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つれづれ雑記 *晴れてても雨漏りする話

 
 私の通っていた小学校は、田んぼやため池がたくさんあるのどかな田園地帯にあった。
 だが、時代だったのだろう、私が在学中、周辺は次々と宅地造成され、新興住宅地が幾つも出来た。
 当然、児童数はみるみる増えて、入学当時は4クラスだった我が学年は、4学年になる頃には40人体制で5クラスになった。
 他の学年も同様だったわけで、たちまち教室の数が足りなくなった。

 急遽、木造の現校舎の裏の溜め池を造成して鉄筋コンクリート造りの新校舎が建設されることになったが、完成するまでの間、私たち4年生は校庭の端に建てられたプレハブの簡易校舎に入ることになった。
 田舎の小学校だったので、校庭だけは広かったのだ。

 プレハブ校舎、と言っても、現在のとはちょっと違う。
 ほんとに正真正銘のプレハブ、戦後ならバラック、と言われそうな代物だった。
 壁は青い色の金属板で拳で叩くと(叩くな)、ボコンボコンと音がする。建物の強度を増すための、何と呼ぶのか知らないが、金属製の太いワイヤーが壁の外にバッテンに設置してある。
 床はコンパネのような板張り。これもドシンドシンと歩くと(ドシンドシン歩くな)、何とも頼りない音がする。

 屋根も壁も床も薄いため、断熱の効果は薄い。というか、無い。言ってみれば、ほぼ屋外。

 夏には壁は触れないほど熱くなり、冬には雑な造りのサッシ窓の隙間から風がビュービューと入ってくる。
 暑くて寒い。

 
 当然ながら当時、教室にエアコンなどはなく、冬は、部屋の真ん中に大きな石油ストーブが置かれた。
 ブリキ製の太いダクトがストーブから天井へ上がって窓の方へ伸び、外へ出ていた。窓ガラスにはダクトを通すように丸い穴が空いていて、使わないときは板で塞いでいた。
 ストーブが置かれる時季になると、それを囲んで机の配置をコの字型に並べ変える。
 私はこの席の配列が、非日常感があって好きだった。

 ストーブの上には加湿のため、湯の入った金属製の洗面器が置かれていて、いつも薄っすらと湯気が上がっていた。
 給食の時間になると、この洗面器のお湯で牛乳を湯煎で温めた。(当時、給食の牛乳は瓶だった)
 洗面器にクラス全員の牛乳はとても入らないので、温めるのは班ごとの順番になっていた。
 月曜日は1班、火曜日は2班、というように。

 牛乳を温めたあとは、ストーブの上に金網を置いて給食のパンを焼いたりもした。
 これも、時間内に全員分は焼けないので、班ごとに順番が決まっていた。
 一度、包み紙を開けたマーガリンを片手に食パンを一生懸命焼いていた男子児童が、食パンに気を取られてマーガリンをストーブの上に落とした。
 教室中に、香ばしいを通り越して焦げ臭い匂いが充満し、その日の午後はその匂いの中で授業をしたのを覚えている。


 冬はそれで何とか過ごせたが、困ったのは夏だ。エアコンはない。扇風機もない。窓を開けても風のない日は意味がない。
 しかも、夏の太陽で焼けた屋根や壁のせいで、冗談抜きで暑い、というより熱い。蒸し焼き状態だ。
 
 このままでは授業にならないと、学校側がある策を講じた。
 プレハブの屋根にホースを渡して水を流す。ホースには幾つか穴が開けてあって水を通すと、そこから出た水が屋根を伝って流れ落ちてくる。その帰化熱で屋根や壁を冷やす、というもの。

 果たして効き目はあったのか。

 ずっと水を流していたら、水道料金がとんでもないことになるので、水を流すのは10時過ぎてから。3時間目くらいになると、プレハブの薄い屋根を通してパラパラと水の流れ始める音がする。

 これを読まれている方々はおおよそ予想されることだと思うが、午前中の勢いのある夏の太陽に照らされて熱く焼けたトタン屋根にぬるい水をチョロチョロ流しても、何ほどの効果があるはずもない。
 屋根を伝って軒を落ちてくる水を手で受けると、完全にぬるま湯だった。
 バッサリ言ってしまうと、非常に残念ながら湿度が増してかえって蒸し暑かったように記憶している。

 夏のある日、午後からの授業の最中に、1人の男子児童がゴソゴソして騒ぎ始めた。
「上から水が落ちてきた」
 児童の言葉を聞いて、授業を中断した先生が天井を見ると、何とトタン屋根の隙間から水が漏れてきていた。
 雨漏り(?)だ。
 先生がバケツを持ってきて、水の落ちる下に置いてくれたが、昔の学校のバケツはブリキだったので、水が落ちてくるとカランカランパランパランと派手な音がした。
 その音が面白くて、皆、教科書の陰でクスクス笑い合い、誰も授業に集中していなかった。

 新しい校舎は翌年には完成し、私たちの学年は1年間プレハブで頑張ったご褒美か、新校舎の3階に入れてもらった。

 新しい校舎は嬉しかったが、あのとんでもないプレハブ校舎で過ごした1年も、今となれば懐かしい思い出だ。
 いや、もしかしたら新校舎よりも印象深いかもしれない。
 

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