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同じ顔の男に追われる恐怖物語

『吉田だらけの呪いかな』

「あれ?あいつ…」

僕は目を疑った。
喫煙所で一人タバコを吸っている男は、友人の吉田のようだった。
同じ髪型、同じ顔立ち、同じ体型。
でも違うはずだ。
吉田はタバコもスーツも嫌っていたし、そして何よりこんなところに彼がいるはずがない。

僕は気になって近づいてみた。そして恐る恐る声をかけた。
「すみません…」
男は僕に気づいて振り返った。
その瞬間、僕は息を呑んだ。
男の顔は完全に吉田だった。

「あなた…吉田さんですか?」
僕は思わず聞いてしまった。
男は困惑した表情をした。
「え?違いますけど…」
「あ、ごめんなさい」
僕は慌てて謝って立ち去った。
でも心の中では確信していた。
あれは吉田だった。

それが全ての始まりだった。

僕はコンビニへ行った。
ゴミ袋を買うつもりだった。
今は透明のゴミ袋しかない。
僕が欲しいゴミ袋は黒い奴だ。そしてできるだけ大きい黒いゴミ袋を探しにきたのだ。運がいいことにそのコンビニには黒いゴミ袋があった。
でも、それがどうして必要だったのか、今は思い出せない。

レジに並んでいると、店員の声が聞こえてきた。
「369円です」 その声はどこかで聞いたことがあるような気がした。
店員を見上げると、血の気が引いた。
店員は吉田だった。

「え…?」
僕は信じられない思いで固まってしまった。
店員の吉田は無表情でレジを打っているだけだった。
僕に気づく様子もなかった。

「お兄さん、早くしてよ」
後ろから女性の声が響いた。
僕は慌てて振り返って謝ろうとした。

「ごめんなさい…」
その言葉が喉から出る前に、僕は目を見開いた。
後ろの客も吉田だった。

「あ…あ…」
僕は声も出ななくなってしまった。
前に吉田。後ろにも吉田。
僕の人生で吉田に挟まれたことは一度もない。
これは夢か?幻か?

「お兄さん、どうしたの?」
女性の声がまた聞こえてきた。
でもそれは女性の声ではなかった。
それは彼の声だった。

「やめてくれ…」
僕の手足は震え、心臓がバクバクと鳴り響いた。
前後から吉田に見つめられている。

「助けてくれ」
僕はパニックになって、コンビニを逃げ出した。

何で吉田が?
何で彼が僕を追い詰めるのか?
どういうことだ?
僕は何でコンビニに行ったんだ?
それすら忘れてしまうくらい吉田が頭の中に焼き付いた。

僕は家に帰った。
彼に電話しなければならないと思った。
あれは本当に彼だったのか?
それとも僕の目がおかしくなったのか?
どちらにしても、確かめるしかないと思った。

僕はスマホを取り出して、吉田の番号を探した。
でも、画面に映るのは吉田の顔だった。
スマホの壁紙が勝手に変わっていたのだ。
「くそ…」
僕は怒りと恐怖で震えた。
誰かが僕をからかっているのか?
それとも…。

僕は気を取り直して、吉田に電話した。
しかし繋がらなかった。
なんでだ?仕事中か?というか、コンビニ店員中だからか?
いや、あいつがコンビニ店員なんてする奴じゃない。
あいつはもっと野心家で、危険な香りがするちょい悪風な男だ。
コンビニ店員なんて似合わない。

もう考えるのはやめようとした。
でも、テレビがそれを許さなかった。

テレビを付けるとニュースが流れていた。
ニュースキャスターが事件のこと話していた。

吉田だ。
吉田が喋っている。
「えっ…」 僕は呆然とテレビを見つめた。
彼は平然と事件のことを話していた。
僕のことを見ているような気がした。

事件の被害者の顔写真が出た。
吉田だ。
「うわっ…」 僕は悲鳴を上げた。
彼は自分の顔写真を見ても何も言わなかった。
僕のことを嘲笑っているような気がした。

CMに入った。
吉田が缶コーヒーを飲んでいる。
「やめろ…やめろよ…」
僕は泣きながらテレビを消そうとした。
でも、リモコンが動かない。
彼は缶コーヒーを飲み終えて、カメラに向かって笑った。
僕に殺意を持っているような笑顔だった。

目の前がぐらんぐらんしてきた。
僕は恐怖で震え出した。
何でも彼に見えてしまう。
身の危険すら感じた。

「もう許してくれ」

これは吉田の呪いか?
僕は許しを請おうと再び電話した。
やっぱり出なかった。

僕はもう神頼みをした。
「助けて神様」

すると、空から羽の生えた頭に輪っかを付けた吉田が…。
「吉田だーー!」
彼の恐怖一生終わらないのかと僕は思った。

もう僕は警察に電話した。
「今すぐ来てくれ。助けてくれ。吉田に殺される」と。

僕は暫く布団をかぶって待った。
インターフォンがなった。
ドアを開けた。

警察官の姿をした吉田だった。
もうそれは想定内だ。
そんなことより、この状況を何とかしたい。
この恐怖をなんとかしたい。
僕は今までのことを吉田顔の警察官に話そうとした。

その時だった。

警察官の言葉に僕は驚いた。

「吉田さん殺しの容疑で逮捕します」

僕はスマホを調べられ、警察官は僕のスマホで電話した。
すると、風呂場から音が聞こえる。

風呂場に行ってみると、バラバラに切られた吉田の姿があった。

それを見て、僕はすべてを思い出した。

彼が僕の彼女に手を出したこと。
彼女が妊娠していたこと。
彼女が吉田の子供だと言って自殺したこと。
彼を呼び出して口論になったこと。
カッとなって彼を突き飛ばして、運悪く彼は頭を打って死んでしまったこと。
隠ぺいしようとして彼を風呂場でバラバラに切ったこと。
それを入れるゴミ袋を買いに行ったこと。
そうだ。それでコンビニに行ったのだ。

僕はすべてを思い出した。

僕の後悔と罪悪感が吉田を見せていたのだ。

僕はすべての罪状を認めた。
そして吉田に謝罪した。
そのまま僕は警察官に連れていかれた。

その時の警察官の顔はもう吉田ではなかった。


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