけど、聞き逃したとしても悔しくないぐらいの、程よい面白さ。布団に入ると同時にイヤホンを装着し、集中したらやっと聞こえるぐらいのごく低い音量設定で聞き始めます。楽しく漫才を聴きながら眠りに入り、夜中に目が覚めてしまったら、遠くで聞こえる漫才に耳を傾け、退屈することも、無理に寝ようとして焦ることもありません。知らず知らずのうちに華大の声は遠のいていて、眠れているのです。

　これはいい！と毎晩続けていましたが、残念なことに、Youtubeには、毎晩続けられるほどの華大のネタ音源動画がないのです（そもそもその動画自体が放映権侵害なので、文句は言えません！）。

　そこで次に聴き始めたのが、ナイツです。ナイツの漫才は時事ネタなので、ネタ数が多い上にラジオ出演も多く、Youtubeに上がる新しい音源は尽きることがないのです。ナイツ二人のトークは、それこそ聞いたら間違いなく面白いけれども聞き逃したとしても悶絶するほど悔しくはないという点で最適なのですが、ラジオではゲストを交えることも多く、ナイツ二人の落ち着いたトーンの中に甲高い笑い声などが混ざると、睡眠の妨げなのです。そこでサンドイッチマンを試しましたが、可笑しすぎて横隔膜が震えてしまい、ダメでした。

　娘が進学のため家を出たのは、ちょうどそんな折でした。家の中が静か過ぎて、空の巣症候群になりそうと思っていた矢先、友達の勧めで、ジェーン・スーさんと堀井美香さんのポッドキャスト、『オーバー・ザ・サン』を聴き始めました。昼間、スピーカーの音量を上げて流していると、まるで女友達がうちに遊びに来て、居間で勝手に盛り上がってるようで、いい感じに寂しさが紛れたのです。

　ポッドキャストはそれまでほぼ聴いたことがなかったのですが、『オーバー・ザ・サン』を聴いていた流れで、『安住紳一郎の日曜天国』のポッドキャストチャンネルがあるのを知りました。私がYouTubeで毎週日曜日に日天を聴き始めたのは６、７年前からですが、そのずっとずっと前からの音源がポッドキャストで聴けることに喜んだその時、閃きました。

　そうだ、安住さん！！

　盲点でした。

　安住さんの耳心地良いトーンの声。聴いたらクスッと笑ってしまうけれども、聞き逃してもそれほど惜しくはないトーク。そして、中澤有美子さんの穏やかながらも艶やかな声と、控えめな合いの手！寝ながら聴くのにぴったりではないですか！

　それ以来、毎晩欠かさず、イヤホンでポッドキャストの日天を、やっと聞こえるぐらいの音量設定で聴きながら寝ています。睡眠の専門家がこれを是とするかは分からないのですが、私のストレスが軽減したことは事実です。眠れない時に耳に入ってくる安住さんと中澤さんのお話が楽しくて、眠れなくてもイライラしないし、気がついたら寝落ちているので、時計を何度も見て焦ることもなくなりました。

　そして、意外な発見だったのが、「眠れないなぁ」と思っている時も、実は浅く眠っているということです。その証拠に、2007年から今までのエピソードを、かれこれもう３、4周は流しているのですが、「あ、これもう聴いた」という回はそんなにないのです。

　ただ、難点がないわけではありません。夜中に覚醒している時にトークがツボにハマり、思わずゲラゲラ笑ってしまったことがありました。３年間も安住さんと中澤さんの声を聞きながら寝ているので、私の脳はお二人の声を親友かきょうだいと錯覚するようになったのか、度々夢の中で、私は二人の会話に加わっているのです。しかし、二人が全く私の言葉に耳を傾けてくれないので、私は声を張り上げるのですが、それが寝言となっているらしく、「またなんか叫んでたよ」と家族から苦情が上がりました。

　私の睡眠障害対策と日曜日のお楽しみを提供してくださってきた安住さんが、ご結婚されたとのこと。公私ともに益々お忙しそうですが、日天だけは続けて欲しいと願っています。

　能登半島沖地震で、悲しみや不安の中にいらっしゃる方、眠れない方、大きなストレスの中にいらっしゃる方。心の安定剤になるかもしれないので、日天、お勧めします。どうか、希望を持って……。