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映画レビュー十本(すべて映画館)

「エルヴィス」(☆☆☆)
 アーティストの成功譚や、どれだけ努力をしていたか、陰でどういった悩みがあったかといったことに焦点を当てるのではなく、マネージャーとの金銭問題を中心に据えてストーリーを矮小化させているため、大きなカタルシスもなければ、伝記映画としての不備も多い。編集(場面のつなぎ)の派手さうるささは、企図しているようなゴージャスさを演出できていない。

「エリザベス 女王陛下の微笑み」(☆)
 ☆一は☆五と同様に、滅多につけないことをポリシーとして映画レビューをしています。この映画はやっていることが本当にダメで、まず、王室のことをよく知っているイギリス人が観ても「つまらなかった」と感想をもらすのが当たり前。そのつまらない映画(イギリス人でしか分からない文脈での引用とか、単に不適当な参照が映像的にどっさりとカットアップされて、水増しされている)をさらによくとは知らない日本人が観させられると、……。伝記映画として前提知識が多いのだが、それをカバーしていない(ダイアナ妃のことすら今の若い人は知らないだろう)。演出過多なのは軽薄なばかりで、王室を扱う緊張感や歴史性と向き合う態度のごときものは、みじんも感じさせず、ポップに徹しようとするしたたかなもくろみも当然、作り手にはないだろう。

「リコリス・ピザ」(☆☆☆☆)
 初期のロバート・アルトマンの「ナッシュビル」を本歌取りしたような、感覚的な編集は求めるべくもないが、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」以降の低迷、そしてそれを切り抜けた「ファントム・スレッド」とはまた違う世界を提供している。いっぽうで、編集の切れ味は鈍くなっているのが否めず、これまでの自作の面白いシークエンスの詰め合わせのようでもあるのだが……。なんにせよ、監督の新しい展開には期待をすることができる。

「三姉妹(韓国映画)」(☆☆☆☆)
 ハングリーな新鋭監督が、やり過ぎではないかというまでの暴力と、傷つきと、それが癒えるのか癒えないのかもわからない諦めといおうか、妥協点を着地点として、とにかく奔放にスクリーンで暴れまわってくれている。配役も音楽も見事であり、五寄りとしたい。

「ブライアン・ウィルソン 約束の旅路」(☆☆☆☆☆)
 ドキュメンタリーとして「普通」の造りを満たしており、それゆえに私はこの映画に星五つをつける。ブライアン・ウィルソンが生きている姿を、スクリーンで見させてくれる、その狂気と裏腹のおそろしいまでの純粋さに、これが神なのではないか、と戦慄をさせられる。

「セイント・フランシス」(☆☆☆)
 レズビアンの家庭の子供の世話係を任せられた三十代の女性の、自分探し系の物語なのだが、やや現代的な素材を詰め込みすぎだろうか。それでも配役は相応に魅力的であり、映画としてキラキラとした感性が光る。

「ファイナル・アカウント」(☆☆☆)
 ヒトラー・ユーゲントなどの、ヒトラー側についていた者たちから証言を得ていくドキュメンタリーで、さしたる破綻はみられない。

「1640日の家族」(☆☆☆)
 佳作の部類だろう。実話をもとにして里親問題について描いている。構成に必然性がなく、展開が予定調和的だが、音楽などの使い方、配役の妙ゆえ、みられる映画となっている。

「ピアノ ウクライナの尊厳をかけた戦い」(測定不能)
 ウクライナ戦争は、現在進行形で起こっている、本物の戦争である。たしかにこのフィルムが短い尺で、物足りなさを感じさせる出来であろうが、フィルムをただフィルムとしてのみ、語っていていいわけもないのではなかったか。「映画としてどうだったのか」を問われれば「良くはない。いろいろと不備が多いけれども、べつに映画館ではなくともいいからいつか配信とかされたら一応、押さえておく価値はあるだろうね」と答えるだろうとして、それをここでの表明とはしたくはない。映画レビューの記事は映画レビューの記事として、この映画を純粋に映画として語り下ろすことは私に不可能なのである。映画レビューの記事に「戦争についての記事」が無理矢理入り込んできているがため、採点をすることができない、したくはない。採点を拒否した上で、ウクライナの動向に関心があるかたへの、ご視聴を勧めるまでである。

「スワンソング」(☆☆☆☆)
 演出過多、音楽の頻用は、映画を軽々しいものとしており、脇役の配役などにも問題があるが、ウド・キアーの名演によって、映画全体が一挙に輝きを放っている。人情味の溢れる展開につぐ展開には、このくらいの軽さで良かったのではないか、と思われてならなくなる。良いシーンが随所にちりばめられた、いい映画である。ウド・キアー称賛の意をこめて、星五寄りとする。


静かに本を読みたいとおもっており、家にネット環境はありません。が、このnoteについては今後も更新していく予定です。どうぞ宜しくお願いいたします。