KPTでの振り返りをやめました
2020年初頭、開発チームとアジャイルコーチと話し合ってレトロスペクティブのフォーマットを変更しました。約1年運用して、フォーマットを変更してよかったと感じているので、どのように変更したのかを紹介します。
解決したかった課題
それまでレトロスペクティブにはKPTを使っていました。KPTはフォーマットとして優れており、振り返るべきものがこの3つできちんと網羅されており、且つTの部分で次にどう活かすかを語ることができます。
一方で、KPTでのレトロスペクティブをしていて感じたのは、私のチームにおいては参加者がフォーマットにとらわれすぎて例えばKeepならKeepするべきだと感じたことを各自が淡々と発表するだけという形式になっていたという課題です。それも、各項目1人1意見のノルマをこなしているといった様子で。
出てくる意見はそれぞれ貴重ではあるものの、もっとたくさん思っていることがあるのではないか、そこから議論が生まれる余地はもっとあるのではないか、そしてその議論から導き出されるTryを追求するべきなのではないか。そんな課題感を漠然と持つようになりました。
変更の内容
2020年初頭はまだ海外への渡航が許されていた時期でした。私は年に一度の大レトロスペクティブ会のために、海外の開発チームのもとへ渡航しました。
そこで、私は開発チームが新たに雇ったアジャイルコーチに振り返りの課題について相談し、その結果テンプレートをもっとゆるいものに変更しました。
新しいテンプレートは下記の3つです。実際は4つになるのですが、メンバーからの意見収集の段階ではこの3つです。(4つ目については後述します。)
- What went well
- What didn't go well
- Thank you
つまり、うまくいったこと・うまくいかなかったこと・ありがとう。
ありがとう…?
これは私ではなくアジャイルコーチからの提案です。振り返りの対象期間を通して、誰かに感謝したいことを挙げていくというものです。
流れとしては、まずは3つそれぞれについて各自が付箋に書き、貼っていきます。その後、それぞれについてディスカッションをします。ディスカッションで出たアクションアイテムについてはファシリテーターが付箋に書き留め、4つ目の項目である
- Action Items
にまとめていきます。
最初、「結局KeepがWhat went wellに、ProblemがWhat didn't go wellに変わっただけじゃない?TryはAction Items?」と思っていたのですが、実際はそうではありませんでした。
生まれた変化
一番大きな変化は、客観的に出来事を振り返るようになったということでした。
KPTのフォーマットだと、どうしてもKeepやTryに今後のアクション的な意味合いが含まれてしまい、例えば何かいいことがあっても、再現性のないことなどはKeepできないものとして扱われてしまい振り返りの場ではあまり語られることはありませんでした。今後のアクションとセットで物事を考えること自体は大切なことだと思うのですが、今後のアクションを考えるということが枷になって意見が出にくいという側面があったのだろうと今になって思います。
一方で、What went well/What didn't go wellのフォーマットでは、うまくいったこと、うまくいかなかったことをその事実とともに共有すればよいだけなので、発信のハードル自体は下がります。
そして、意見を出していく間やひととおり意見が出た後でいくつかの個別の件についてディスカッションをするようにしているのですが、ここで思うのは、うまくいかなかったことを必ずしもネガティブに捉えないようになったなということです。Problemと言ってしまうと「どうやって解決する?」という話になりがちですが、didn't go wellという表現だと「でも○○になったのはよかったよね」というポジティブな話が出たりします。
とにかくたくさんの意見が出やすくなったので、多くのメンバーが話すようになりました。自分の番が回ってくるのを待ってその時だけ話す傾向にあるメンバーもいますが、そのメンバーの発した意見がトリガーになってディスカッションが生まれることも多々あり、結果的にそういったメンバーが少しずつディスカッションに加わるシーンが出てきました。
もうひとつ、Thank you のおかげで振り返りがポジティブになったという変化もあるのですが、この効果は文化的なバックグラウンド次第という気もしており、日本ではそこまで劇的な変化は出ないかもしれません。
日本にも持ち帰ってみた
ちょっと別の件で振り返りを日本人だけで実施する機会が何度かあったので、この新しいフォーマットを日本でも試してみました。
結果的には、日本においても効果があったのですが、同じフォーマットを使っていても英語話者(メンバーの国籍・文化的バックグラウンドが様々なのでざっくりこの表現にしています)との振り返りとは少し異なる部分がありましたので、その観察結果を書きます。
一番の違いは、3つの項目に対して出てくる意見の比率です。外国人を含めた振り返りでは、What went wellとThank youとWhat didn't go wellがほぼ同率(若干What didn't go well が少なめ)という感じでしたが、日本人だけでやるとWhat went well と What didn't go wellが各4〜5割程度、Thank youは1〜2割という感じです。
逆に、それぞれの効果については、その強弱はあるものの、あまり変わりませんでした。例えば、Thank youは日本人にとって少しチャレンジが大きく、外国人との振り返りの時と比較してその効果は弱いものの、Thank youのおかげで会がポジティブな雰囲気に変わるという利点は共通しています。
余談ですがThank youは日本人からは「あの時○○の提案をしてくれてありがとう」というような真面目なものがよく出ますが、英語話者との振り返りだと「おいしいお菓子をありがとう」「よく書けるペンを教えてくれてありがとう」のような、必ずしも業務に直結しない小さなありがとうがたくさん出てきます。
言いたかったこと
振り返りの手法はひとつではないので、チームによってそれぞれの手法との相性があると思いますし、何かひとつに固執する必要は無いと思います。
何か非常に優れた手法があるわけではなくて、チームにとって相性のよいものを選べばよいと思っています。私のチームは今の手法が合っていますが、日本に持ち帰った結果からは、多分日本人メンバーとの振り返りは違う手法を試したほうがいいかなと思っています。
ちなみに私はKPTがダメだとは思っていませんし、むしろ誰でも容易に振り返りのテンプレートとして適用できる上にファシリテーションもしやすいという意味ですごく良い手法だと思っています。
ありがとうございます。いただいたサポートは、脳の栄養補給のため甘いお菓子となり、次の創作に役立つ予定です。