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呼吸筋のトレーニング効果

今回は呼吸筋のトレーニングは効果的なのか?に関する研究をいくつかご紹介し、一般サイクリスト、アスリートともに呼吸筋のトレーニングによってパフォーマンスアップが望めそうだということを解説していきます。



呼吸筋とは

体の空気の出し入れを担っているのは肺ですが、肺には筋線維がないので自力では伸び縮みすることができません。

そのため横隔膜や肋間筋と言われるような筋肉によって胸腔の圧力を調整し、肺を伸び縮みさせています。

横隔膜のような胸腔の圧力を調節する筋肉の他にも腹直筋や僧帽筋、脊柱起立筋などの姿勢に関係する筋も胸郭を動かすことで呼吸を調節します。

そのような筋も含めて呼吸筋と呼び、20種類以上の筋が呼吸に関与しています。

「身体のデザインに合わせた自然な呼吸法」リチャード・ブレナン 参考文献1より


呼吸筋も疲労する

吸気筋も、ハードワークによって疲労していきます。

FTP(1時間漕げる最大パワー)以上の強度で疲労困憊まで漕いだ検証では、吸気筋の代表である横隔膜が作り出せる圧力が60%ほどにまで低下します。

Johnson (1993) 参考文献2より

また呼気筋である外腹斜筋もFTP強度での疲労困憊テスト前後の呼気テストで、呼気圧の低下とともに活動電位の低下が見られます。

FTP以上の強度では息も上がってきますが、呼吸数が増えることで短時間のうちに空気を取り込み、吐くことが必要になってきます。

そのため強度が高まるにつれて呼吸筋はハードワークを要求され、徐々に疲労することがこれらの研究より伺えます。


呼吸筋のトレーニングによってパフォーマンスが改善

一つ目にご紹介する研究では15週にわたって、

①呼吸トレーニングだけを行うグループ
②バイクトレーニングだけを行うグループ

の2グループのトレーニング効果を比較しています。

バイクトレーニングを行ったグループはVO2maxやランプテスト(漸増負荷テスト)、疲労困憊テストの継続時間が想定通りに向上していました。

一方呼吸トレーニングだけを行ったグループはVO2maxやランプテストの結果に変化はありませんでしたが、疲労困憊テストの継続時間が向上していました。

Markov (2001) 参考文献4より

そして呼吸の能力に関しては、呼吸トレーニンググループのみ呼吸の持久力が上がったという結果です。

このことから、呼吸トレーニンググループがバイクでのトレーニングを行っていないにも関わらず疲労困憊テストの結果が向上したことは、呼吸筋の機能向上が関与していると考えられます。


続いての研究では吸気トレーニング機器を使って、

①吸気トレーニングを行う
②疑似吸気トレーニング(プラセボ)を行う

を比較しています。どちらも一日に2回、計6週トレーニングを実施していますが、疑似吸気トレーニングでは吸気トレーニングと似た器具を用いて、単に深く呼吸するだけといったものです。

検証の結果、吸気トレーニングを行ったグループは吸気筋の最大力、吸気圧の立ち上げ(短時間で深く吸い込める力)が向上し、40kmタイムトライアルも120秒更新。

一方で疑似吸気トレーニンググループに変化はありませんでした。

Romer (2002) 参考文献5より

そして興味深いことに、吸気筋トレーニンググループではRPE(主観的運動強度)の低下が見られました。

筆者はこのことについて、呼吸数が増えることで一回の呼吸時間が制約される中、吸気筋のトレーニングによって短時間内で吸気圧を高められるようになったことで効率的に空気を取り込め、そのため主観的に感じる息苦しさや運動強度が下がったのではないかと考察しています。


取り込んだ酸素の15%は呼吸筋に運ばれる

呼吸筋、活動するためにはエネルギーが必要ですのでもちろん酸素も消費します。

その割合は、摂取した酸素量の約15%ほどにもなるようです。

Harms (1998) 参考文献6より

全酸素摂取量の15%、これを多いと取るか少ないと取るかは人それぞれですが、私はかなりの割合だなと感じました。

FTP以上のあの苦しさに必要な脚の酸素量の5分の1、筋量の差なども考えると呼吸筋はかなりの仕事をしてくれているなと感じます。


まとめ

以上いくつかの論文を参照し、呼吸トレーニングについて話を展開してみました。内容をまとめると、

  • 呼吸筋も高強度でのハードワークで疲労する

  • 呼吸筋は取り込んだ酸素の15%を費やす

  • 呼吸筋のトレーニングでパフォーマンスの改善が見られる

以上の研究結果から、呼吸筋のトレーニングを取り入れることは、パフォーマンス改善の一つの戦略として良い選択肢となり得ると考えられます。

そしてペダリングに力強さとテクニックが必要なように、呼吸にも力強さ(強化)とテクニック(呼吸法)が必要です。

その点については海外記事を訳してみましたので、そちらもご覧になってみてください。


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参考文献

  1. 身体のデザインに合わせた自然な呼吸法. リチャード・ブレナン. 医道の日本社

  2. Johnson, B. D., Babcock, M. A., Suman, O. E., Dempsey, J. A., & Johnson, B. D. (1993). Exercise-induced diaphragmatic fatigue in healthy humans. Journal of Physiology

  3. Fuller, D., Sullivan, J., & Fregosi, R. F. (1996). Expiratory muscle endurance performance after exhaustive submaximal exercise. Journal of Applied Physiology, 80(5), 1495–1502. https://doi.org/10.1152/jappl.1996.80.5.1495

  4. Markov, G., Spengler, C. M., Knöpfli-Lenzin, C., Stuessi, C., & Boutellier, U. (2001). Respiratory muscle training increases cycling endurance without affecting cardiovascular responses to exercise. European Journal of Applied Physiology, 85(3–4), 233–239. https://doi.org/10.1007/s004210100450

  5. Romer, L. M., Mcconnell, A. K., & Jones, D. A. (2002). Effects of inspiratory muscle training on time-trial performance in trained cyclists. Journal of Sports Sciences, 20, 547–562. http://www.tandf.co.uk/journals

  6. Harms, C. A., Wetter, T. J., Mcclaran, S. R., Pegelow, D. F., Nickele, G. A., Nelson, W. B., Hanson, P., & Dempsey, J. A. (1998). Effects of respiratory muscle work on cardiac output and its distribution during maximal exercise. Journal of Applied Physiology, 85, 609–618. http://www.jap.org

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