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神々しく燃える夕陽に遠く淡い想い

何度見ても惹きつけられる

裸眼で見ると眩しくて

レンズがうまく捉えてくれる

夕陽を見ていて

不図、遠く過ぎ去った熱き青春の息吹きが…

小諸の城跡「懐古園」で千曲川を眺めながら

藤村の「千曲川旅情の詩」を口ずさんで

次の言葉に詰まったとき

後ろからその先を口ずさんだ女性の声に振りかえる

同じくらいの年の色白な人(Tさんと呼ぶ)だった

それを機会にTさんとの語らいに、東京から小諸へ何度通ったろう

リンゴ園を営む家庭で

リンゴの木の下でたたずTさんが白いリンゴの花に同化したように錯覚

その時のTさんには、藤村の「初恋」の詩そのものだった

       まだあげ初めし前髪の      やさしく白き手をのべて
  林檎のもとに見えしとき     林檎をわれにあたえしは
  前にさしたる花櫛の         薄紅の秋の実に
  花ある君と思いけり         人こひ初めしはじめなり

       わがこゝろなきためいきの   林檎畑の樹の下に
  その髪の毛にかかるとき    おのづからなる細道は
  たのしき恋の盃を       誰が踏みそめしかたみぞと
  君が情に酌みしかな      問ひたまふこそこひしけれ
                  島崎藤村・詩集「若菜集」

出会って半年後

突然、Tさんの訃報を知らされた

あまりにも早い、唐突な悲しい別れの知らせだった

白血病で亡くなったといわれた

白血病がどんな病気なのか、そのときは知らなかった

あなたと出会ったときは余命いくばくもない頃だったのよ、とお母さん

苦しい病との闘いだったけれど

あなたと会って話することが楽しく明るくなっていったの

生きる望みに私たちもうれしかった、感謝します

ありがとう

心がゆれ涙がとめどなく溢れた…

Tさんは、会って語り合うときには余命のことや病気について一言も語らず、いつも笑顔で接してくれた

恋というには淡く切なく

陽炎のように静かに脈打っていた

小諸に行くきっかけは

藤村の作品「千曲川のスケッチ」にひかれたことだ

藤村が執筆した庵は旅館「中棚荘」の敷地内にある

庵と中棚荘を教えてくれたのはTさん

夕陽は神々しく眩しい

小諸城址の夕焼けを二人で眺めて語り合ったのは

夢のようで楽しかった

今は遠くになったけれど、記憶の中に消えずにある

小諸城址「懐古園」はTさんとの遠い青春の息吹きの場所…

小諸通いがいつの間にか中棚荘の常連客となり、

リンゴの湯に浸かりながら千曲川を眺め

千曲川旅情の詩を口ずさみ

その余韻にひたるとき胸が騒ぐ…




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