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アメリカのワンコ事情



 12年前、アメリカで犬を飼うことになって初めて、こちらでは純血種を飼っている人がほとんどいないことに気がつきました。店頭での生体販売は禁止されているので、ペットショップで買ったという人がいないのは当然ですが、ブリーダーから買う人も少ないのです。ほとんどの人が、アニマルシェルターや保護団体から引き取るようです。


 さらに、ドッグランやトレーニングクラスなどの愛犬家コミュニティを覗くことで分かったことは、どうやら、“レスキュー“、いわゆる保護犬を受け入れることに比べて、純血種を買い求めることは、「愛犬度」において劣ると思われているようなのです。


 犬の出自を問われて、「ブリーダーからです」と言うと、心なしか相手の表情が一瞬冷たくなるのです。逆に、
「うちの子はレスキューなのよ」
というその表情はいかにも誇らしげで、これまで何匹の犬を保護してきたかを熱く語る飼い主さんは、少なくありません。セレブの間でも保護犬を飼っている人は多く、特定の純血種を好んで飼っているセレブと比べて、社会意識や徳の高さのアピール効果となっているように思えます。


 我が家の場合。


 ボストンテリアを飼っている友達に感化された夫が、ネバダ州まで飛行機で赴いてブリーダーから譲り受けた純血のボステリが、最初のワンコ、ロージーです。



 まだ小さかった娘がチェロのレッスンで
「犬を飼うのよ!」
と言った時、先生に
「どこから引き取るの?」
と聞かれて、私が
「ブリーダーから」
と言った途端、彼女の表情が曇った理由が、今なら理解できます。バーニー・サンダース推しの徹底したナチュラリストであった彼女の中で、我が家の株は瞬時に下落したことであろうと思います。


 一方、我が家の二匹目。一匹目で学習して……というわけではないのですが、図らずも、保護犬です。



 そもそも多頭飼いをしたいという希望はなかったのですが、6年前、長い付き合いの美容師さんから、
「仔犬要りませんか?」
と打診されました。なんでも、ご近所さんが犬を飼おうとアニマルシェルターに赴いたところ、入り口で、ちょうど探していたぐらいのサイズの小型犬2匹をシェルターに引き渡しに来ていた人と遭遇。シェルターを通したらお金がかかるのでここで譲渡できたらお互いウィンウィンだとでも言われたのか、きょうだいだというこの2匹を引き取ることに。ところがメスの方が妊娠しており、5匹の仔犬を出産。家が犬だらけになって困っているので、仔犬の引き取り先を5件探してほしい、と頼まれたと言うのです。


 最初は断ったのですが、次に美容院に行った際も、未だ引き取り手が見つからないということだったので、では我が家で一匹引き取りましょうと申し出ました。犬が離乳する8週目が過ぎ、譲渡の日に集合場所に行くと、どうやらミスコミュニケーションがあり、引き取り手として名乗りをあげて集まった人間の方が余り、我が家は、手ぶらで家に帰ってくることとなりました。



 まぁ、そもそも2匹目を探していたわけではないし、縁がなかったんだね、と言っていたら、それから1ヶ月後、件の美容師さんから連絡があり、どうやら、仔犬を引き取ったうちの一人が、譲渡先を探しているとのこと。タダで仔犬をもらえるという話に飛びついたところ思った以上に大変で根を上げた、という事情のようでした。



 それでは……とうちに来たのが、チワワとコッカースパニエルとポメラニアンとラットテリアの雑種であるリリです。


 というわけで、我が家には、夫がリサーチしまくって選び抜いた老舗ブリーダー出身の純血種と、捨て犬から産まれたミックス犬がいるわけですが、100%正直な話、可愛さは全く同じです。「保護犬はトラウマなどあって育てるのが難しいのではないか」などという理由で敬遠する人もいますが、躾の大変さも同じです。個性が違うというだけ。人間の子供と同じで、長所と短所が違うというだけです。



 ただ、リリを見ていて、時々ふと思うのです。この子は、二度も人間から拒絶されたんだと。こんなに可愛い子をどうして手放せたのだろうと思うと、心の底から不憫に思います。こういう愛嬌のある可愛い仔がシェルターには溢れかえっていると想像すると胸が痛み、次に新しい犬を迎えることがあるなら、シェルターから迎えてあげたいと思うのです。


 最近、フレンチブルドッグを飼い始めた義妹が旅行に行くというので、2、3日預かりました。レディーガガの被害も記憶に新しいところですが、最近、アメリカではフレブルの盗難事件が多発しています。「なぜ今あえてフレブル!?」などとぶつぶつ言いながらも、可愛さにメロメロでした。また、初めてのワンコを迎えた姪たちの嬉しそうな顔とワンコを交えた一家のわちゃわちゃ楽しそうな様子を見てると、純血種がどうの動物保護がどうのと私などが説教する隙間はないように感じます。



 どこから来ようと、私の周りの愛犬家は、みんな自分の犬が大好き。やはりペットも縁というものがあるように思うのです。そういう縁を求めて、もっとみんなが気軽に保護犬施設にアクセスできるようなシステムがあればいいなぁなんて思います。



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