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【短編】 人形の国

 人形の国は、城壁に囲まれた都市国家だ。
 城壁の入口には槍を持った門番が二人いて、その傍らにいるメガネを掛けた男が、私に質問をする。
「我が国に入国する目的は何ですか?」
 はあ、旅の途中に寄っただけで、特に目的なんて。
「ようするに旅の宿を求める目的ですね。まあ、許可しましょう」
 あのう、とても失礼な質問かもしれませんが、あなたも人形なのですか?
「ははは、わたしはただの人間ですよ。他の門番もね」
 いやあ、人形の国だって聞いていたからみんな人形だとばかり。
「まあ、そう勘違いする人も多いですけど、この国のほとんどは普通の人間で、人形の人は人口の一パーセントぐらいで……」
 
 城壁の中に入って、無事に宿を見つけてホッとしたが、メガネの門番が言っていた人形の人って一体何者なのかがとても気になった。
「まあ人形の人っていうのは、わたしらみたいな普通の人間を支配している領主様のことさ」
 宿の女将に質問すると、さも当然のように答えを返してくる。
「人形の領主様は、わたしらを平等に扱って下さる。だからぜんぜん不満はないよ」
 でも人形に支配されるって嫌じゃないですか? 私は何だか気持ち悪いですね。
「あ、あ、あんたそんなこと言ったら殺されるよ! やっぱり出てっておくれ! あんたみたいな無法者を宿に泊めたら、あとでどうなるか……」
 
 私は宿を追い出され、他の宿にも私の情報が伝わったらしくて、どこも泊めてくれない。
 日が暮れたあと、街の広場にベンチがあったのでそこで横になっていたら、突然、頭がキラキラ光っている少年が話し掛けてきた。
「そんなところで寝ていたら、風邪をひくよ」
 私は、この国の変な事情で泊めてくれる宿がないから仕方なくこうしていると説明した。
「だったら、うちに来ればいいよ」
 まあ、変な少年だけど、野宿するよりはましかと思って少年について行った。
 
「お帰りなさいませ、お坊ちゃま」
 少年に連れて行かれたのは、まるでお城のような場所で、貧乏旅の私にはずいぶん場違いだ。
「僕は人形の人だから、街の人たちが警戒してまともに話ができないけど、君は僕と普通に会話をしてくれた。だからそのお礼をしたいだけなんだけど、迷惑だったかな?」
 いえいえ、私はただの貧乏な旅人で、迷惑も何も……。
「僕はね、人形の人と、人間が普通に話せるようになればいいと思っている。でも僕の言うことを、人形の人も人間も、誰も理解できないんだ」

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