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【短編】 コンビニにはもう行かない

 十年ぶりにコンビニに入ったら、出口が分からなくなった。
 私は、トイレの用で入ったのだけど、何か買わないと悪いと思ってビスケットを探していたら迷ってしまった。
 三十分うろうろしても誰とも出会わないので、どうしたものかと悩んだ末、私は携帯電話でコンビニの電話番号を調べて掛けてみることにした。
 
「はい、ファイブトゥエルブ○○店です」
「あの、今店内にいる者ですが、何というか、その迷ってしまって……」
「ああ、遭難者の方ですね。本社のほうへお繋ぎしますので……」
 意外とあっさりした対応で拍子抜けしたが、遭難者って何?
「お待たせしました。本社の遭難対策課の岩垣と申します。今回は大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません。さっそくですが、店内の天井や床に〈A20〉などの位置情報が記されているはずなのですが?」
 天井をよく見ると、〈Z56〉と書かれている。
「うーん。〈Z56〉は、まだ把握していない未知の領域でして、まずその領域を探すことから始めなければならないため、いつ助けに行けるのか……」
 は、はあ、そうなんですか。
「とにかく、店内にある商品を使って何とか生き延びて下さい。何を食べたり使ったりしてもOKですから」
 正直、馬鹿げているし文句も言いたかったが、現状では、ただ助けを待つしかなさそうだ。
 
 店内にはなぜかベンチが置かれていたので、眠くなったらそこで丸くなって眠った。
 目が覚めると、やっぱりコンビニの店内にいることに絶望するという日々が続いたが、一週間ぐらいすると、食べ物があるだけでまだましかもなと思えるようになった。
 弁当や総菜はなぜかいつも新鮮だし、トイレや洗面所も近くにあるから、ただ生きるだけなら困らない。
 
 数カ月後、私は、コンビニある商品を使って自分の国を作ろうと思った。
 国と言っても、コンビニにあるいろんな素材を使ってジオラマのような模型を作るだけだが、他にやることがない。
 ビスケットやキャラメルは街の建物を作るのに使えるし、ペンや鉛筆はそのままミサイルになるし、ストッキングは切って広げると国を外敵から守る防壁に……。
 
 十年後、やっと、コンビニの天井から救助の人が現れた。
「あなたは、遭難者の○○さんですね。しかし、このゴミが広がった惨状は何ですか?」
 いや、ゴミじゃなくて国ですよ、国。
「国?」
 あなたは、私の国に土足で踏み入ったので死刑ですが、まあ今回だけは特例で……。

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