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「ダメな日」を愛せますように~あたたかいケーキとやさしい言葉で心をほぐそう~

大人になって本を読む機会が減ったと感じています。皆さんはどうでしょうか?よくチェックしているTwitterのなかでは、自己啓発やスキルアップのために読書でインプットを重ねる人も多く見かけます。

わたしはというと、そういった勉強目的で読む本が実は苦手です。「いや、ほんとはわたしも勉強のための読書に疲れちゃったんだよな~」なんて人がもしもいたら、読んでもらいたい本があります。

紹介するのは、午後さん著書『眠れぬ夜はケーキを焼いて』というレシピ漫画かつエッセイ漫画でもある、少し変わった1冊です。お菓子や簡単料理のレシピを紹介しながらも、「ちょっと疲れたな」という日の自分をやさしく包み込んでくれるエッセイが綴られています。


*「ダメな日」にはどうしてあげればいいだろう

誰しも「ダメな日」の経験があるでしょう。仕事でも勉強でも、暮らしのなかでも、些細なことで自分を否定してしまうことはあります。毎晩反省しては落ち込んで、をくりかえす人だっていますよね。

作者の午後さんは、ダメな日や落ち込んでいるときの自分を客観的に分析するのがとても上手い人です。なぜ落ち込んでいるのか、どう機嫌をとればいいか、など自分の状態を細かく言語化しています。午後さんは、自分にやさしい言葉をかけたり、お菓子作りという行動を起こすことでダメな日を許してあげているのです。

自分を客観的に分析しているエッセイパートは読み手側のわたしたちにも当てはめられます。なかなか言葉にしにくい自分の状態がエッセイとして詳細に綴られていることで、「わたしもいま、こんな風に調子悪いな」と気付くのです。

午後さんが生活をくりかえすなかで見つけた自分を責めない方法も、今を生きるわたしたちにそっと寄り添ってくれる内容ばかりです。午後さんの言葉には、つい自分を責めたり天気のせいで調子が悪かったり、そんなわたしたちの生活のなかの不調と付きあうヒントが隠れています。


*レシピ本だけど、ほっこりする漫画

全編カラーの漫画なので、作者の気持ちの様子もお菓子作りの手順も、とてもよく伝わってくるのが特徴です。イラスト自体も、夜のほの暗さのなかにぼうっと灯るあたたかさがあります。

つらい気持ちを共有しつつも前向きになれるお話なので、ほの暗いだけではありません。日常の何気ない会話を読んで、自然と笑顔になって読み進めてしまいます。登場人物がすべて二足歩行の動物で描かれるのも、疲れた心にクスッと笑顔を与えてくれるポイントでしょう。


*お菓子を作って自分を励ましていく

生活サイクルの狂いやすい作者が、料理やお菓子作りで自分を肯定していく日々のお話として、もともとSNSで漫画を投稿していた午後さん。エッセイとレシピが織り交ぜられた漫画が話題となって、書籍化に至りました。書籍のなかで作者は、落ち込んだ自分の自尊心が高まるからといった理由で、夜中にお菓子を作ります。

ひとつのお話のなかで、お菓子とそれにまつわるような午後さんの経験・日常が綴られます。わたしは日常でお話に登場するお菓子に出会うと、午後さんのあたたかい言葉がふっとよみがえってきます。お菓子を食べて喜んでいるこんなわたしのままでいいんだ、と思えるのです。


*唯一無二のレシピ本

レシピ本としてカテゴライズしようとしても、少し変わっているのが本書の特徴です。わたしはお菓子作りがもともと好きなので、レシピ本はよく手に取ります。そんななか、漫画で、しかもこれほど細かくお菓子作りの手順を描いている本にはじめて出会いました。

レシピ本といったら書いてあるのは材料、手順くらいのものです。ですがこの漫画には、ただの手順だけではなく、はかりをしまうタイミングや、洗い物リスト、洗い物が少なく済むコツなど、地味にありがたいと思えるポイントが書かれています。

主人公がお菓子を作り上げていく描写は、その人のルーティンが垣間見えて、とても好きなシーンのひとつです。この本は、お菓子作りが日常に溶け込んでいる、そんな気にさせます。「今夜はお菓子を作っちゃおうかな」と気軽に思ってしまうほど、読み手の日常に馴染んでくれるのです。

使う道具や材料も家にあるものが多く、家にあるもので代用できる技も紹介されています。道具をあまり持っていないお菓子作り初心者の人でも、挑戦しやすいレシピです。イラストで手順が描かれているので、見た目でわかりやすいレシピ本となっています。

実際にわたしも、載っているレシピでいくつかお菓子を作りました。どれも作りやすく仕上がりもいいため、何度か作ったレシピもあります。お菓子が出来上がる過程で甘い香りが漂うと、やはり午後さんのあたたかい言葉を思い出すのです。


*やさしさ、甘さ、あたたかさのよりどころになる1冊

この本はレシピ本でありながらも、「今日はうまくいかなかったな」という日の夜にぜひ読んでほしい1冊です。ほくほくのケーキが出来上がる様子と、ダメな自分を許すあたたかい言葉が相まって、固まった気持ちをあたためてほぐしてくれます。

仕事や人間関係に疲れてしまった日の夜、本を開けば午後さんの台所の風景が目の前に広がります。パウンドケーキやスコーンが焼ける甘い香りがするような、そんな気にさせるのです。そして、「甘い香りが漂ってくるのを喜べるなら、わたしは大丈夫」と自分を労わってあげられます。

ほんとうにダメになった日はお菓子を作ってみようかな、なんて心のよりどころとして本棚に置いておくのが、個人的におすすめです。

レシピを見ようとすれば、同時に午後さんのやさしい言葉が目に入ります。焼きあがったときには「こんなお菓子を作れるんだからいいじゃない」と思えることでしょう。

*おまけ

朝にスコーンを焼けば、その日はもう完ぺきなのだ

わたし自身、子どものころからお菓子作りが好きでした。母が教えてくれるままに、何気なくお菓子を作っていたのです。

大人になっても変わらず、ふと「作りたい」という気分になります。好きになった理由はわからないままです。それでも、生地をオーブンに入れたあとにどんどん立ち込める甘い香りを味わいたいがために作るのは、確かなひとつの理由なのだと思います。

お店や街中でお菓子のいい香りが漂っているのもいいのですが、家中お菓子の芳しい香りに包まれるのはなによりも幸せに感じます。

この感覚が気になる人は、紹介した本でお菓子作りにチャレンジしてみてほしいです。きっと病みつきになります。



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