Scene.0x : 窓の外、カップの中
少し白めにミルクを入れたコーヒーを置いて、外の景色を眺める。特に変わった景色じゃない。いつもの商店街だけれど、カフェの窓で切り取ってもらうとそれなりに、いいものに感じる。
雑なパッケージに入ったお菓子だってソーセージだって、それなりのお皿におけば少しは気分が上がるものだ。
閉店まで三十分だと言われたけど、甘めのコーヒーを補給したくて入店させてもらった。コーヒーがほしかったのか、三十分の空白が欲しかったのかわからない。なるべくスマートフォンに手を伸ばさないようにして、それでも時計は気にしてしまう。
少し明るい色の木のドア。マットな金のドアノブを押して私はこの店に入って来た。次にあのドアを出るまでに、何か考えがまとまるだろうか。
生活や仕事に流されて、考えがまとまらない時は、なんとなく自分が曇っていくように感じる。その曇りを少しでも流したくてコーヒーを飲んでいるのかもしれない。それなら炭酸水とかの方が、よさそうなものだけど。
具体的な状況が、自分を取り巻く世界が、何か変わったわけでなくても、考えがまとまった時は、少し曇りが晴れる。少し前に進める。
そういう感覚を、いつも求めている。
残り半分のコーヒーで、今日はその感覚を得られるだろうか。少しでもそれに近づきたくて、でもできることは、多めにミルクを入れるくらいだった。
大きく一つ息を吐く。何かを思いつく時はきっと、息を吸っているより吐いているのだと思う。
とはいえ、吐いたからといって出てくるものでもない。ため息に変わらないうちに前を向こう。何かにすがっていても仕方ない。
そう思いながら、最後の一口に、私はもう一度ミルクを足した。
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