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「光る君へ」うろ覚えレビュー《第10話:月夜の陰謀》

”吸い飲み”というものをご存知だろうか。病人が寝たまま水を飲むときなどに使うと、液体もこぼれずに飲みやすくなる容器だ。
うちのじーちゃんが最近使っているんだが、それをときどきじーちゃんは間違って”口吸い”と言ってしまう。
じーちゃん、”口吸い”はキスのことだよ・・・。
10話の道長とまひろの逢い引きシーンを見てそんなことを思った。

陰謀の前半 「プレゼンテーション」

安倍晴明のアップから始まった10話「月夜の陰謀」。
花山天皇を早く退位させて、孫の懐仁やすひと親王を帝位につけたい兼家に、彼が「策はありまっせ。わての秘策、お買いにならはりますか?」と言って「陰謀」のアイデアを出した人物だ。
安倍晴明はなかなかのビジネスマンだわ。
陰謀を決行するべき佳き日がすぐに迫ってきた。

兼家の計画は完璧だ。
決行のための役割を息子たちそれぞれに振り分け、内裏の見取り図まで用意して、動線を明確に説明して指示もバッチリ。
道隆はなすがまま、
道兼は嬉々として積極的に、
通綱はおっかなびっくり、
そして道長は全くの受け身のまま黙って従うのだ。

道隆と通綱は、歴代天皇が引き継ぐ宝である三種の神器のうちの天叢雲剣あめのむらくものつるぎ八尺瓊勾玉やさかにのまがたまを花山天皇の居所から手に入れる役目を請け負った。

花山天皇とはずいぶん近しい側近となっていた道兼は、花山天皇を時間通りに内裏から連れ出し、出家させる大役を務めることとなった。

ドラマとしては道長を悪者にしたくないのだろうが、この計画を父親兼家に反対することもなく、黙って聞いてる彼も同罪だ。
彼が与えられたのは、花山天皇の出家が完了した時点で関白の藤原頼忠に知らせる役目。陰謀の核心に関わらない地味な役回りだと思われたが、これさえも兼家の綿密な計画によるものだ。
万が一、計画が発覚して失敗した時に道隆、道兼、通綱そして父親の兼家らが責めを受けることがあっても、藤原氏存続のために道長を残しておいたのだ。完膚なきまでの周到ぶりは、さすが兼家。
道長も舌を巻いたに違いない。
ここまでやったら、あたしは兼家、ちょっと好きだわ。


こいつら全員黒。
結果論だが彼らは歴史の正解かもしれない。


男と女って。

まひろにフラッシュバックする直秀の死。
かと思ったんだが、どうやらそれは直秀を殺してしまったと後悔する道長をフラッシュバックしてたみたい。直秀が不憫だ。

そしてまた、まひろは自宅で意味深な琵琶演奏を。
だらりーん。だらりーん。
言っておくが私でも弾ける。
だらりーん。
上から下へバチを下ろすだけやん。

りらだーん。りらだーん。
はい、今度はバチを下から上ね!
これは曲? 誰か琵琶のこと分かる人、教えてください。
相変わらずメロディらしきものはない。
悪いが、私にはまひろが琵琶の名手だって勧められる自信はない。

最近鬱陶しさを増してきた乳母のいとが心配げに話しかける。
「悲しいことでもありましたんかいな?」
結局、いとはまひろを心配するというよりも、乳母として彼女が育てたまひろの弟が恋しく(彼は大学に行ってる)、また彼が出て行った後の自分の将来の方が心配だったらしい。
だって、まひろに「弟についていってもええよ」と許可を得てからは大喜びだ。もうまひろのこと心配してへんよ。

そのいとの言葉もあって、まひろは、家に戻らない父親の為時が通う女のところへ様子を見にいく。彼女は、あばら家で病身の女の世話をする父親を見て、胸が熱くなったというけれど、そう? 
昔はこの2人も遊んでたと思うよ。まひろの母親を置いておいて。
でもまぁ、平安時代とは性には寛容な時代ではある。

見たいような、見たくないような父親の恋?

一方まひろも道長との文の交換に忙しい。
和歌を送る道長に対して、漢詩で返すまひろ。
その意味に戸惑う道長だが、漢詩は決意を物語るものだと我らが藤原行成に言われて、なんとなくわかったらしい。
そこで、道長は「あんたに会いたいんですわ」と漢文で決意を表明。

そして2人が、月夜に逢い引きをする。
もう、道長ったら登場していきなりまひろをバックハグ。
そしてそのまま熱い口づけへ。
いやもう、目のやり場に困りましたな、わっはっは。
はっきり言って、歴史ライターのあたしは、キスとか口づけなどという単語を仕事で使うことはまずないですからな。まぶしい。

それからは道長は
「都をでて海の見える国へいかへん?」
と。
ええー! それは直秀のセリフそのまんまやん。
てか、陰謀計画どーすんの?
あんたは関白に知らせる役目のはずじゃ・・・。
結局まひろは道長のことを大好きと言いながらも、少し冷静だった。
彼女は道長に、直秀のような人を助けることのできる政を行うために藤原に、そして都に残るべしとして説得。

まひろの言葉に抵抗する道長だが、悲しみながら帰るのかと思いきや、ちゃんとまひろとやることはやりました。フルコースね。
その後は、
「送ってったろか」
うーん、なんか普通のカップルやな。

ここまでの書き方でお分かりだろうが、あたしはNHK攻めてるなぁとは思ったが、あまりまひろ&道長にはきゅんきゅんしませんでした。
なぜだろうか。
設定として、まひろと道長がすでに両思いなのはわかるのだが、あたしの気持ちがついていっていない。
いつのまにか彼らがすごく盛り上がっていて。
あたしがまひろの気持ちになって、道長に惹かれるとか、2人を応援しようとか思わせられるようなきゅんとするポイントがないんだもん。
まひろの相手が直秀だったら、うっはー、って鼻息も荒くなるが。
これから道長とまひろはこんな形でお付き合いを続けるのか。
平安時代に不倫という言葉は存在しない(多分)。

まひろ&道長。なかなかの湿度でしたね。
ところで、この場所どこ?

「人は幸せでも悲しくても泣くで」とまひろは言った。
で、あたしは反応した。
「じゃぁ、直秀が死んだときそんなに悲しくなかったん?」

陰謀の後半 寛和の変

月夜の陰謀が動き出した。
キョドっていた道綱も道隆と共になんとか役目を果たした。
道兼は花山天皇を納得させ誘導し、ひと目をかわしてまんまと天皇を元慶寺へ連れて行く大役を無事果たした。
気にはなっていたが、やはり本郷奏多くんつまり花山天皇は、剃髪してつるっつるに。
あー、やっぱね。出家するんやもんね。
随分思い切ったね。
そして次は一緒に出家する約束の道兼が剃髪する番、と思いきや、ドヤ顔でこう言うのだ。
「おそばにお仕えし、楽しゅうございました」
そしてその場から去るのである。
騙されたとようやう気づいた悲劇の花山天皇は顔色を変えて叫ぶ。
「裏切り者!」

「おそばにお仕えし、楽しゅうございました」
あのときの道兼の表情ったら。
まひろが言った「道長大好き」より痺れる言葉にグッときて、堪能しました。

喜ぶ一休さん、ではない。
(驚きと怒りで叫ぶ花山天皇でえす)

一度は藤原を捨て、都を出ようかとしていた道長も、しれっと関白に花山の出家を伝える役目をクリアした。全ては兼家の計画どおりだ。

藤原兼家が花山天皇を欺いて出家させ、孫を天皇にする道を開いたこの事件を「寛和の変」という。

さて、なぜ花山天皇の出家がこうも人々を驚かせ、必死にさせるのかというと、天皇の親戚が利を得るというだけでなく、関白や蔵人頭などの令外官は、その時に在位している天皇が指名することになっている役職だったからだ。
つまり、花山天皇の関白だった藤原頼忠も、蔵人頭だった藤原実資もお役御免となり、新たな天皇に指名される者がそれらの重要な役職に就いて政界に影響力を持つことができるからである。
そして次の蔵人頭として藤原実資の前に現れたのが、花山天皇を騙して出家させた我らがヒール藤原道兼。
クビになった蔵人頭の実資は驚きの表情。

日焼けで黒光りのロバート実資

今話も、前話に続いて刺激的な回だった。
つるつるになった花山天皇も可哀想だし、確かに道長&まひろのラブシーンも大河に珍しくドキドキものだったが、あたし的には兼家の企画力と実行力、そして息子の道兼のドヤ顔「楽しゅうございました」に満足したよ。
なんだかんだ言って「光る君へ」好きだもの。楽しんでやる。

藤原行成豆知識
行成は和歌にあまり興味なかった/苦手だったという逸話がある。
『大鏡』には、宮中である和歌について感想を聞かれたときに、「さぁよくわかりません」とそっけなく答えて、その場をしらけさせてしまったことがあったと書かれている。
だから、10話で道長が行成に和歌と漢詩による文について相談したとき、道長ったら聞く相手が悪いよ、と思ったのである。

*もし来週、レビューをスキップしたらごめんなさい。