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ごごしま音楽プール2023の記録(2)


「思いとどまれないですか?」

長い沈黙のあと、藤内さんの口から出た言葉に、僕は驚いた。「・・え?」藤内さんが続ける。ごごプー(ごごしま音楽プールのこと)をいま終わらせるのは惜しい。このフェスには他のイベントにはない不思議な引力がある。島の人たちからも、「今年はごごプーはやらんの?」 と開催を待つ声も出るようになった。7年やって、やっとここまで来たんでしょう? 今、終わってはいけないと思います。プールの損傷は補修すればまだなんとかなるはず。問題はむしろ人なんでしょう?メンバーのみなさんそれぞれの環境が変わったことや忙しいことも理解できるけれど、一度ここで、全員で集まって話しませんか?なんとかごごプーを続けられませんか?それでも、どうしても難しい、赤松さんが終わりにしたいというのであれば、楽しみに待ってくれている人たちのために、せめて今年で終わることを発表することだけでも、思いとどまることはできないですか?

島の猫。人の気持ちを知ってか知らずか。

予期せぬ返答だった。その後、藤内さんと遅くまで話をし、いったん家に帰り、内容をメンバーにもLINEで伝えた。誰も口にしなかった「思いとどまることはできないか?」という言葉が藤内さんから発せられたことを、僕以外のメンバーもそれぞれに重さを持って受け止めたようだった。東京に戻ってからもずっとそのことを考えていた。折に触れて藤内さんの言葉を思い出し、メンバーと対話した時の彼らの表情や交わした言葉を思い出し、またぐるぐると考える。そんな中でも今年の開催に向けてやるべきことは次々と出てくる。WEBサイトのデザイン、ヴィジュアルの検討、協賛の依頼、お金の算段、出演アーティストをどうするか、、、。悩みながらそれらに向き合うとどうしても集中力を欠いてしまう。いまはとにかく今年のフェスを無事にやり切るために動かねば。何はともあれ目の前のことをひとつずつ。

プール掃除とハンバーグカレー。

愛媛へ帰省。5月13日(土)は朝から雨。わりと降った。チームのメンバー、ボランティアのみんなとフェリー「しとらす」で島へ渡ってプール掃除を開始。

高圧洗浄機で汚れを落としていくスタッフ。

写真で分かるように、なんせ4年分の汚れである。あちこち黒ずんでいるのを高圧洗浄機で落としていく。メンバー、ボランティアスタッフ、それぞれの場所に分かれてひたすら掃除。掃除。

傷みが目立つ箇所が。

ごごプーのWEBサイト制作から申請、各種事務、財務管理まで幅広くカバーしてくれている立ち上げメンバーの1人である中川さんは、過去にスタジオ美術や舞台美術を手がけていた経験もある。彼曰く、プールサイドの損傷についてはマットで全体的に養生をして応急処置をすることでなんとか凌げるだろうとのこと。よかった。そのまま掃除の手を止めてランチ休憩。藤内さんが、ハンバーグカレーを作って待っていてくれた。おいしい。おいし過ぎる。

掃除のごほうび。ハンバーグカレー。

ごごプーを立ち上げたメンバーみんなで揃って、藤内さんを交えて食事をするのも話をするのもほぼ4年ぶり。本当に、ようやく島で会えた、と思った。とはいえあまり感慨に浸っている時間もない。6月4日のフェス本番までは1ヶ月を切っている。全員で顔を合わせて話せるのは今日が最後。それぞれが気になっていることを議題に挙げていく。自分も含めて「今年が最後」という話を口に出すことは誰もしなかった。帰りの船の時間が迫り、プール掃除については今日1日では終わらないと判断。立ち上げメンバーの徳永と矢野の2人が本番の2日前に、島に来て体育館の掃除とあわせて仕上げをしてくれることになった。写真は後日、すべての掃除を終えた徳永がメールしてくれたもの。ぴかぴかである。最初にあげたプールの写真と見比べてみて欲しい。

ぴかぴかになったプール。この日も雨だった。

先のこと。


一足先に帰りの船に乗るメンバーの中川さんから、「今年が最後」のお客さんへの告知はどうするのか?と聞かれた。僕「・・うーん。藤内さんと話してからまだ迷ってる」中川さん「WEBサイトへの反映もあるし、知らせるなら早い方がいいっすよ」。確かにそれはそうだ。しばらく考えて「お客さんへの告知は止めておきます」と答えた。「それがいいと思います」と中川さん。即答だった。その答えは最初から決まっていたようだった。いま思えばもしあの時「お客さんへの最終告知は予定通りやる」と答えていたら、中川さんは僕を止めていたんじゃないかと思う。別れる間際に中川さんが言った。「まあ、とにかくまずは今年を無事にやり遂げましょう。先のことは、またそれから考えて決めたらええじゃないですか」

(つづく)


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