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どっちが醜い物語

『醜い二人』

私は毎回エビフライ定食を食べる。
別に好きではない。
ではなぜ食べるのか?

私はコミュ障で一回エビフライ定食を頼んでしまったら、他のを頼めなくなってしまったのだ。
本当は回鍋肉定食が食べたい。
でもなかなか言えず、結局店主が「いつものエビフライ定食ね」という流れだ。だから別に好きではない。
しかし、店主は「エビフライ一本サービスしといたから」と言う。
私は頑張って笑顔を作る。
自分で自分がイヤになる。

こんな人間になってしまったのは、私が高校生のころに好きだった彼女に告白したせいだ。
彼女は私の告白を冷たく断った。
そして私は彼女に言われた「醜い」という言葉を忘れられない。
彼女は笑いながら去っていった。
それからだ、私は自信をなくして、自分をもなくしてしまった。

ある日、私は定食屋で見知らぬ女性と隣り合わせになった。
女性は、私と同じエビフライ定食を注文していた。
私は、女性の顔を見て驚いた。

あの彼女だった。
私に醜いと言ったあの彼女だった。

しかし、彼女は美しかった。怒りが湧き上がってこない。
それほど美しかった。

女性は、私のことを覚えていなかった。
私は、もちろん女性に話しかけることもできなかった。
ただ黙ってエビフライを食べ続けた。
女性は、エビフライをほとんど残して席を立った。
女性の残したエビフライを見て、私の手が勝手に動いた。
食べかけのエビフライを自分の皿に移したのだ。
私は、女性の口に触れたエビフライを食べることで、今も少しでも女性に近づきたかった。

私はその日からエビフライが好きになった。
エビフライに恋をした。
自ら店主にエビフライ定食と頼むようになった。
私は、エビフライと一緒に暮らしたいと思った。
私は、エビフライを買って家に持ち帰り冷蔵庫にしまった。
私は、毎晩冷蔵庫からエビフライを取り出して抱きしめて寝た。
私は、エビフライに話しかけて愛を告白した。
私は、エビフライが自分に優しく微笑んでくれると感じていた。
私は、エビフライが自分の唯一の理解者であり支えであり運命であると確信していた。

そんなある日、私が冷蔵庫からエビフライを取り出そうとしたとき、冷蔵庫が壊れていた。

エビフライは腐っていた。
そんなエビフライを見て私は気付いた。
彼女も醜い。私も醜い。



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