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株式市場とESG

最近盛んにESGを目にする。ESGアクティビズムなる言葉も出てきて株式市場でもホットトピックの1つ。規制強化や株主からの要求を受け、上場会社は、更にESG対応を求められる。G(Governance)は日本企業もここ最近取り組んできたが、E(Environment)とS(Society)は、これからといったところ。ところで、投資家目線で上場会社がESGを強化することで果たして株価って上がるのだろうか?何故、投資家は注目するのか?

株式市場におけるESGの流れ

6月と言えば、日本では株主総会のシーズン。日経新聞でも連日取り上げられているが、今年は気候変動に関する株主提案が多いらしい。住商には環境NGOから、東洋製缶にはオアシスから、MUFGみずほにも気候変動に関する株主提案が届いたとのこと。

アメリカでは、先日Exxon Mobilの主張が株主の賛同を得られず、ESGにもっと注力するように、とアクティビスト推薦の外部取締役を受け入れることとなった。GEでもESG関連の株主提案が可決された。アメリカは、トランプ政権のもとで気候変動への関心が薄らいだせいか、今年の総会ではより注目された感じがする。

欧州の方がESGは進んでいる。特に、欧州機関投資家の関心が高く、企業側も債券だけでなく、サステイナブルリンクCBやエクイティオファリングなど、エクイティ性資金でも目にするようになった。少し前に欧州投資家とのビデオ会議の中で、日本企業側が『次回こそ、コロナが終息していれば、欧州に伺いますね』という問いかけに対して『いや、今後もビデオ会議のままでお願いします。』と冷たい反応だった。後で聞いたところ、その投資家は、飛行機によるCO2の排出量に懸念を示していて、ましてやプライベートジェットで来るような会社への投資は中止しようと思っているくらい、とのこと。

何故、それほどまでしてESG?

確かに、最近の異常気象や地球の温暖化、CO2排出量の急増など、明らかにヤバそうな状況にきていることは肌でも感じる。ただ、個々の投資で考えた際、ESGを意識することが、果たしてリターンにつながるかというと何とも言えない。ファンダメンタルで考えると、目先のコストが増えそうな気もするので、特に短期的なリターンは見込めない。Exxon Mobilも、6/18終値ベースで株主総会前対比で+3%程度なので、すぐに株価に反映されることは難しいだろう。それなのに、株主が企業にESG対応を執拗に求めるのはなぜか。

これから徐々に規制強化が強まる中で、CO2排出量が利益を圧迫する可能性があるのは理解できるので、石油会社が体力のある今のうちから業態変化に対応することは、中長期的に見ると株価的にはプラスになるだろう。但し、多くの投資家は毎年のリターンを求められる中で、短期的なリターンも必要なので、ESGばかり言ってられない。現実的に、定款まで変えて、ESGに思い切って舵を切ったダノンは、業績不振で昨年CEOが解任された。少なくとも業績をしっかり出した上で、ESGに取り組まないと許されない。

なお、コロナを経験しただけに、ブラックスワンへの警戒のため、ESGに関心を持っている投資家もいるかもしれない。数百年、数千年に一度の事象がコロナで起きたので、気候変動リスクも明日にでも顕在化するかもしれない。気候変動リスクが低い銘柄に投資をシフトしておく、その変化を起こしそうな銘柄に張っておくというのもポジション取りとしてはあるかもしれない。

投資家を見ていると、『注目されたい。信頼を得たい』という要素も垣間見える。ESGと言っておけば、メディアや他の投資家が関心を寄せ、自身が投資している対象の株価が注目される。東洋製缶に株主提案をしているオアシスに関しては、①業績連動株式報酬の導入、②会社の組織形態の変更、③顧問・相談役システムの廃止、④自社株買い、⑤気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)を踏まえた経営戦略を記載した計画の開示の5つの株主提案を出しているが、彼らの一番の狙いは、やはり、株価上昇に直結する④自社株買いだろう。それ以外の提案は、短期間でリターンが得られる提案ではないので、本当に望んでいるのか半信半疑。自然に考えると、①~③のお決まりのGの強化を主張、今年注目のEを⑤として入れておけば、世間・メディアからの注目されるという作戦。オアシスのこれまでの投資期間を考えると、長くても2年ほどだと思うので、仮に④以外の提案が株主総会で可決されたとしても、会社が真面目に対応し始めたころには、オアシスはいなくなっているだろう。むしろ、ESGを意識していて、信用できる、まともな投資家に見えるので、オアシスの主張には④を含めて賛同しようと株主を誘っているようにさえ思える。

資金の出し手がキーか。

主張している機関投資家もESGが短期的なリターンを生むとは当然思っていないのに、何故これ程までに最近になって騒がれているか。少し考えると、やはり裏にいる資金の出し手の意向ということがよくわかる。世界最大とも言われる投資家であり、日本の公的年金の運用を行っている、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も投資原則の中で、ESG投資推進を挙げているので、そこから資金を引っ張りたい機関投資家は、当然ESGを優先せざるを得ない。Black RockVanguardと言った有力機関投資家もこぞってESGを気にしており、彼ら自身もESG関連の株主提案に対する議決権行使状況まで、資金の出し手によって評価されている。他の機関投資家もしかり。また、UBSの最近の調査(https://www.ubs.com/global/en/media/display-page-ndp/en-20210602-ubs-investor-watch.html?caasID=CAAS-ActivityStream)では、80%の富裕層は、コロナによって投資への価値観を見直しており、60%はコロナ以前に比べて、サステイナブルな投資対象に関心があるという結果があるということから、資金の出し手側では、気候変動への関心が高まっているということはある。従って、機関投資家も短期的なリターンだけでなく、投資活動の中に資金の出し手の意向を反映せざるを得ない事情もあることから、マーケットでもESGが騒がれている、という構図なのだろう。ESGに取り組んでいる会社とそうでない会社では、債券ではGreeniumというプレミアムがあるようだが、株式市場にも近々同様のことが生じるかもしれないですね。。。

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